第九十六話 イオリと隠れ家の発見?
間に合いました……
「と、言う訳で八十五層に着いた」
「イオリ様、壁に向かって喋っていますがどなたに話しかけているので?」
「いやなんでもない」
フィーネに恥ずかしい所を見られたのはともかくとして、目的の階層である八十五層へ着いた。
途中、魔物が襲って来たり探索者を遠目に見たりといったダンジョンでの日常はあったが、それ以外の何か特別な出来事が起こるということはなかった。
「ほえぇー、部屋ばっかだなぁ。窓の外は…… あれ? 壁?」
「へー。これは不思議ですね」
この階層以降の数階層は、洞窟のような通路ではなく、迷路のような構造でもなく、まるでお城の中にいるような錯覚を受ける構造をしている。
そして、アイツやソータがしきりに不思議がって廊下の窓を開け閉めしているのは、窓が閉じた状態では外に草原や快晴の空が果てしなく広がっているように思えるが、内開きの窓を開けると、そこには岩肌が見えているという不可思議な状況となっているからだ。
この階層は、まず建物のように階があるために何百もある部屋の中からボスの部屋を見つけ、次にボスを倒し奥の部屋にあるはずのポータルで次の階層へと進むのが一般的な攻略方法らしい。
もっとも、俺たちのパーティーは、やろうと思えば『自動地図』を使い最短距離を導き出し、あとは出会う魔物を蹴散らしながら進む事で、探索に掛かる時間を大幅に短縮できる。
廊下の窓に夢中のアイツらは放っておいて、俺はさっそく『自動地図』で問題の罪人がいないか探してみることにする。
とは言え、探すとしても『罪人を検索』と言ったような便利な機能はないので、まずはむやみに動かずにこの階層の地図を完成させることにする。
「なあなあ、立ち止まったままだけどなんかあったのか?」
「いや、この階層の完全な地図が、もうちょっとで出来るから待っているだけだ。ボス部屋までの最短経路と階層の全体の地図だと、階層全体の地図のほうが作るのに時間がかかるんだよ」
「ふーん」
地図が完成するまで暫く待っていたために、アイツが不思議がって聞いてきた。
周りを見回すと、俺の『自動地図』を見えないにも関わらず今にも覗き込もうとしていたので、皆にも『自動地図』の魔法を使う。
それだけだと、再度地図を作り直さないといけないので、俺が調べた内容を同調しておく。
「皆の目の前に出てる『自動地図』でこの階層の地図を確認できるようにした。それで、とりあえず地図を見て違和感を感じるところなどがないか確認してみてくれ」
「違和感?」
「例えば、変な空間がないかとか、かな?」
「なるほど、とりあえずリゥムさんが隠れている場所がないかを探すと言うことですね」
「そういうこと」
フィーネが言うように、まずは隠れることができそうな場所がないか、を探すことにする。
もし、この階層に逃げ込んだというのであれば、廊下でそのまま寝泊まりするようなことはせず、何処かの部屋に拠点を作っていると俺は考えている。
そういうことなので、拠点とするならば、そのままダンジョンの部屋を使っているか、魔法的に遮られている場所を作り、生活しているのではなかろうか?
「分かったのじゃ。とは言っても、パッと見た感じじゃとなさそうなのじゃが?」
「ああ、言い忘れてた。ここをこうすると地図を拡大できるからひと通り見たら拡大してさらに詳しく探してみてくれ」
「おおっ! これは、ふむふむ。面白いのじゃ!」
リーンに教えた、親指と人差指を広げたり狭めたりする操作を他の皆にも教え、完成した地図とにらめっこしてもらう事にする。
俺も地図を見てみるが、リーンの言う通り、一通り見た限りでは特に怪しい箇所はなさそうだな。
「うーん、ひと通り見ましたけど怪しい所はなさそうです」
「そうですね、僕も隠し部屋とかがあるかと思いましたが…… 無いようですね」
フィーネやソータが確認した結果を最初に報告してくる。
他の皆も、少しすると結果を報告してくるが、同じく結果は異常なしだ。
皆で確認して異常が見つからないと言う事であれば可能性は三つある。
「怪しい所が見つからない、という事であれば……」
「可能性は三つですね。まず、組合側で調べたことが間違っていた場合。これは、除外していいと思います」
「だな。間違っていた場合、もうどうしようもないし、さすがに指名依頼の情報が間違っていました、だと信用がなくなるから確たる証拠があると思っていればいい」
ソータが言うように、組合の情報が間違っている場合については除外して良いと思う。
もっとも、俺達がはめられたという可能性も無きにしもあらずだけど、組合側にそれをするメリット無い、はずだ。
「それを除外した場合、ほかに考えられるのは依頼を受けた後、状況が変わった場合ですね」
「まあ、そうだけど、その場合は依頼が失敗になる。なるから考慮するのは最後でいい」
「んじゃあ、あとはうちらが見落としているって事か?」
「可能性としては一番高そうなのじゃ」
さて、もう一度これから地図は見直すとして、それ以外に何が出来るだろうか?
少しの違和感も見逃さないようにすれば、見つかるだろうか?
まあ、見つからなかったら俺たちにはもはや手の打ちようがないのだけど。
「とりあえず、もう一度地図を見直してみよう。あと、見直す時には少しでも違和感があれば皆で確認しよう」
「うーん? それって結構時間が掛かんないか?」
「まあ、掛かるだろうな。だけど、現状は他に取れる手段がないからしょうがない」
「まあ、たしかに。んじゃあ、気合い入れてもう一回確認してみるぜ」
周りを見回すと、アイツに続いて他の皆も気合を改めて入れたようで、力強く頷いている。
そして、途中に休憩と昼食をはさみ、探すこと暫く。
目がチカチカし、地図上の通路を示す線もグラグラと揺れているような感じがし始めたために、目頭を押さえてもみほぐしている時だった。
「あっ! 見つけました、この位置です」
数えるのも億劫なぐらいで、もはや何度目か分からないような発見を、フィーネが再びしたようだ。
ちなみに、休憩の最中に『自動地図』に誰かが指し示した所を拡大して表示できる機能とついでとばかりに、一定時間内の変化の記録と確認ができる機能を追加したことで、ダンジョン内の違和感を探す作業の効率が大幅に上がっている。
もっとも、効率が上がったからと言って必ず発見できるとは限らないのは辛いところだ。
「うー、また見間違いじゃない? うち、もう疲れてきたぞ? そろそろ諦めようぜ!」
「いや、待って下さい! これは、もしかするともしかするかもしれません」
ソータが興奮したように声を発し、示された部分や周辺を調べ始めたため、俺もその場所を見てみる。
地図を拡大したり縮小したりしながら周辺も含めて確認していくと違和感の正体はどうやら部屋と部屋とを区切る壁から突如として突き出ている取っ手のようだ。
単に、壁に取っ手が付いている状況だけを見ると、おかしいと判断するには弱いかもしれないが、周辺のどの部屋を確認しても壁から取ってが生えていることはない。
他と違うということは、可能性として非常に高いといえるのではないだろうか?
念のため、周辺の変化も確認してみると、数時間前に俺か俺たちに対して敵対的な、何者かが出入りする所を偶然捉えていたようだ。
「変化を見てみたが、どうやら当たりらしい。数時間前に人か魔物かは分からないけど中に入っていったのが記録されてた」
「なるほど。それは、たしかに。近くまで行って確認してみませんか?」
「さんせーだね。いい加減うちは疲れたぜ」
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次の投稿は8月25日の予定です。




