66 霧島の受難
秋学期も始まり、しばらくすると、大学の中にお祭りムードが漂い始める。
そう、つまり学祭の季節だ。
今年の学祭は、霧島はひとみと回るつもりでいる。
「今年の学祭楽しみだね。」
「ね!なんかお祭りが近くなると浮ついた気持ちがする!
彼氏がいる状態でお祭りちゃんと回るの初めて!」
ひとみも楽しみにしてくれているようで何よりだ。
霧島とひとみは現在どこのサークルにも所属しておらず、学祭は純粋に楽しむ側の人間となる。
まだかまだかと思うと意外と遠いもので、やっと学祭の日がやってきた。
その日、2人はちょっとおしゃれをして大学にやってきており、衆目を集めていた。
霧島は高身長で、最近体を鍛えていて程よく筋肉がついており、また顔の作りはもとから悪くない。
そこにお金の力で良いものを身につけ始め、霧島の近くのセンスの良い人間 (主にひとみとエマ)があれやこれやと口を出すものだからかなりセンスの良い、妙に色気のある大学生?が出来上がっている。まるでサファリやらレオンやらにのっているモデルのようだ。
大学生御用達雑誌によく掲載されている、ヒョロガリモデルモドキとは格が違う。
一方ひとみは、その美貌がすでに暴力的輝きを持っている。
ひとみが着れば、しま◯らだろうとユニ◯ロだろうとプラ◯だろうとシャネ◯だろうと関係ない。
しかし、幼い頃から磨かれてきたセンスが服装その他を適当に済ませることを許さずにその輝きをさらに増幅させている。彼女を見た大学生達はもはや同じ大学生には見えない。
実年齢よりは2人とも少し年上に見えることから若い裕福な夫婦のように感じられる。
周りから羨望の眼差しを一身に受ける2人は大学祭を順調に回っていく。
演劇部の出し物を見たり、バンドサークルのライブを見たり楽しい時間をすごした。
するとひとみのことを呼ぶ声がした。
どうやらひとみの女友達に呼ばれたらしい。
2人でいってみると、どうやらひとみが3年次から所属したいと考えているゼミの教授が阪大で開催する学会の準備が間に合わず、今日1日だけの手伝いを探しているらしく、一緒に行かないかとのこと。
「行ってきていいよ!むしろ良い経験になるんじゃない?」
「ほんと?ごめんね…
終わったらすぐ連絡するから!
埋めあわせとしてご飯おごります!!」
「わかった、待ってるね!」
霧島は若干の寂しさを感じたが、これもひとみのためだと割り切り、笑顔で送り出した。
ひとみがいなくなったので、手持ち無沙汰になり学内をぶらつき始めた。
学祭が行われているキャンパスは普段のひとみと霧島のキャンパスとは異なる。そのため、知り合いも少なく本格的にすることがなくなってきた。
すると霧島に声をかける人物が。
「あれ、霧島?」
「ん?おぉ!廣田!」
霧島に声をかけてきたのは廣田という理学部に所属する学生だった。
霧島とは一年生の時の一般教養の授業が同じで、たまたまよく話すようになり今でも細々と交流が続いている友人の1人だ。
「どしたん、今日1人?」
「いや、彼女さっき送り出してきて再合流待ち。」
「彼女!?!?かぁー!いつのまにそんな!」
「いや結構最近といえば最近やけど。」
「だれ?」
「結城ひとみって子。」
「それめっちゃ有名なやつじゃん!彼氏お前かよ!!!」
「まぁそうね。笑」
2人がわちゃわちゃと話しているとさらに声をかけてくる人物が。
「廣田せんぱぁーい、なにしてるんですかぁー?」
「おぉ、島田ちゃん。今久々の友達と会ってね。霧島、こいつはサークルの後輩の島田真衣ちゃん。」
「こんちは。」
「霧島さんっていうんですねー。こんにちはぁー。」
俺はこいつ嫌いなタイプだな、と一目でわかった。
間延びした話し方と、ヘラヘラした笑顔、独特のだらしなさを感じる風貌、全てが霧島の好みではない。
そして、こいつは嘘つきだと思う。
おそらく俺のことをすでに知っている。
なぜなら、俺が廣田と話している時に少し離れたところからこちらを伺っていおり、話に割り込むタイミングを測っているようだったからだ。
それと、なによりも、俺を見る彼女の目が好きではなかった。
最近、俺のことが大学の中で、相当金を持っているやつだと噂になっているらしい。
その噂を聞いた時は、どおりでよく学内のイケイケのグループに属する女から声をかけられるわけだと納得した。
その声をかけてきた女たちと同じ目をしている、この島田という女が好きにはなれなかった。
「せんぱぁーい、暇なら一緒に回りませんかぁー?霧島さんもご一緒に!」
「そうだな。霧島はどうする?」
「いや、俺は大丈夫よ。」
「えぇー!一緒に回りましょうよぉ〜」
お前がいるから嫌なんだよ、と思いつつ、廣田の手前あまりこの厚意を無碍にするのもよろしくないと思い渋々ながら承知した。
しばらく3人で回って気がついたが、この島田という女はやたらとボディタッチが多い。
明らかに誘ってきているのが丸わかりだ。
客観的に見ると、島田は可愛い系の顔立ちをしており男ウケが良さそうである。本人も十分それをわかっているようで存分にその力を発揮してくる。
しかし相手が悪かった。
霧島には彼女がおり、その彼女と島田を比べると全てにおいて彼女が勝つ。
天と地ほどの差があることは歴然である。
そんな彼女であるひとみとほぼ毎日暮らしている霧島からすれば、島田の誘惑は迷惑以外の何物でもない。
島田も、自分の魅力が毛ほども通じていないことに気づき、イライラし始めている。
「そういえば、霧島ってなんか羽振り良くない?
今日の格好とかえらいキマっとるやん?」
「まぁそれなりに頑張って稼いでるからね。」
「お!すごいやん!なんのバイト?」
「ギャンブルギャンブル笑」
嘘は言ってないし、廣田も冗談と思っている様子で和やかムードだったがそれを壊す女がこの場にはいる。
「えー!でも霧島さんが身につけてる時計ってロレックスっていうやつじゃないんですかー?
すっごい高いやつってききましたよー?」
「あぁ、これ貰い物だから。形見みたいなもんよ。」
「えー、すっごーい!そいえばこの前大学広報にのってたのって霧島さんですかぁ?ゴルフの大会優勝したのって!」
「まぁそうだね。」
「すっごーい!ゴルフってお金持ちじゃないとできないんですよねー?」
「いやそんなことないよ。」
「それでもすごいですよー!だって手に持ってるクラッチもフェンディじゃないですかー!」
ここで霧島の服装について説明しておく。
全体的なスタイルとしてはジャケパンスタイルで、ジャケットはグッチ、インナーはザラのシャツ、11月に入り少し寒い日だったので首元にはエルメスのストールが巻いてある。
パンツは白のバレンシアガのデニムで、少しロールアップしており、靴はあえてニューバランスのスニーカーを履いて全体のハズしとしている。
霧島は荷物が多い状態を好まないため、フェンディのクラッチバッグを持っており、その中に携帯と財布とタバコを入れている。
クラッチバッグのブランドを言い当てられた時霧島はやばいと感じた。
服のブランドがおそらく全部知られていると思ったからだ。
霧島が持っているフェンディのクラッチバッグはあまりフェンディフェンディしておらず、しかもメンズものなので、女の子にブランドがバレることはあまりない。バレる時は相手が相当詳しかった時だ。
「まぁ、これもプレゼントでもらったものだから。
てか、よくフェンディってわかったね?」
「私ブランド品好きなんですよぉー」
こいつの嫌いなところがまた1つ増えたと思った。
ブランド品が好きなのは構わないがそれを喧伝して歩く奴は好きじゃないのだ。
「霧島さんってすっごいお金持ちなんですね!」
「いや、まったくそんなことないから。」
「やっぱり霧島羽振りええやん!」
霧島にとっては全く面白くない時間を過ごしたが、その面白くない時間はさらに続く。
「あ、俺そろそろ店番戻るわ。」
廣田が自らのサークルが出店している店の店番に戻ると言い出したのだ。
サークルの後輩の島田も連れて帰ってくれるのかと思いきや、島田はじゃ私の分まで頑張ってくださいなどとほざいている。
「こいつは?」
「島田ちゃんは店番もうすんだよ。だから今日はもう自由行動。」
「そうなんですぅー。」
霧島はため息をつきたい気持ちでいっぱいだった。
廣田とその場で別れると、俺は帰りたくなって駐車場の方に向かい始めた。
すると島田もついてきて
「ちょっとお出かけしませんか?」
と言ってきた。
絶対嫌だよと思いつつ
「どこに?」
と聞いてあげる優しさを霧島は持つ。
「ちょっとデートしましょうよ!」
「絶対嫌だよ。てかさぁ、俺彼女いるからそういうの無理。」
「えー!大丈夫ですよぉ〜。
友達同士で遊びに行くだけじゃないですかぁ〜」
「いや本当にそういうのいいから。」
「なんでそういうこと言うんですかぁ〜
私のこと嫌いなんですかぁ〜?」
内心で嫌いだよと思いつつも
「そんなことはないけど、しつこい人はあまり好きじゃないかな。」
と言った。
「……なんなんですか?」
霧島は島田の雰囲気が変わったことに気がついて、地雷を踏んだかもしれないと思った。
「こっちがせっかくアプローチしてるのになんで無視するんですか?
男は嬉しいでしょ?
私みたいな可愛い系の女の子に迫られて悪い気なんかしないでしょ?」
島田のその物言いに少しカチンときた霧島は言い返してしまった。
「少なくとも俺は嫌だね。」
「なんなんですか本当に…。
その済ました態度がいちいち癇に障りますね。
あんたの彼女より私の方が可愛いでしょ?
その私が遊んであげるって言ってんだから遊びなさいよ。」
「いや、少なくともお前よりはうちの彼女の方がよっぽど可愛いし美人だし綺麗だね。
というか、彼女がいなかったとしてもお前みたいなやつはこっちから願い下げだから。」
そう言い切ると霧島は車に向かう。
霧島はこの言い争いが駐車場に停めた自分の車のほど近くの人気がないところで良かったと思った。
「待ってよ!なんで置いてくの!?ねぇ!」
霧島はそれを無視して素早くLXに乗り込み、助手席に乗り込まれないように鍵をかけ、エンジンをかける。
島田は案の定助手席の方に回り込み乗り込もうとするが鍵がかかっている。
ドアが開かないと見るや運転席の方に回り込んでくる。
「ねぇ、乗せてよ。」
「金で男のこと見るやつって大嫌いなんだよね。」
「別にそんなんじゃないし。」
「てか俺がさ、誰と付き合ってるか知ってる?」
「え?何いきなり。しらないし。」
「結城ひとみね。わかるでしょ?」
「え…うそでしょ…?」
もしめんどくさい女の子に絡まれたら私の名前だしていいよと言われていた霧島は、いざ出して見ると、ひとみの名前ってそんな効果あるんだ…と怖くなって内心ちびりそうになった。
「本当だよ。なんなら今から呼ぼうか?」
「もういい。最悪。帰る。」
あのめんどくさかった女がこんなにすぐ方針転換するほどにひとみの名前の威力があると言う事実に驚愕した。
すんなりと島田が帰ってくれたので、霧島はドライブがてら兵庫まで車を走らせることにした。
実は無類の甘い物好きの霧島は兵庫の西宮までパンケーキを食べに行くことにしたのだ。
西宮にはフレーバーティーで有名な紅茶屋さんの本店があり、そこにはカフェも併設されてとても居心地が良い空間となっている。
いやなことがあった時は、霧島はよくそこに通っている。
大学から1時間と少しで店に着き、駐車場に車を停め店に入る。
「いらっしゃいませ、霧島さん。」
そう言って馴染みの店員さんがカウンターに案内してくれる。
ここでは霧島はロイヤルミルクティーとパンケーキを食べることにしている。
程なくしてパンケーキと紅茶が届けられて一息つく霧島。
「なんかいやなことでもあったんですか?」
と、店員さんが聞いてくれたので、今さっきあったことを話す。
「うわぁ…って感じですね。笑」
同情までしてくれ、新しい新作の紅茶のミルクティーをサーブしてくれた。
ちなみにこの店は紅茶を飲みきると次から次へと紅茶を注いでくれる珍しいタイプの店だ。
「ありがとうございます。」
そう返事をしてゆったりとした充実した時間を過ごした霧島。
すると携帯にひとみから連絡がきた。
あと2時間ほどしたら終わるとのことだ。
霧島は会計を済ませ、大学まで車を走らせひとみを迎えに行く。
約束の時間よりは少し早い頃にひとみが研究棟から出てきて、霧島の車を見つけると手を振りながら歩いてきた。
「おまたせ!
ありがとね、行かせてくれて!
今日は腕によりをかけて手料理作ってあげるよ!!!」
「お、めっちゃ楽しみ!!」
先ほどまでのいやなことは忘れて、その日の残りは幸せな時間を霧島は過ごしていく。
ちなみにひとみの手料理はめっちゃうまかった。




