琴座の姫
大学生の真智。
理系の大学に通う彼女が放課後向かう場所は決まっている。
「姫、おっふぅかれ様です!」
大きな声で元気よく挨拶するメガネ男(以下メガネ)。
「……」
しかし、彼女は空気には興味無いとでもいうように黙って部室に入り、
そして、気怠そうにメガネの方を向く。
すると、彼は前屈みになり竹編みのチュッパチャップスがたくさん入った皿を彼女に献上する。
彼女はその中から好みの一つを指差し、彼が外側の包装を外したものを口に加えさせる。
すると、彼女はここで初めてその均整の取れた小さな口元からほんの一瞬、短く声を発した。
『ん!』
これは真智なりの彼らに向けた挨拶であり、彼女がここで最初に発した言葉である。
「おー!」!」!」
「い、今、姫が 御美声《天使のささやき》をお発せになられたぞー!!」
「おっふぅ、おっふぅ、おっふぅ」
部室にはメガネ達の名状しがたい奇声が響き渡る。
真智。彼女は俗に言われるオタサーの姫。
彼女のすぐ側には部室に唯一置かれた高級チェアが用意されていた。
彼女はそれに乱暴にもたれかかると、別のメガネによってリクライニングの上半分がゆっくりと傾けられ、頭の角度が下げられる。
『姫、きつくありませんか?』
『ん』
『姫、お痒いところはございませんか?』
彼女にヘッドスパを行うのはまた別のメガネだ。
『んん』
『姫、差し支えなければ足ツボマッサージをさせて頂いてもよろしいでしょうか?』
『ん』
阿吽の呼吸で行われるそれはもはや神の領域である。
彼らの行動だけで言えば、
高級美容室も顔負けであろう。
ところで、彼女の周りで密かに囁かれる影の噂をご存知であろうか?
彼女は学内に存在すると言われる4人のオタサーの姫を統べる四天王の総帥、
琴座の姫 ベガと呼ばれている。
なぜなら、彼女が関わったオタクサークルはそのどれもが不可解な内部分裂を起こし、活動休止に追い込まれているからだ。
そしてまた、このサークルも同じように活動休止に追い込まれた。
彼女は今日も新たな未開拓地を貪っては、またあの特技を発動する。
『《《サ》》ークル《《クラッシャー》》!!!』
「ふん、ヌルいわ」
※結局、真智は特技を発動するまで、
『ん』しか喋っていないような……。




