50 霧島旅行編2
香港からマカオまでは、最低でも約1時間おきに高速船が出ており、香港から日帰りでマカオに行く観光客も少なくない。
そのおかげか、飛行機で来た観光客はそのまま空港で船に乗り換えてマカオに向かうことができる。
飛行機を降りた霧島は、香港国際空港フェリーターミナルにそのまま向かい、高速船でマカオに向かい、ついにマカオに降り立った。
ラスベガスからの移動時間は待ち時間も含めて約20時間である。
しかし、霧島曰く、ほとんどの時間はファーストクラスの機内におり、ほぼほぼ(かなり快適に)寝て過ごしたので、新幹線で移動したくらいの労力しか使ってないような気がするとのこと。
「とまぁ、マカオに来たわけなのだが…」
マカオの町並みは、霧島が知識として知っているそれよりもかなり綺麗で活気があった。
お気に入りのリモワのスーツケースを引きつつ、船着場を出て霧島はタクシーを見つけとりあえずホテルに向かうことにした。
「リッツカールトンマカオまで。」
「かしこまりました。」
霧島のアメリカ英語に対して、帰って来たのは流暢なイギリス英語、いわゆるクイーンズイングリッシュだった。
多少面食らった霧島だったが、よくよく考えてみれば、香港は少し前までイギリス領だったなと思いつつ、霧島本人としてはあまり得意ではない話し方に内心では少し辟易していた。
リッツカールトンマカオについた霧島は、もう慣れたもので、なんの気負いもなくドアマンに挨拶をし、51階のフロントロビーに向かう。
「予約してないのですが、空き部屋はありますか?」
フロントスタッフ「こんにちは、ようこそリッツカールトンへ。
はい、お部屋をご用意することは可能でございます。
お部屋のタイプはいかがなさいますか?」
「なんでもいいです。あなたのオススメの部屋で構いませんよ。」
リッツカールトンの部屋は全て80平米を超えており、マカオの中でも部屋のクオリティといい価格といい、かなりラグジュアリーなホテルの部類に入る。
それを知っている霧島は、あえてオススメの部屋を聞いた。
「でしたらこちらのカールトンクラブスイートのお部屋はいかがでしょう?
もちろんスイートルームになっており、なおかつクラブラウンジへのアクセスが可能ですので、景色も利便性もよろしいかと。」
「でしたらそこで。
2泊したいのですがおいくらですか?」
「ありがとうございます。
こちらのお部屋が、現金でのご利用でしたら、2泊デポジット料金込みのご案内で2万香港ドルでございます。」
霧島は現金でそのまま支払い、ベルボーイに荷物を持ってもらい、部屋に向かった。
ラッキーなことにシャワートイレだ…!
バスルームも総大理石で言うことなしだな!
部屋もゲストルーム付きだし、最高!
霧島は内心で喝采をあげていた。
ウォークインクローゼットの奥にある荷物置き場に荷物を置き、勝負服に着替えた霧島は早速大人の遊び場に向かうことにした。
リッツカールトンマカオは統合型リゾートギャラクシー・マカオの中にある。
この中のリッツカールトンに泊まるか、競合しているJWマリオットマカオに泊まるか迷ったが、霧島はリッツカールトンという名前に惹かれ、ここがダメならJWマリオットにしようということにしていた。
部屋を出てどこかで食事をしようかなーと、思いながらロビーフロアに降り立つと美味しそうな匂いにつられそうになるが、霧島は勝ってからにしようと、グッと気を引き締める。
そのままロビーフロアを通過し、エントランスを出るとすぐ横にカフェが。
霧島は、カフェなら日本にもあるし、マカオといえばポルトガル料理だな、と思い、ギャラクシーマカオ一番人気 (霧島調べ)の店、GOSTOに向かう。
GOSTOに入り、店員に人数を告げ、適当に持って来てくれ、と頼むと、すぐにエビのソテーやシーフードリゾットが持ってこられ、舌鼓を打った。
突然のダンスタイムもあり、なかなかに楽しい時間を過ごした霧島は
ここからが俺の時間だ!
と訳のわからないことを思いつつ、カジノに向かう。
最終的にはスカイカジノで勝負したいなと考え、とりあえず手持ちを増やすことを考える。
残りは約2万香港ドル。
とりあえずこれを50万香港ドルにすることを今日の目標とした霧島は、GOSTOの店員さんにどこのカジノがオススメかを聞いた。
「ここはラスベガスじゃなくて、統合型リゾートなんだから、カジノがたくさんあるんじゃないんだよ。
1つの大きなカジノがあって、そこでみんな楽しむのさ。
もちろんVIPはその限りではないけどね!」
「そうなんですね!
教えてくれてありがとうございます!」
霧島は、どうりでカジノへの行き方がわからなかった訳だと思い、案内されたカジノへと向かう。
カジノの入り口で、身分証明書を提出し、メンバーズカードを作成すると、いよいよカジノへ。
霧島は、ラスベガスではVIP扱いをされたが、このマカオのギャラクシーカジノではまだまだ一般ユーザーである。
そのため、一般フロアで、ちまちまと軍資金を増やすことにした。
とりあえず、ラスベガスでの作法に則り、軍資金を全額専用チップに変え、バカラのテーブルへ。
バカラは、プレイヤーとバンカー (胴元)に分かれ、配られたカードが9に近い方が勝ちという簡単なゲームだ。
勝てば2倍という単純なゲームだからこそ、ハイローラーにも愛され、ヨーロッパではルーレットがカジノの女王とされるのに対し、アジアのカジノはこれが主流なゲームである。
霧島は勝ったり負けたりを繰り返しつつ、ロレックスの力を借り、この倍々ゲームで、早々に50万香港ドルを稼ぎ出した。
コツは、小さく負けて、大きく勝つことであるらしいが、素人にはわからない話だ。
霧島が50万香港ドルを稼ぎ出したのはわずか1時間ほどのことである。
ここまで大きくなると、あとはもう雪だるま式に増えていく。
50万が90万に。90万が170万に。170万が330万に。
あっという間に、日本円にして4300万円弱を稼ぎ出してしまった。
霧島も気づけば周りは黒山の人だかり。
しまいには、次の勝負をしかけようとした霧島の元に、マネージャーがやって来た。
マネージャー「お客様。
これ以上のベットは、周りのお客様もおられることですし、VIPフロアでいかがでしょうか?
私共の方でお席を用意いたしましたので、ぜひ。」
霧島は、ひとみから、出来るだけむしり取ってこいと言われていることもあり、その申し出を受けた。
結論から言うと、VIPルームでも大暴れした霧島は、マネージャーに名前を聞かれた。
「霧島あきらと申します。
現在カジノ旅行中でして。」
マネージャー「ら、ラスベガスの鬼…」
霧島は、くそダセェ名前だな…と思いつつ、その話の出所がダニエルであると知った。
まぁ、この話もダニエルに届くんだろうな、と思いつつ、自身の稼いだ、人の背丈ほどもあるカジノチップの山を見た。
ラスベガスでひりついた勝負を繰り広げ、肝がさらに太くなった霧島は、バカラと言う名の倍々ゲームで約1億5000万香港ドルを稼いだ。
まぁどっかの社長は100億以上使ったって言うし、これくらいもらっても大丈夫だろ。
それより日本での申告がめんどくさそうだな…。
霧島の金銭感覚はもはや麻痺しつつあった。
ラスベガスの時のように、口座を作って、お金をどうこうして…というのはもう、めんどくさいのでカジノスタッフに、勝ち額から税金分を引いてもらって残った金額が1億5千万香港ドルである。
とりあえず霧島は、日本で換金するために、小切手を書いてもらい、100万香港ドルだけ現金でもらった。
香港ドルは最高額紙幣が1000ドル札であるため、100万香港ドルといってもその大きさは、日本円の、一千万レンガと同じサイズである。
霧島は結構でかいなぁと思いつつ、併設されているホテルの紙袋をもらい、現金を無造作に突っ込み、自分1人では怖いのでカジノのスタッフとともに自身の宿泊するリッツカールトンに帰る。
エントランスで2人のスタッフに礼を言い、チップとして1000香港ドル紙幣を一枚ずつ渡す。
ロビーフロアに入ると、カジノからもうすでに連絡が入っていたらしく、GMが出迎えてくれる。
「こんばんは、霧島様。
私は当ホテルのGMを務めております、ジャック・ハマーでございます。」
GMは、にこやかな日本語で声をかけて来た。
霧島はタクシーの時と同様、多少面食らったが、やはり日本語での接客はありがたいと思い、返事を返す。
「ありがとうございますGM。
そろそろ日本語が恋しいと思ってた頃だったので助かります。
どちらで日本語を?」
「父が横田に勤めておりましたので、私は小学校から高校まで日本で過ごしました。
そのあとはアメリカに帰って大学に進学したので、ずっと英語ですけどね。」
そう言ってハマーは世間話を続け、自然な仕草で霧島を部屋までエスコートした。
霧島は、内心で、押し付けないホスピタリティが、やはり一流のホテルマンは違うな。と舌を巻いていた。
部屋に着くと、ハマーはどうぞごゆっくりお過ごしください。と一言残し去っていった。
部屋に帰った霧島は、現金が入った紙袋から中身を出し、50万ドルをドレッサーの引き出しに備え付けてあるセーフティボックスに入れた。
50万ドルを財布とポケットに突っ込んだ霧島はとりあえず買い物でも行くか。とホテルを出てショップ巡りを開始した。
ギャラクシーマカオの中には世界の名だたるブランド品店が所狭しと並んでいる。
とりあえずバッグでも買うか。と、霧島は思い立ち、その立ち並ぶブランド品店を片っ端から巡っていった。
結局持っていった50万ドルでは足りなくなり、カジノに寄り資金を継ぎ足し継ぎ足ししながら買い物をした。
結局100万ドルほど使い、ブランド品を買い漁り、実家の住所に送りつけておいた。
買い物をしまくった割に、なぜか財布の中身が2万ドルほどしか減っておらず、霧島は大満足だった。
買い物をし終わったあとで、リッツカールトンのメインダイニングである麗軒中餐廳でディナーを食べた。ちなみに、霧島も読み方は知らないが、ライヒーンと言えばこの店を指すということはわかった。
中華料理店というと、大量の中華料理が所狭しと並ぶ光景を想像するが、やはり高級店だけあり、品良く少量が並べられた。
サービスも、よく目が行き届いており、素晴らしい時間を過ごすことができた。
ちなみに料金は部屋に付けておいた。
総大理石のお風呂でゆっくりとし、ルームサービスでヴーヴクリコ イエローラベルとつまみを持って来てもらい、マカオの夜景を眺めながら悦に入っていた。
霧島は、バスローブをまとい、ヴーヴイエローを手に待ち、マカオの夜景を悦に入って見つめる自分の姿を、スマートフォンのカメラのタイマー機能で写真を撮り、ひとみにそのまま送ってみたところ、悦に入りすぎててキモいし、1人でその写真を撮ろうとしてタイマーセットして頑張ってるのがキモいとの返信が来た。
ちょっとショックを受けたが、それもまた良いと思いつつ、マカオの1日目が終わった。




