第九十五話 イオリと指名依頼の開始
「よし、まずはロベルトスさんに、依頼を受けることを伝えないとな」
「そうですね。あ、でもその前に着替えてきたほうがいいかもですね。依頼を受けたらすぐに出発しますよね?」
本日は自由時間としてダンジョンの探索はせず街に繰り出そうと思っていたために、フィーネやリーン達の格好は出来なくはないだろうが、決して探索に向いているような格好ではない。
そういうことなので、フィーネ達は慌てて探索の為の服装や装備に着替えるため、ロビーを出ていく。
この場に残ったのは、俺と、ソータ、アイツの三人だけだ。
俺やソータは、色々と付与されたフード付きのローブを着ていればダンジョンへ潜るのに不自由はない。
アイツは…… 探索時と街で過ごすための服装に違いがないように思えるな。
「ん? お前は着替えないのか?」
「ああ、うちは、この格好で探索するぜ。基本的にうちはひらひらの付いた服とか大人っぽい落ち着いた雰囲気の服は似合わないからな」
「まあ、お前がそれでいいならいいけど」
もうちょっと、おしゃれをしたら雰囲気変わるのに、と思わなくもないが、本人がいいということであれば、外野の俺は何も言うことはないな。
ソータも、特に気にした様子はないし、まあ二人がそれでいいのであれば実質問題ないな。
とりあえず、フィーネ達が装備を整えたりするまで、俺達はロビーで待っていることにした。
「お待たせいたしました」
「待たせたのじゃ」
「おまたせ」
全員が探索用の格好で、すぐにでもダンジョンへ潜れるように準備をし、宿を出た俺たちは、依頼の受諾を伝えるために組合に行く。
普段であれば、組合のロビーでフィーネ達には待っていてもらうが、先ほど見た限りでは未だに組合内は酷い有り様なので、外で待っていてもらうことにする。
「じゃあ、俺は依頼の開始処理をしてくるけど、フィーネ達は…… 外で待っていてもらうしかないかな。組合のロビーはまだぐちゃぐちゃだし」
「では、外で待って待ってますね」
外で待つフィーネ達に見送られ、俺は組合の中へ入る。
今朝対応してくれた受付の人は未だに中の片付けをしていたが、俺が入り口から入ってくるのを目敏く見つけると、タタタと小走りで近寄ってきた。
途中、ロビーに未だに散乱している瓦礫に躓きそうになるが、なんとか姿勢を保ち、ひっくり返ることだけは回避していた。
「お、お待たせいたしました。えっと、イオリ様でしたよね。すぐに、組合長を呼びますので、応接室でお待ちいただけますでしょうか」
「はい、分かりました」
受付のお姉さんは、若干息を乱しながら俺の近くまで来る。
どうやら応接室に案内をしてくれるらしい。
ちなみに、途中躓きかけたためか顔が若干赤いが、俺は気が付かなかったことにしようと思う。
受付のお姉さんに応接室へ案内され、中で待つこと暫く、ドカドカと大きな音を立てながらロベルトスさんがやって来た。
「ふむ、どうやら相談した結果が出たようだな。組合としては依頼を受けてくれると嬉しいのだが…… どうだ?」
「はい、依頼についてですがパーティー内で相談した結果、依頼を受けることにしました」
「おお! ありがたい。依頼開始の手続きはこちらでやっておく。頼んだぞ」
「では、出発はこの後すぐでいいでしょうか?」
「ああ、早ければ早いほうが良いのは確かだが、食料とかの準備は問題ないのか?」
「はい、ちょうど食料については調達したばかりだったので大丈夫です。では、早速潜ってきますね」
応接室を出る時にロベルトスさんの方をチラッと見たら、呆れたような困ったような表情をしていたけど、何だったんだろうな。
とりあえず組合を出る。
きょろきょろと辺りを見回すとすぐにフィーネ達を見つけることができた。
フィーネ達の方へと歩いていくと、何か会話をしていたらしいフィーネ達も俺に気づき俺の方へと全員で近づいてきた。
「待たせたな。まあ、実際はそこまで時間がかかってないと思うけど」
「そうですね。それほど待ってないですよ、イオリ様」
とりあえず、フィーネ達と合流し、依頼を問題なく受けたことを伝える。
フィーネ達の方はというと、特に何かあったと言うことはなく、雑談をして居ただけらしい。
情報の交換を終えた俺たちは、早速とばかりにダンジョンへ潜る事にする。
現在、俺たちのパーティーが潜れ最深の階層は六十五だったはずなので、そこから、一気に八十五階層まで脇目も振らずに潜り、罪人の確保を行う予定だ。
問題は、罪人の強さだが、少なくとも以前調べた限りでは、俺たちの脅威になることはないはずだが……
「とりあえず、六十五層から一気に八十五層まで進むぞ」
「うーんと、そっからうちらは、リゥムだったかを探すんだな? 探索は結局所は、お前だのみになるから頼んだぜ!」
アイツに先に言われてしまったけど、一応やることは理解しているのか。
まあ、それはともかくとして二十階層を一気に潜るので、気を引き締めていかないといけないな。
ダンジョンの入り口に付くまでの道のりで、今回の探索の進め方について、皆と認識を合わせておき、ダンジョン内で慌てないようにしておく。
そうこうするうちに、ダンジョンの入口についた。
今日のダンジョンの受付に座っている人は、赤毛のセミロングがよく似合う少し幼い感じの女性のようだけど、初めて見る人だ。
「手続きをお願いします」
「はい、あっ、『ストレンジャーズ』の皆様ですね。先程、組合長から連絡を受けています。カードの確認ができましたのでお返しいたします。ダンジョン探索の計画の確認は結構ですので、そのままダンジョンへお入り下さい」
「分かりました」
依頼を受けたのはつい今しがた、そして特に寄り道もせずにダンジョンへとやって来たのにも関わらず、俺たちや依頼について連絡が先に来ていたようだ。
何らかの連絡する手段を組合は持って居るのかもしれないな。
手続き自体も、連絡が取れていたためか、すんなり終わった。
入り口へと向かう直前に、深々と頭を下げてお辞儀をされ、よろしくお願いいたします、と言われたので一瞬俺達は顔を見合わせるも、すぐに頷き合う。
よろしく、と言われたら、それに対する返事は一つだ。
「任せて下さい。依頼は完遂してみせます」
受付の女性に改めて挨拶をし、ダンジョンの入口でもはやお馴染みとなった呪文を唱える。
「『六十五層、ダンジョンへ」
さて、俺達が入り口から呪文を唱えやって来たのは六十五層だ。
目的の階層である八十五層までにはまだ後二十層はあるが、まあそのぐらいであれば『自動地図』を使い、力押しで探索すれば何となかりそうな気がする。
ダンジョンの階層内の地図を自動で作る『自動地図』でボス部屋までの最短経路を探し、あとは迫り来る魔物を殴り倒し進むだけだ。
フィーネ達に、ほら簡単だ、と話すと呆れられた目をされ、リーン達に至っては、もはや悟りを開いたかのような目をしていた。
解せぬ。
「と、とりあえず気を取り直して出発だ。ボス部屋への最短経路もわかったから、早速進むぞ」
「そうですね、では皆さん行きましょうか」
なぜか、フィーネが号令をかけ、俺以外の皆はそれに答えているが、気にしないことにする。
俺は、最初から『自動地図』を全力で使い、最短の経路を割り出しダンジョン内をリーン達が付いてこれる速度に抑えつつも走りながらどんどんと進む。
移動の途中、魔物と出会うも俺の魔法やフィーネが鎧袖一触であえなく肉塊に変わる。
ただ、今回は速度を優先するため、勿体無い、非常に勿体無いが『倉庫』などへ回収せずにそのまま放置して進む事にする。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
感想、評価、ブックマークを頂けると励みになります。
誤字や脱字の指摘もあればお願いします。
次の投稿は8月18日の予定です。




