第九十九話 イオリと新たなる騒動の幕開け
「じゃあ、うちもそれと野菜のバーガーのセットにするぜ。あとは……」
早々にメインはバーガーを選ぶも、飲み物はメニューを見てどれにしようか迷っていた様子だったアイツは炭酸水とのセットにしたようだ。
けど、選び終わった後も何故か悪戯を思い付いたような顔をしている。
「オレンジエードもうちは頼むぜ!」
「ん? そんなに飲むとお腹がタプタプにならないか? 止めておいたほうがいいぞ?」
「そうですよイオリさん」
俺とソータの忠告にも関わらず、頑として譲らないので理由を聞いてみると、どうやら炭酸水にオレンジエードを混ぜようとしていたらしい。
なるほど、この炭酸水自体は殆ど甘みがついていないし、オレンジエードを混ぜるのはありかもしれないな。
まあ、混ぜた後の飲み物を想像してみると、単なる炭酸のオレンジジュースになる訳だから、不味いわけがないだろう。
「なるほど、混ぜて見るのも面白いかもしれませんね。それでは僕も違う味を、と言いたい所ですが、さすがに更に注文すると量が多そうなので、今回は我慢します」
「だな。で、フィーネやリーン達はどうする?」
「では、私もこれとこれ、イオリ様と同じものにします」
「妾はこれじゃ」
「リーンと同じのに、する」
フィーネは俺と同じオーク肉のハムを挟んだサンドイッチで、リーンとソフィーはホットドッグのような食べ物とこれまた炭酸水のセットだ。
こちらを伺っていたのか、図ったようにチャトさんがやって来たので、注文をする。
セットとは別にオレンジエードを頼んだ俺達に首を傾げていたが、特に何かを言われることもなく注文が通る。
そして、しばらくすると料理と飲物が運ばれてくる。
どうやらこの店では当たり前らしいパフォーマンスとともに。
「相変わらず、面白い運び方してるよな」
「ですね、他のお客さんは特に驚いていないみたいですけど」
二回目ともなるとリーン達も多少は慣れたようで最初に目を大きく開くが、それも一瞬の事で、すぐに楽しそうにパフォーマンスを見ていた。
チャトさんも、反応があると嬉しかったのか、トレイをくるくると回転させたり、トレイの淵にトレイを乗せてひっくり返らないようにして見たりと、少しだけサービスした後、他の客に呼ばれて慌てて移動していった。
「じゃあ、いくぜ!」
「勢い余ってこぼすなよ?」
「うちはそんなヘマはしないぜ?」
一番に炭酸水を飲んだアイツは、皆が見守る中でオレンジエードが入った木製のコップを傾け向け炭酸水の入ったコップへと注いでいく。
見守る皆は、その工程を見みながら味を想像してしまい、思わずごくりと喉を鳴らしている。
俺もアイツの作業を見ながらテーブルの上に置かれた炭酸水を手に取るとかさを少し減らすためにごくごくと飲む。
うん、ほとんど甘みがないけどたしかにサイダーみたいだ。
「よし! ま、まあ、うちにしてはうまく行ったかな?」
「やっぱり、少しこぼして……」
「ん? 何の事?」
「いや、こぼ……」
「な、ん、の、事、かな?」
「…… はぁ〜。わかった、こぼしてないんだな?」
どうしてもこぼしたことを認めたくなかったのか、威圧スキルか何かまでを使って来た。
俺はどうってことはなかったけど、リーン達や周囲の客がビクッとしてキョロキョロと辺りを見回していたので、俺が折れることにした。
ソータやフィーネは俺達のやり取りを見て呆れているが、どちらかと言うと俺は被害者だと思うんだけどな。
「じゃあ、炭酸オレンジの、いやオレンジサイダーも出来たことだし、食べるか」
「ですね。イオリさんはもう既に食べ始めているようですけど」
「むぐぅ? もぁにくぁいった? ん、ん。なんか言った?」
「なんでもないですよ、イオリさん。こっちの話ですから」
もぐもぐと食べながら喋ろうとして、途中で口の中を空にしてから答えたアイツだけど、ソータに何でもないと言われると、興味を失ったようにまたオレンジサイダーを飲みつつバーガーを食べ始めた。
アイツ以外の五人はそれを見て苦笑した後は、同じように手元の料理を手に取り食べ始めた。
「っ! イオリ様! しゅわしゅわ、舌がピリピリします!」
「こ、これはすごいのじゃ」
「ん、初めての味。おいしい」
どうやら、炭酸が初体験組の感触も悪くないようだ。
既に経験済みの俺達も、ごくごくと飲むが、まあ悪くない。
すこし甘すぎるような気もするけど、まあ許容範囲かな。
「これは、色んな味で味わいたいですね。別の味も飲んでみたいです」
「まあ、美味しいのはわかったけど、余り飲み過ぎは良くないからまた今度な、フィーネ」
「たしかに、飲み過ぎは良くないですね。あんまり飲んでいると歯が弱くなって虫歯になりやすいって事を聞いたことがあります」
「ああ、それは俺も聞いたことが…… ん? これは……」
「っ! イオリくん、これは……」
「ん? どうしたんだ?」
「お二人で顔を見合わせてどうかされましたか?」
俺とソータ以外は気が付いていないようだけど、魔力の乱れとともに若干の振動があったような気がする。
回りを見回しても俺とソータ以外が気がついた様子はなさそうだけど……
俺が今座っている場所から問題の発生源の方向を考えると、組合ある方向だな。
嫌な予感がして、そういえば『目印』の魔法をかけたままだったなと、罪人の反応を探してみると……
「っ! これは……」
「どうされました、イオリ様?」
「どうやら罪人がまた逃げ出したらしい。今回はこのダンジョンじゃなくてかな遠くの場所らしい」
「えっ? またなのか? この組合の管理はどうなってるんだ?」
「まあ、たしかにその感想は正しいですが…… 一体どういうことでしょうか? そんなに簡単に逃げ出せないと思うのですが」
「たしかにな」
とりあえず、すでにそこそこ巻き込まれている現状で、このまま気が付かなかったふりをするのも忍びないので、早々にお昼を食べ、再び組合に向かうことにした。
会計時にもチャト さんから、オレンジサイダーについて根掘り葉掘り聞かれるという一幕もあったので、もしかしたら次来るときにはメニューとして増えているかもしれない。
「しっかし、二度も逃げられるとは不用心だよなぁ」
「それは、そうですけど、もしかしたら組合内に裏切り者が居たのかもしれませんよ?」
「なるほど、たしかにそれならありえるかもな」
組合に向かう道すがら、いろいろと想像をしてみるがまあ、実際にどうなのかは今の時点では分かるわけがないな。
その話にしても、巻き込まれているとは言え、本来は部外者の立場だし、言ってみれば組合の失態となるから、門前払いされるかもな。
「と、組合に着いたけど、昼前と特に変わったところはなさそうだぜ?」
「まあ、今回はほとんど暴れることもなく転移したんだろう」
組合の中の様子をそっと覗いてみると……
「なあ、なんでロベルトスさんは床で膝をついて項垂れているんだ?」
「さあ? 短期間で失態を繰り返してしまったから凹んでいるとか?」
「まあ、とりあえず中に入って何が起きたか聞いてみませんか?」
とりあえず、入り口からずっと様子を伺っていてもしょうがないので、中に入り声を掛けることにした。
「あの……」
「ん? ああ、情けないところを見せちまったな…… はぁ〜」
「えっと、何が起きたか…… 聞いてもいいです?」
「ああ、またここに戻ってきたってことは、大体の状況を掴んでるんじゃねーか?」
まあ、状況を掴んでいるかどうか聞かれたら、大まかには状況を理解しているから頷くしかない。
そして俺が頷くと、再度ため息を吐き出した後、応接室まで一緒に来るように言うロベルトスさん。
どうやら、ある程度状況を話してくれるらしい。
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