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長くなりすぎました、すいません。
次の日も、早めに起きた2人は、部屋で朝食をとり、少しゆっくりしたところで車を出し、東京に向かった。
「今日は何買うの?」
「スーツ!せっかくだからいいスーツとか靴とか買いたいなと思って!ひとみの意見も聞きたいし!」
「なるほどね。存分にコーディネートして差し上げましょう。」
「ありがとうございます。」
このひとみの可愛さにはニンマリだ。
東京に着いた2人は、まず銀座のGUCCIに向かった。
「ここではセミフォーマルくらいのちょっとおしゃれなジャケットとパンツを買います。」
なぜかひとみの雰囲気がガラッと変わっており、霧島は返事をすることしかできなかった。
「いらっしゃいませ、結城様。」
「こちらの霧島さんのジャケットとパンツを。」
「かしこまりました。」
霧島は自分が何かの材料になったのかと思うほど全身のサイズをくまなく調べられた。
霧島は、あ、吊るしを買うんじゃなくてオーダーするのね、と少しばかりビビっていた。
生地や形、刺繍などを2人で選択し、完成までは約2ヶ月ほどかかるとのこと。
「続いてはブリオーニに向かいます」
「はい。」
ブリオーニに着いた結城は霧島にこう告げた。
「ここではフォーマルを仕立てます。
ドレスコードありのパーティにも出席できるレベルのフォーマルなので、タキシードと、もう一つ普通のブラックスーツね。」
「いらっしゃいませ、結城様。」
「こちらの霧島さんにタキシードとフォーマルをビスポークで。」
先ほどの店に続き、簡単に挨拶を交わした2人の間にはもはやプロのような空気感が漂っていた。
プロに言葉はいらない、とその空気が告げていた。
霧島はひとみが怖いと思っていた。
「ちなみにブリオーニはタキシードに自信ありのメーカーだから、期待していいよ。
例の殺しのライセンスを持ったスパイもここのスーツを愛用してるの」
妖しげに笑うひとみだが、ひとみは霧島にダブルオーのライセンスでも持たせる気であろうか。
ブリオーニでスーツをビスポークオーダーした2人は足早に次の店に向かった。
「続いてはダンヒル銀座本店です。」
「ダンヒルまで行くとなんかよく聞くから馴染みやすそうだな!」
「さて、どうだろうねぇ?
ここでもオーダーメイドで作るから、普通のダンヒルとはわけが違うよ。
日本でこの銀座本店だけしかビスポークでオーダーできないんだから!」
「胃が痛くなりそう…」
「スーツはここで終わりだから頑張って!」
「はい……。」
「ようこそ、結城様。本日はお父様ではなくこちらの…。」
「こんにちは、木村さん。そうです、私の自慢の彼氏が、男前のスーツをオーダーしたいと。」
先ほどとは打って変わって外行きの笑顔を浮かべるひとみ。
「あの小さかった結城様が…。
わかりました、この木村が誠意を込めて作らせていただきます。
結城様は是非サロンでお待ちください。」
「では、お願いします。
じゃ、あきらくんサロンで待ってるね。」
霧島は心細さを感じたが、先ほどまでの店との対応が少し違うことに気がついた。
霧島はひとみに手を振り別れた後で木村と話をした。
「結城家とは古いお付き合いなんですか?」
霧島は木村にそう尋ねると、
「はい、今の旦那様の普段のスーツは全て私が作っております。ひとみ様のスーツやドレスも私が担当を…。申し遅れました、ダンヒル銀座本店 オーダースーツの部門を担当しております、ダンヒルジャパン顧問の木村と申します。」
そう行って木村は霧島に名刺を渡した。
「 (なんかすごい人だった。)あ、すいません、霧島です、本日はよろしくお願いいたします。」
木村は霧島と世間話をしながらも採寸の手を緩めることなく、霧島が気づいた時にはすでに2人は生地やラペル、切羽、ボタンの選択に入っていた。
霧島はダンヒルで夏用冬用のスーツと、冬用のロングコート、スーツ用のシャツ、ベルトを購入した。
スーツとコートに関しては現物が届くにはまだまだかかるとのことだった。だが霧島がたくさんの品物を衝動買いしたのは、木村の人柄に惚れてのことだった。
(外資の会社で上り詰めるだけあるわ…)
と、心地よい時間を過ごせたことに感謝した。
霧島とひとみは木村に感謝をすると次の場所に向かった。
「次はちょっと歩いて丸の内まで!
靴を買いに行きます!」
ダンヒルで気を良くした霧島は上機嫌で返事をした。
着いた店はジョンロブ丸の内店。
「じょ、ジョンロブ…
俺でも知ってる最上級の靴メーカー…。」
結城は大丈夫大丈夫と言いながら店に入る。
「おや、いらっしゃいませ結城様。今日はお父様ではなく、素敵な方をお連れで。」
またも店員と仲よさそうなひとみ。
「そうなんです。彼を一流の男にしてあげてくださいな。」
ここでも外行き笑顔。
すこいなぁ。
「なるほど!それでは腕によりをかけてオーダーを取らせていただきます!
それでは昨日はよろしくお願いしますね。」
そう言って霧島の靴を脱がせにかかり、サイズを取り始める店員。
霧島はよろしくお願いしますと答えるのが精一杯だった。
霧島はジョンロブの店で靴を4足買った。
タキシード用の黒の内羽根ストレートチップのフィリップと呼ばれるモデル、そして、夏用のローファーであるロペス、モンクストラップのウィリアム2、そしてウィリアム2のブーツである。
後から知ったけど、タキシードに合わせるのはオペラシューズが正式なんだってな。
教えてくれた人ありがとう。
どの店の会計も100万円を超えたが、霧島はとてもいい買い物ができたと考えいた。
時間もすっかり遅くなり、夜の9時ごろにホテルに帰着した。
食事をフロントでお願いし、部屋に入ると、しばらくしてから食事が到着し、食事を始めたところで霧島はひとみに感謝した。
「今日はとてもいい買い物ができた。ありがとうひとみ。」
「よくよく考えたら今日一日であきらくんのレクサス一台分くらい買っちゃったね。
私もあきらくん連れ回しすぎちゃったから、ちょっと反省…。
その代わりといってはなんだけど、私からプレゼントがあります!」
そう行ったひとみは一つの紙袋を霧島に差し出した。
「いや、いいのに笑
てか、自分が買いたくて付き合ってもらったのに笑」
「まぁまぁ、中みてよ、これ。」
霧島はひとみから渡された袋を開けると箱に入ったネクタイが出てきた。
「マリネッラが5本……!!
ちょ、おま、え?ちょ……まじ?」
「まじ笑
ていうか、あきらくんブランドに詳しいよね。
付き合ってから何もプレゼントとかしたことなかったし、スーツ買ってたからいい記念だなって思って」
思わぬ高級品のプレゼントに、驚く霧島と心底楽しそうに笑うひとみ。
説明しよう、マリネッラとは世界最高級のネクタイを作っている会社で、そのネクタイは世界三大ネクタイの一つと数えられるのだ。
価格帯は2万円台後半から3万円台後半といったところ。
ひとみがプレゼントしたネクタイは、今日購入したどのスーツにも合いそうで、ダンヒルでサロンに向かった時から、すでにひとみの手の内であり、霧島はまるで全て仕組まれていたことのような気になって、反撃を試みることにした。
「実は俺からもプレゼントがあるんだ。」
「え、ほんとー?嬉しい!」
まだ余裕の笑みを崩さないひとみ。
しかし、霧島がプレゼントの箱が入った緑の紙袋を取り出した時にその笑みは凍りついた。
「ま、まさか。」
「そう、そのまさか。俺とお揃いだよ。」
霧島はロレックスの紙袋を取り出した。
ひとみは震える手で時計を取り出し呟いた
「わ、私が欲しかったレディデイトジャスト28のピンクゴールド…」
「俺の腕時計見ていつもロレックスのいーなーとか言ってたから買っといた。
ほんとはお揃いにしたかったんだけど、俺のエクスプローラーってレディスモデルないんだよねー。と思って、探してて、これに合いそうだなって思ったのすぐ買っちゃった。」
実際エクスプローラーをそのまま女性がつけているのも見かけるが、ひとみはなんか違うと思ったので、レディスモデルを選んだのだ。
いつかプレゼントしようとタイミングを図っていたのだ。
「高かったでしょ…?こんなのもらっちゃっていいの…?」
「まぁ。それなりよ。
てかひとみの家だとロレックスとか珍しくないでしょ?」
「いや、私がつけてるのセイコーだし。
その価値がわかるようになった時に、必要があれば買ってあげるって言われてたんだけど、大学入った時アウディ買ってもらっちゃったから…。」
「…あぁ…あれね
でもまぁ、喜んでくれてよかった!
実はこっそり腕のサイズも測って買ったから多分今つけてもぴったりなはずだよ。」
「あ、ほんとだ!
すごい!すごいすごい!
なんか、もう!すごい!」
こんなふうに喜んでくれてよかったな。
また機会があればなんかプレゼントしよ。
霧島は仕返しができてほくそ笑んだ。
結城は喜びすぎて語彙力が低下した。
2人は大喜びのまま、興奮冷めやらずの夜を過ごした。
次回で熱海旅行編ラストです!




