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そして翌日の朝。
「俺カジノ経営することになった。」
「アサイーボウル吹いた」
霧島はひとみに事の顛末を報告した。
カジノで爆勝ちしたこと。
それでそのカジノの経営権を獲得したこと。
そのため、自分がサンズの役員になったこと。
その話題が客を呼び、その日の売り上げは過去最高額になったということ。 (霧島の4600億円は除いて。)
その結果、月に何度かはマカオに行くことになったこと。
そのために関西国際空港に霧島専用の飛行機ビジネスプライベートジェットが用意されたこと。
そのプライベートジェットに乗れる人数であれば友達を何人連れて来ても良いと言われたこと。
絶対に留年しないでくれと言われたこと。
ベネチアンマカオのオーナー専用スイートが霧島専用スイートに変わり、事務所兼家として使って欲しいと言われたこと。
全てを伝え終わった時、ひとみは霧島にこう言った。
「自分が思ってたよりだいぶことが大きくなってしまった件について。」
「それな。」
そして、2人で相談した結果、ひとみもバイトを辞め、霧島の秘書として、共に土日はマカオに行くことになった。
「ま、まぁ、私の見込んだ男として当然よね。」
「だとすると君にはサンズグループ全体の人事を統括してもらいたいのだが。」
「すいません、勘弁してください。」
こんなやりとりがあったとか、なかったとか。
ひとみに連絡し終わった後、霧島はリッツをチェックアウトした。
その時に担当してくれたのはもちろんハマーGMで、終始苦笑いだった。
チェックアウトを済ませた霧島はそのままベネチアンマカオに向かい、自分が住む部屋に入った。
ホテルのフロントで、部屋の鍵をGMから渡されたが、そのGMももはや苦笑いしかできない様子だった。
霧島はとりあえずカジノ側のGMと、ホテル側のGM、そしてベネチアンマカオの経営幹部を部屋に招き、経営会議を行った。
そこで霧島は挨拶と、これからの行動指針、経営目標、変えて行くべき点などを適当に述べ、それらを各自行動に移すように告げた。
霧島の部屋に入る時の呼ばれたメンバーの顔は皆どこか霧島を下に見る、見くびったような顔つきだったが、数時間後の部屋から出てくる時の顔はなぜか神でも見て来たかのような顔だったという。
そしてなぜかその経営幹部たちは生き生きと行動するようになり、そのやる気に当てられた部下たちもなぜか生き生きと行動するようになり、ベネチアンマカオの収益も日を追うごとに爆上げされていった。
この時ばかりは、当の霧島も首をかしげることしかできなかったが、良い方に転がりだしたのならまぁいいかと軽く考えていた。
会議で幹部たちと様々話し合ったあと、自分のことについても話し合うこととなった。
その結果、この部屋は好きに使って良いということと、出勤時間も自由にして良いとのこと。
経営側も霧島も何かあれば電話ですぐに連絡するということが決まった。
そして、霧島が自分にはすでにひとみという秘書がいると伝えると、じゃあ会社からも秘書を1人、そしてホテル側、カジノ側からもそれぞれ1人ずつの計3人を秘書につけてくれと言われたので、霧島もそれを了解した。
また、ホテル内にはいてもいなくても良いし、自分の仕事を任せる人間を個人的に雇っても良いということが決定された。
そして各自解散したあと、会社から割り当てられた自分の秘書にとりあえず自分の仕事用のスーツを買っといて欲しいというと、秘書は、わかりましたといいどこかに連絡した。
10分もたたないうちにグッチ、ダンヒル、ラルフローレン、ブルックスブラザーズ、ブリオーニ、ゼニア、ジョルジオアルマーニ、プラダ、バレンシアガ、トムフォードの担当者がやってきて、霧島の体のあちこちのサイズを測り去っていった。
「今のは?」
「ボスのスーツを作りに行きました。
1ヶ月もかからずにこの部屋のウォークインクロゼットの1つはスーツで埋まると思います。
シャツやベルトも注文しておきましたので、来月あたりからは手ぶらで日本から来ていただいて結構です。
ちなみに靴はジョンロブがお好きだと伺いましたので、日本でボスが注文した靴と同じものをご用意し、それに加えて私がセレクトした靴をいくつか注文しておきました。
ジョンロブはオーダーメイドで靴を作ると、オーダー時に測ったデータから作った木型をずっと保存しておいてくれるのでありがたいですね。」
霧島はポカンとしていたが、気を取り直し、秘書に礼を伝え、自分は部屋を充実させるために買物に行ってくると伝えた。
秘書はかしこまりました。と言うとクレジットカードを霧島に渡した。
「このカードはボスのカードです。
マカオで使うものでしたら、こちらのカードをお使いください。
個人的なものも、ボスは一昨日勝った20億円を会社の経費にと回してくださいましたので、20億円まででしたら利用可能です。」
もはや霧島は空いた口が塞がらなかったが、貰えるものは貰っておこうと考え受け取った。
するとカードの重さと質感がプラスチックとも、チタンとも異なることに気がついた。
「これ何カード?」
「サンズグループが契約しておりますプライベートバンクのクレジットカードです。
材質はマジックゴールドでできております。
ウブロの時計のあの傷がつきにくい謎金属のやつです。」
「プライベートバンク。」
霧島はもはや自分の理解の及ばないところで話が進んでるんだなと思い、そのカードをルイヴィトンのチビ財布に突っ込んだ。
「現金持ってないんだけど、どっかある?」
秘書「昨日の勝ち分の1億香港ドルが奥の部屋に現金でございます。香港ドルばかり持っていても不便だと思いましたので香港ドルが4000万香港ドル、残りを米ドルで500万ドル、ユーロで60万ユーロ、日本円2億円それぞれご用意致しております。」
霧島はもう考えることをやめた。
霧島はそこから40万香港ドルを抜き、フェンディのクラッチバッグに詰め込んだ。
そして部屋の鍵を忘れずに持つと、買物に向かった。
とりあえずマカオでの足を手に入れよう。
そう考えた霧島は車屋へと向かった。
霧島は、今回車を買うにあたって条件をつけた。
街乗りに向いていることである。
変にスーパーカーなんぞ買ってしまうと、うるさいし、サーキットを走らせるわけでもないため性能を持て余してしまうと結論付けたのだ。
そして、やってきた車屋がこちら。
メルセデスベンツである。
結局丈夫で、乗りやすく、パッと見てラグジュアリーで、役員が乗ってても違和感がない車といえばこれである。というか、むしろこれしかない。
そう考えて霧島はメルセデスベンツにやってきた。
霧島のなかで買う車はもう決まっている。
それはAMG G63ロングとAMG GT Rである。
店に来るなり、霧島はディーラーにこう言い放った。
「G63ロングとAMG GT Rをください。」
GT Rはスーパーカーじゃねぇかという意見は聞いていない。
GT Rの競合車はポルシェ911なのでスーパーカーではなくスポーツカーであるという、霧島の謎理論がそこには深く影響を及ぼしたとだけ説明しておこう。
カーディーラーは最初意味がわからないという顔で霧島の顔を見ていたが、カジノで大勝ちしたということを伝えると、合点がいったという表情になり、この度はサンズグループへの経営参画おめでとうございますと言われた。
霧島としても、話が早いなと思っていたので、あえて深くは追求せず、マジックゴールドカードで決済した。
金額はもはや見ていない。
両方装備できるものは全て装備したので、たぶん合わせて5千万円くらいだろうというのはわかった。
ディーラー曰く、2〜3週間で納車できるとのことなので、車が到着次第、ホテルに持ってきてくださいと霧島は伝えた。
そして次にどこに行こうかと考えた霧島だったが、ここ数日でめぼしいものはほとんど買ってしまったし、なにもすることがないと気づいた。
そして、ホテルに帰り、秘書に車を二台買ったからホテルの駐車場を2台分貸して欲しいと伝えると、秘書はお安い御用ですと笑顔で請け負ってくれた。
そして、霧島は秘書に、ビジネスジェットはプライベートで使っても良いのかを尋ねた。
「ほんとはいけませんけど、ボスが個人で会社から借りれば自由に乗っていただいて構いません。
ちなみに会社から借りる場合、レンタル料がかかりますが、そのレンタル料を払うのも受け取るのもボスです。」
「じゃあいいってことじゃん。」
「会社としてはなんとも…笑」
「ちなみにどこまでいけるの?」
「基本的には上得意様と経営幹部の移動用に運用している飛行機なので、かなり大きい飛行機です。
具体的な機体名を申しますと、長距離用にボーイング747SPを二機と767-300運行しておりまして、あと他には中距離用の小さい機体を何機か。という感じですね。」
「ジャンボジェット3機とは恐れ入るね…」
ちなみに今日か明日モナコまで行きたいんだけどなんとかなる?」
「モンテカルロまでですね、確認してみます。
…………ちょうど明後日フランスのニースまでお客様をお迎えに行くみたいなので、明日コートダジュールまでならご利用できますよ。
空荷で行くのももったいない気がしますし、乗られますか?」
「それは運がいいね。
是非お願いします。」
「かしこまりました。
機体は747で、さらにお一人なので相当さみしいかと思いますが、快適な空の旅を。」
「きついなぁ〜
でも中も手を入れてあるんでしょ?
暇はしないよね、たぶん。」
「相当手を入れてますね。
そもそも世界中のセレブをお迎えする飛行機ですので、エコノミークラスは無駄でしかありませんから。
高級ホテルのスイートルームが空を飛んでいると思って頂けたら、だいぶ想像に近いと思います。
モナコまでということですが、よろしければ通訳として同行しましょうか?」
「その辺の合理的なところはアメリカンだね。
いや、フランス語忘れないようにする意味でも行くから、あえて今回は1人で行くよ。
そもそもモナコ英語だいぶ通じるしね」
「フランス語も話せるのですか!?
でしたら大丈夫そうですね。
モンテカルロでの武勇伝をお聞かせいただけるのを楽しみにしておきます。
モナコから帰る際も連絡をいただければ、飛行機があるかどうかお調べいたしますので。
フランス便とラスベガス便、ドイツ便、イギリス便、日本便と中東便はかなり高頻度で飛んでおりますので、是非ご遠慮なくご連絡ください。」
「ありがとう。
帰りの時も是非利用させてもらうよ。
大学の必修の第二外国語をフランス語にしたからね。
そこでかなりハマっちゃってフランス語検定も取っちゃったよ。しかも1級。」
「すごいですね!
私も日本人のボスの下で働くのですから日本語を勉強して少なくとも聞く話すくらいはできるようにならないとですね。
ちなみに私のフランス語聞き取れてますか?」
と秘書が試すようにフランス語で霧島に問いかけた。
霧島は試されているということをちゃんと感じ取り、フランス語で返す。
「ケベック訛りが強いですね。
しかもトゥルーズアクセントも混ぜてるでしょ。
確かにトゥルーズ方言はかっこいいですけど、そういう、人を試すようなマネはあまり好きではありません。」
霧島は北部アクセントの癖の少ないフランス語で答えた。
「すごい!
びっくりするほどアクセントがありませんね!
これは語学に関しては私の出る幕はないかもしれません。」
ちなみに、フランス語においてアクセントが無いというのはかなりの褒め言葉である。
一般的にアクセントが無いフランス語が一番綺麗なフランス語とされている。
「いや、実はどうしても中国語と韓国語が苦手で…。
あと英語もクイーンズイングリッシュは何度聞いても慣れないんだよ…。
スペイン語はなんとか日常会話くらいならなんとかなるけど、ドイツ語はもうほんとに全然わかんないんだよね…。」
「カジノ側から派遣されてる彼は英語と中国語と韓国語が堪能ですよ。
ホテル側から派遣されてる彼女も英語と中国語、あとスペイン語が堪能ですね。
ちなみに私は、英語、中国語、韓国語、フランス語、ドイツ語、イタリア語は問題なく使うことができます。
スイス生まれなもので。」
スイスは国内でドイツ語圏とフランス語圏とイタリア語圏に分かれており、公用語もその3つに加えレトロマン語があるため、国民のほぼ全員がマルチリンガルである。
「才媛だねぇ。
君のその素晴らしい能力をもっと活かせるように力を合わせてこれからも頑張っていこうね。」
霧島はフランス語でそう締めくくると、秘書に明日のフライトに同乗させてもらうように頼んだ。
「そいえば、自己紹介まだしてもらってないけど、ひと段落ついたし、ついでだからしてもらっていい?」
「そうですね、では改めて。
エマ・マグダネルと申します。
大学はハーバードで、ホテルマネジメントを学んでいました。
趣味は旅行。チャームポイントは祖母譲りのプラチナブロンドの髪。年齢は27歳。誕生日は9月24日。
身長は168cmで体重は最近太ってきたので言いたくありません。
スリーサイズは上から94…
エマの声を途中で遮る霧島。
「最近のスイス人の女性はかなりプライベートなところまで自己紹介されるんですねぇ!
そんなセクハラまがいのことをするつもりはありませんので!」
「スイス女は、思い人に彼女がいるからといって諦めるような女ではありませんので。
そもそも私浮気容認派ですし。
浮気も本気も両方に愛があればそれは純愛ですから。
モテるというのは男性として優れている証。
私は何番目でも愛してくださるのでしたらいつでも構いませんよ。」
エマはそういって、美しいプラチナブランドの長い髪をかきあげながら、霧島にウインクを投げてよこした。
「私は浮気をするつもりはありません。」
霧島はエマの美しさに、ぐらっときたが精神力で押さえ込んだ。
「私としても、ボスがそんなにすぐ落ちちゃったら面白くありませんから。」
エマは霧島をからかっているようだ。
どこまでが本気でどこからが冗談なのか、霧島は全く分からなかったが、ひとまずは仲良くなれたので良しとした。
「ちなみにご宿泊はどちらにされるご予定ですか?」
「カジノ行きたいんだけど、おすすめある?」
「じゃあオテルドゥパリモンテカルロですね。」
「やっぱそこだよね。予約しといてもらってもいいですか?
あとカジノモンテカルロで気をつけることは何かありますか?」
エマ「かしこまりました。
モンテカルロはモナコ最古のカジノですから当然ドレスコードがあります。舐められない格好で行くことと相手に失礼のない格好で行くことですね。
むしろタキシードくらいフォーマルじゃないと浮きます。
マカオもラスベガスもドレスコードはあってないようなものでしたが、モナコではそれが伝統として息づいています。」
霧島はタキシードがまだ届いていないことを悔やんだ。
「タキシード買ったんだけど、フルオーダーで作ったからまだ届いてないんだよね。」
「いつどこで買われましたか?」
「東京のブリオーニで8月の頭頃かな。」
「急がしましょう。
型紙はもうできているはずです。」
エマは自身のスマートフォンでどこかに連絡し始めた。
「オテルドゥパリのお部屋のクローゼットの中に届けておいてくれるようです。
その代わり他の注文したものは少し遅れるみたいですけどよろしいですか?」
霧島としては是非もない。
「それで頼みます。」
霧島は完成時間が約半分近くまで短縮されたことに驚いていた。
エマは、それでは委細お任せくださいと霧島に告げると、どこかへ去っていった。
仲良くなれたみたいだし、モンテカルロのホテルも予約できるみたいだし、明日の出発まで暇だな。
どっか行くか。
霧島は現金といつものセットが詰まったクラッチを持って部屋を出た。
どこへ行こうかねぇ。
霧島はお土産でも選ぼうかということでベネチアンマカオの中にあるアジア最大のDFSに向かった。
DFSに入ると霧島はエルメスを見つけた。
そういえばマカオでエルメス一回も見てなかったな。
見てこ。
アジア最大のDFSということもあり、出店している店もかなり気合を入れて並べる商品をセレクトしているらしいことがうかがえた。
エルメスもその例外ではなく、品良く、それでいて客がエルメスのことを覚えやすいようにインパクトのある商品を並べていた。
その中で霧島が気になったのはキーケースだ。
霧島はこれまで車も家も全部別々で持っていたが、最近鍵が増えたため、なんとかしなければいけないなと思っていたのだ。
そして霧島が気に入ったのは、エルメスらしいコニャックレザーの6連キーケースで、留め金にエルメスのアイコンがあしらわれているものだ。
これなら家の鍵と車の鍵全部合わせてもまだ余裕あるな。
霧島は即決でそのキーケースを購入した。
霧島はモナコでもまたいっぱい買い物をしようと誓い、店を後にした。
モナコではエルメスのメンズのバーキン買いたいな。
そんなことを考えながら部屋に帰り、ルームサービスで和食を持ってきてもらい、それを食べながら1日を終えた。




