第九十七話 イオリと再びの捕縛
ソータとアイツの後押しで実際に問題の部屋の近くまで行ってみることにする。
俺自身も近くに行かないと話が進まないと考えていたことも、提案に賛成した理由の一つだ。
歩くこと暫く、スケルトンが中心となり、たまにスケルトンメイジやスケルトンジェネラル、スケルトンウォーリアなどがこの階層の魔物として目の前に現れるが、フィーネやアイツの一撃で文字通り粉砕しつつ進む。
地図上では近いように見えた問題の部屋への道のりも、実際には思ったよりも時間がかかったな。
地図と実際の道のりとの距離感の違い以外にも、階の上下移動のための階段の場所が離れていた事など、いくつかの理由で随分と時間がかかったが一刻程度で目的の部屋の近くまでたどり着く。
「すぐそこが問題の部屋でしょうか? 部屋の外から見る分には特に変わった所はなさそうですが……」
「そう、みたいだぜ。そっちが問題の部屋で、この左隣の部屋の壁側には特に何もないな」
「この地図では隣の部屋には何もないのじゃな? であれば、とりあえず入ってみるのはどうじゃろうか?」
フィーネやアイツの言う通り、問題の部屋もその隣の部屋も部屋の外から見る分には特に変わった所は見えないが、もっと詳しく確認するには扉を開けて部屋の中を見るしかないか。
ここは、虎穴に入らずんば何とやら、まずはリーンが提案してきた隣の部屋に入ってみるのが一番かな。
「あっ! イオリくん、ちょっと待ってください! どうやら誰かが部屋から出てくるようです」
「隠れる場所は…… 隣の部屋の中しかなさそうだな。しょうがない、捕まえるぞ! 間違っても殺すなよ?」
「わかってるぜ!」
さてどうするか?
まず逃げられてもいいように、『錨』 の魔法をかけて、次に結界で囲んで『昏倒』 で気絶させるかな?
今さっき考えた作戦を皆に話すと微妙に呆れられていたけど、気が付かなかったふりだ。
ーーガチャ
部屋のドアが無造作に空き、一応周囲の魔物は警戒していたようだけど、この階層に入るはずのない俺達の姿が目に入ると、一瞬の硬直の後に胸元から何かを取り出そうとする仕草をした。
もっとも、その時には『錨』はもとより、結界と『昏倒』の魔法も掛け終わっているので、一瞬痙攣した後、取り出した物が足元に落ちると同時に罪人もまるで糸が切れたように崩れ落ちる。
「はぁ〜、一瞬でしたね」
「すごい、早業」
「なのじゃ。妾は呆れて言葉も出ないのじゃ」
余り褒められていないような気もする。
まあともかく、鑑定した結果も本人に間違いなさそうなので、組合に連れ帰れば依頼達成だな。
「じゃあ、とりあえず縛って転がしておくとして、部屋の中を探ってみるか」
「待ってました、あっという間に依頼が終わったから、うちは物足りないと思ってたんだ」
「イオリさん、中にはまだ誰かいるかもしれないから気を抜いては駄目ですよ?」
わかってるって、とアイツは言うが本当だろうか?
まあともかく、気を失って結界内で転がっている罪人を縛った後で、念のため見張っておく必要があるので、パーティー内を見張りと探索とで二つに分けることにした。
「じゃあ、うちとソータ、フィーネが探索組だな」
「ああ、俺とリーン、ソフィーは見張りだ。部屋はまだいいとして、その先の隠れ家の中は地図では確認できないから気を抜くなよ?」
再び、わかってるから何度も言わなくても、と言いながらアイツを先頭に部屋の中へと入っていく探索組の三人。
見張り組の俺達は、まず結界内で気絶している罪人を縛り、念のためもう一度『昏倒』と重ねて『睡眠』を掛けておく。
これだけ手を打った所で、気がついて逃げ出すなら少なくとも今の俺にはどうしようもないな。
「イオリ兄様、それはなんじゃ?」
「ああ、これはそこに転がっている奴が使おうとしていた道具、と言うか魔道具だな。どれどれ……」
床に落ちていた魔道具を拾い手で弄んでいると、リーンがそれに気が付いた。
ついでにとばかりに『鑑定』してみると、ある程度予想はできていたけど、どうやら俺達が来た初日に組合で騒動を起こそうとしていた男が持っていたものと同じ転移の魔道具らしい。
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名称:改良型転移魔道具試作
通称:(不明)
状態:待機中
耐久度:85/100
希少性:レア
魔力消費:起動時消費1500(対象者一人につき)、継続消費なし
概要:魔力を消費し、対象者を登録済みの座標位置へ移動させる。
詳細:
魔力を対象者一人につき1500を消費し、登録済みの座標位置へ移動させる。
魔道具に対して接触している生物及び、衣類など身体に直接接触しているものを転移の対象者及び、付属物として判断する。
起動に必要な魔力量が確保できない場合は常に起動に失敗する。
起動に必要な魔力は内部にある魔力貯蔵炉に貯めることも可能。
転移先は三箇所まで登録可能で、それ以降は登録日時順で最古の物から新たに登録される箇所へと置き換えられる。
転移距離は15キールを基本とし、それ以上の距離の転移の場合は起動時の消費が100トーフィに対して1%づつ増える。
結社『暁の解放者』により既存の転移魔道具を改良設計試作された魔道具。
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どうやら、この魔道具では何箇所か転移先を三箇所まで登録できるらしく、すでに二箇所が埋まっていた。
一箇所は、今いるこの場所らしく、もう一箇所は……
「『エンカーゴ:第三十五層』って何処の事なのか誰か知らないか? ん? ソフィー、知ってるのか?」
「知ってる。『エンカーゴ』は、ここから東に行った所。そこにあるダンジョンの事」
「そういえば、妾もそんなような名前の街があるのは聞いた覚えがあるのじゃ」
なるほど『エンカーゴ』とは、別の街にあるダンジョンの事なのか。
たしかに、第三十五層なんて名前の付け方からして、ダンジョンみたいだなと思ったけど、まさにダンジョンな訳だ。
罪人がどうやってこの位置を魔道具に登録したか分からないが、陸の監獄のようなこの場所からどうやって逃げ出すのだろうかと不思議に思って居たけど、さらに別の場所への脱出の方法があったのか。
そうであれば、なぜさっさと逃げ出さないのだろうかと考えるが、そういえばさっき『鑑定』した時に、魔力が足りないと起動できないようなことが書いてあったな。
もしかすると、転移のための魔力が貯まるまで待っていたのかもしれないな。
もっとも、今となっては些細な問題だな。
「ただいま!」
「おう、おかえりっと。どうだった?」
「はい、多少の収穫はありましたが、それだけでしたね。イオリ様の方は…… 問題ないようですね」
「ああ」
しばらくすると、フィーネ達探索組が帰ってきたが、収穫が大量にあったと言うことはなかったようだな。
心なしか、フィーネもアイツも残念そうだ。
「で、収穫ってのは?」
「金貨とこれだけですね」
「これは…… 地図か。どこのだろう?」
金貨はこの世界に来てから初めて見たが、今も使えるのだろうか?
とりあえず、金自体には貴金属程度の価値はあるはずなので、ありがたくもらっておくこととしよう。
っと、今はこの地図だな。
ふむふむ、と何枚か確認した所、どうやらこのダンジョンの深い階層の地図や、街の中の地図らしい。
あとは、行った事はないがおそらく『エンカーゴ』ダンジョンなどの地図なのではないだろうか?
「この地図、他の探索者は喉から手が出るほど欲しいんだろうけど、うちらは別に要らないよな!」
「まあ、イオリくんの『自動地図』が僕らにはありますからねー」
ソータ達が言うように、『自動地図』がある俺たちのパーティーにはこの地図はいらないから、組合に打ってしまうのも手だな。
まあ、とりあえず、戦利品を整理し組合に戻ることにしよう。
と、ここで問題になるミノムシのように転がっている罪人の扱いだけど、どうやらソータが良い道具を持っているらしい。
「じゃーん!!」
「ん? それはもしかして『運べーる』じゃないのか?」
「ソータはいつの間にそんなの買ったんだ? ほとんどうちと一緒に行動してたはずだけどな?」
どうやら、単独行動して居た時に買ったらしいが、資金はどうしたのか聞くと元々持ってたガラクタに近い魔道具を売って購入資金に充てたらしい。
まあ、そう言うことであればありがたく使わせてもらおう。
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