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異世界のイオリと伊織  作者: 猿丸駿
第一章
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第九十三話 イオリと組合前の騒動

 それからしばらくすると、この店の店主が台車に料理を載せてテーブルまでやって来たので慌てて広げていたグルメマップを仕舞う。

 結局、何事もなく料理は出来上がったようだ。

 何か起きるかもと少し身構えていた自分が馬鹿みたいだ。


「待たせて悪かったな。順番にテーブルへどんどん並べるから好きに仕舞ってくれ」


 そう言うや否や、台車から言葉通りにどんどんとテーブルへと料理が並べられていく。

 見た目からして美味しそうな料理に暫く見とれていたが、流石にそのまま見とれているとテーブルがすべて埋まり、空いている場所が無くなりそうだったので慌てて『倉庫』にしまい始める。

 最終的にすべての料理を終い、店主の毎度あり、の声を聞きつつ店を出る。

 外に出ると空が茜色に染まっていた。

 どうやら、いつの間にか結構な時間が経っていたようだ。


「これからどうするのじゃ?」


 リーンに予定を聞かれるが、さてどうしよう?


「もう夕方だし、このまま組合で夕食にするか?」

「では、僕の話は道すがらにでも…… あ、やっぱり戦利品を広げたいので落ち着いた所で話したいですね」

「そうか。まあ、そんなに焦っては居ないし、俺は夕食を食べながらで構わないけど、みんなはどうだ?」

「妾はそれで良いのじゃ」


 フィーネ達も頷いているので、さっきのお店で聞けなかったソータの話は組合に戻ってからだな。

 それから歩くこと暫く、何事もなく組合に付いた。

 道中は何事もなかったが、どうやら組合で問題が起きているらしい。

 普段は多くて数人といった所だけど、組合の入り口前に人垣ができるほどの人数が集まっているようだった。


「なんか組合の前が騒がしいな?」

「そうですね。ちょっと聞いてきます」


 フィーネはそう言うと俺が止める間もなく、人垣の中心に向かい歩き出す。

 人垣の端にたどり着くと、躊躇すること無く中へ飛び込み、人を掻き分けながら進む。

 割り込まれ不機嫌な様子の探索者らしい男達と少数の女性達は至近距離にまで近づいたフィーネに気が付くと、まるでメデューサに睨まれたように例外なく固まるのが人垣の外から観察できて面白い。

 フィーネは女性としては背が高い方だし端整な顔立ちの美人という事も関係しているのだろう。

 まあ、それを見ているのも面白いけど、人垣の直ぐ側に陣取っているのは流石に通行のじゃまになるだろうと、少し離れた位置で待っている事にした。

 もっとも、すでに若干通行に支障が出るぐらいにまで人垣が膨れ上がっているので、どれほど効果があったか疑わしいけど。


「お待たせしました。人垣の原因について確認してきました」


 しばらくすると、フィーネが人垣から抜け出し、キョロキョロと辺りを見回し、俺達のことを見つけると、たっ、たっと小走りで戻ってきた。

 フィーネにお疲れ様、と言った後、そのまま確認してきた状況について聞くことにする。

 現状を見ると、しばらくは組合で落ち着けるようにはならないだろうからな。


「えっと、そうですね。まずは人垣を抜けた後に何を見たか、から話しますね。掻き分けて何とか人垣を抜けると――」


 フィーネから聞いたことを纏めるとどうやらこういう状況らしい。


・組合内はまるで強盗にあったかのように物が散乱し、所々に血の跡などの争った後があった。

・何人かに聞いた所、どうも地下に勾留されていた罪人が逃げ出す時に暴れたらしい。

・逃げ出したのは女性が一人で、つい先日捕まった『デイブレイク』に所属していたらしい。

・散々暴れた後、衆人環視の中で突然姿を消したらしい。

・暫くは組合内の片付けなどのために、受付業務以外を停止する。これには食堂の営業も含まれるとのこと。


 と、このような状況だったようだ。

 一部の情報は聞き取りの結果なので、正しくないかもしれない、とフィーネは言っていた。


「うーん、逃げ出したのは、リゥムさんかな?」

「リゥムさんと言うと、『デイブレイク』に所属しつつ、『暁の解放者』にも所属していたって言う、あの?」

「そうそう」

「組合の管理はどうなっておるのじゃろうか?」

「起こった事は、仕方ない」


 ソフィーはそう諦め気味に言うけど、まさか脱獄するとはすこし見通しが甘かったかな。

 組合の監視が緩かったのか、それとも脅威の見積もり以上だったのか、一体どっちだろうな。

 これなら対象の方向と距離が分かる『錨』でも仕込んでおくべきだったか?

 あ、でも突然消えたとするなら、おそらく転移系の魔法か魔道具を使ったんだろうな。

 偽装されていなかったとすると、転移系の魔道具を使ったんだろうけど、一体どこに隠していたんだろうか?

 転移系の魔道具で、今さっき思い出した。

 この世界に来た初日にあった爆弾騒ぎの犯人も、俺が阻止しなければ転移系の魔道具を使いまんまと逃げ出していた未来もあったはずだけど、俺が手を出した結果、実際には逃亡に失敗して捕まったはずだ。

 さて、件の『錨』の魔法とは、実際には単体の魔法があるわけではなく、『目印』と『魔力探知』の二種類の魔法を組み合わせて使う場合の名称だ。

 この『錨』の仕組み自体は、発動すると特異な魔力を放出する『目印』の魔法を対象に付与し、『魔力探知』でその魔力を探す、という極簡単なものだ。

 ただし、仕組みが簡単だからと言って、実用が容易いとは限らないことに注意が必要となる。

 例えば、『目印』の魔法の持続時間を如何に長くするか、如何に対象に気が付かれないように『目印』を使うか、『魔力探知』での魔力の探索範囲を如何に伸ばすか、など諸々の問題をどうにかして、やっと実用に堪えることができる魔法となるのだ。

 とまあ、使う機会を逃した魔法についてはこの辺りにしておこう。

 話を戻すとして、転移系の魔道具を使って逃げた可能性が高いのであれば、もはやこの近辺には居ない可能性が高い。

 フィーネじゃないけど、起こったことは仕方がないこととして、これからのことを考えないとな。


「で、どうする?」

「まあ、どうすると言われても、僕達で出来ることは殆ど無いですね。流石に、転移で逃げた人もイオリくんなら追える、とか言い出さないですよね?」

「まあ、事前に仕込めば出来たけど、現状の手札だと無理だな」

「場合によっては出来たのか…… イオリさんも大概だけど、イオリくんも似たようなものですね。異世界のイオリって名前の人はみんなおかしいのでしょうか?」


 最後は、ほとんど聞き取れなかったけど、何か失礼な内容のような気がする。


「逃亡した人の事は今は出来る事もないので頭の片隅にでも置いておく事にしましょう。気を取り直して夕食でも、と言いたい所ですが、組合の食堂が使えないので街で探すしかないですね」

「だな。さすがにうちは探索者組合の、えっと名前忘れたけど。まあ、そこの食事はゲロマズで二度と食べたくないから、それ以外にしてほしいな」

「『探索者組合経営簡易宿泊施設』ですね。イオリさんに無理やり連れてこられて仕方なく食べましたが、話に聞いた以上の味でした。僕も二度とごめんです」


 ああ、二人共あれを食べたのか。

 ケーネさんに忠告されたので食べるのは止めたんだけど、止めて正解だったな。

 フィーネも明らかにホッとしたような顔をしている。


「それじゃあ、夕食を食べに街へ繰り出すか!」

「さんせー」


 それから、街をぶらぶらと歩き、適当な店へと入る。

 店員からおすすめされた料理を頼んでみたけど、味も良く値段も手頃で大当たりだった。

 行き当たりばったりでのお店選びは、今回のような大当たりがたまにあるからやめられないな。


「おいしかった」

「だな。予想外って言うと怒られそうだけど。うん、まあやっぱり予想外に美味しかったな。うちのお気に入りの店に追加だぜ」


 店を出た後、俺達は未だに人だかりが残る組合の前を、そのまま前を通り過ぎて隣の『探索者組合経営簡易宿泊施設』で宿泊の手続きをして、部屋の前でパーティーメンバーと別れる。

 別れた後は、久しぶりにシャワーを浴び、これまた久しぶりにベットに潜り込むと、すぐに眠りの彼方へと旅立つのだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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誤字や脱字の指摘もあればお願いします。


次の投稿は8月4日の予定です。

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