第九十八話 イオリと指名依頼の完了
ギリギリセーフ(´・ω・`)
そういえば童謡だったかに、行きは楽に行けるが帰り道は大変だ、みたいな歌詞の歌があった覚えがある。
もっとも、俺達の帰り道はその歌とは真逆だで、ボスを倒してポータルに乗り、ダンジョンから脱出するだけなんだから楽なもんだな。
まあ、こんなことを思っているのは俺達ぐらいかもしれない。
「後ろの芋虫は組合に連れて行くとして…… 目立つよなぁ?」
「まあ、しょうがないんじゃ? それにうちらは別に後ろめたいことをしてるわけじゃないし」
「まあ、そうなんだけど…… あっ! すこし、やることを思い出したから脱出るのは待ってくれ」
「ん? どうしたんだ?」
「さっきの隠れ家の入り口、入れないようにしておこうと思ってな」
「なるほど、たしかにそれがいいかもしれませんね」
まあ、あくまで念のためだ、念のため。
ボスの部屋へと進み始めていた俺達は、少し小走りで部屋まで戻る。
問題の扉を実際に見ていないから、どうやってダンジョンに影響を与えているのか不思議に思ってたけど、百聞は一見に如かずだな。
「へぇー」
何の事はない、魔道具自体を壁にペタッと貼り付けてあるだけだった。
ただなぁ、これ…… 壁から剥がしたら中途半端に剥がれて魔道具が壊れてしまいそうだし、もしかしたら一度しか利用できない魔道具なのかもしれない。
うーん、これは剥がして使えないようにすべきか、あとで何とかするべきか……
迷った俺は、結局のところ、勿体無いという方向に傾き結界で現状を保存することにした。
「これで、よし!」
「おっ! 終わったか。じゃあ、さっさとボスを倒してダンジョンから出ようぜ」
アイツが早く早くと急かす。
フィーネも何だかそわそわしている。
着た道を戻り、地図に従い暫く進むとボス部屋までたどり着く。
流石に、この階層ぐらいにでもなるとボスが倒されて、部屋が空っぽってこともないので、アイツやフィーネはそれはもう楽しそうにボスをボコボコにしていた。
「じゃあいくぞ…… 帰還」
ボスの部屋からさらに奥の部屋へと進みダンジョンからの脱出呪文を唱えると、次の瞬間には地上の建物の中だ。
中では案の定、探索者の人々から注目をされての針の筵状態で、辟易したので、さっさとここを出ることにしよう。
アイツの言う通り、この後ろの物は依頼の結果であって、後ろ暗い事は確かにしていないけど、何というかどうしてもこれだけは背中がムズムズして慣れない。
俺以外はと言うと、人見知り気味なソフィー以外は特に気にした様子はないようだったけど。
「まあ、ここで留まっていても仕方がありません。さっさと組合に行きましょう」
「そうですよ、イオリ様。敵意も害意もない視線を気にしてもしょうがないです。あ、イオリさんはここにカードを翳すのを忘れないでくださいね?」
「っ! おっとと、また忘れてたぜ」
前科があるアイツは、そのままいの一番に建物から出ていこうとしてフィーネに忠告されると慌てて取り繕うようにカードを翳し頭を掻きながら建物を再び一番に出ていく。
周囲の注目を浴びながらも俺達は順に建物の出口の読取機にカードを翳し、ダンジョンから出たことを記録していく。
建物を出ると、寄り道をせず組合に真っ直ぐに向かい…… 程なくして組合の前まで到着する。
相変わらず組合の中はぐちゃぐちゃだ。
「お? どうした、さすがに八十五層は時間がかかりそうだから一旦戻ってきたか?」
「違いますよ?」
中を覗くと丁度ロベルトスさんが外へと出ていこうとする所だった。
もうちょっと遅かったら、入れ違いになっていたな。
「ん? その後ろの荷物は…… ま、まさか、もう捕まえてきたのか!? はぁ、俺の予想の斜めを行く奴らだな、ほんとに。まあいい、ここで立ち話もあれだから話は応接室で聞こう」
ロベルトスさんは、そう言うなり俺達の返事も聞かずに踵を返し、どんどん組合の奥へと進むので、俺達も慌てて追いかける。
途中、ロベルトスさんから指示をされたらしい職員に罪人を受け渡し、俺達は全員で応接室に入る。
「まあ、とりあえずそこに腰を掛けて楽にしてくれ」
机を挟み向かい合うように俺達は座るが、さすがに片側に全員は座れないのでフィーネとソータはソファーの後ろに立っている。
さすがにリーン達は、自分たちの代わりにフィーネ達が立っているために落ち着かないのかそわそわしているが、アイツはソファーに深く腰を掛けている。
堂々としたものだ。
「じゃあ、順を追って説明を頼む」
「分かりました。とりあえず、六十五層まで飛んでからーー」
所々、端折りつつ、ソータからもソファーの後ろから補足が入りながら、一通り説明が終わったのは丨半刻《三十分》後だった。
説明に時間がかかったのは、途中、芋虫を連れて行った職員さんから本人の確認結果が届けられたり、罪人から没収した転移の魔道具をみてロベルトスさんが唸ったりと、そんな出来事があったからでもある。
「さて、依頼は済んだけど、これからどうする?」
組合に依頼完了の報告をした俺は、フィーネ達に問いかける。
まあ、ちょうどお昼時だから、このまま昼を食べに街に出るのもいいかもしれないな。
「うーん、そろそろお腹も減って来ましたし、お昼にするのがいいのではないでしょうか?」
「あっ、うちもそれに賛成だぜ」
「妾もなのじゃ!」
「お腹減った」
「ソータは?」
「まあ、僕もお腹減りましたし、特に何処かに行く予定もないですから、賛成です。それで、何処にします?」
俺達は、しばらく街を歩き回り、久しぶりに“馬の蹄亭”へと足を向ける。
ソータとアイツはこの世界に来た直後にこの店を見つけてから、俺とフィーネに出会うまでに何回か通っていたようだ。
「おっちゃん、どっか空いてるか?」
「ん? おお、久しぶりだな。イオリって言ったか? 奥の席なら空いてるぞ?」
上半分だけのドアを押して店の中に入る。
前回は、営業時間より前だったのもあるのか人がいなかったが、今回は昼も真っ只中だったためか、ほとんどの席が埋まっていた。
「んじゃ、どれ食べる?」
俺達は奥の席に座り、テーブルの上に置いてあるメニューを開く。
どれが良いかと順に見ていくと、日本ではおなじみの飲み物があることに気が付く。
「そうだなぁ、このサンドイッチと…… お、これがいいな。この炭酸水のセットにしよう」
「あの…… イオリ様? そのタンサンスイとは何でしょう?」
「ああ、簡単に言うと泡が水の中に溶け込んだ水、かな?」
フィーネの産まれた世界ではコーラやソーダなどはもとより炭酸水すらついに見かけることがなかった。
無いのであれば、何とか作れないかとも旅をする間におぼろげながら考えていたけど、まあ実現する前にこの世界に来てしまった。
ともかく、炭酸水なるものは見たことがなかったフィーネに説明を求められたけど、全く知らない人に説明するのは難しいな。
まあ、フィーネは俺の適当な説明を聞いても、首を傾げながら美味しいのでしょうか、と呟いているのでそれほど興味があったわけでもないのだろうと思う。
「ん? おお! 炭酸水なんてあるんだ。前の所でもあったけど…… ソータ、何て言ってたっけ」
「泡が湧き出る飲み物と言えば…… カボナートですね。見かけないから、てっきり無いものだと思ってましたけどあるんですね」
どうやら、ソータたちの方は名前は違えど炭酸水自体はあったらしい。
まあ、自然に湧き出ていたものを炭酸水として発見したって話を聞いたことがあるし、特に複雑な料理ってこともないから存在していても不思議ではないか。
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