第九十一話 イオリとシチューと行きたいお店
料理ができあがる間、俺達はテーブルの上に広げられたグルメマップを見て、次に行く店を決めることにする。
「さてと。どこに行くかな」
「そうですね。どんな料理を売りにしているかなどが書いてあればよいのですが……」
お店のおすすめ料理か。
こればかりは実際にお店に行って中に入ってみないと分からないかもしれない。
と、思っていたことがありました。
「あ、イオリ様! 地図の裏にお店の紹介が書いてありました!」
「ん? ああ、なるほど地図上の数字はこのためなのか。気が付かなかった」
グルメマップは貰ったときから、地図が描かれている面を仮に表側として、その表側しか見ていなかった。
てっきり、片面にのみ印刷がしてあるものだと勝手に決めつけていたけど、そうではなく、裏側にはお店の紹介が書かれているようだった。
グルメマップの裏面には幾つの店が載っているのか、ひい、ふう、みい、と数える途中で、紹介欄の中に書かれている数字の中から一番大きな数字を探せば良い事に気が付く。
途中抜けている数字がないかざっと見てみるが、どうやら一から飛ばす事なく五十と書かれた最後のお店まで数字を順に振ってあるようだ。
俺がお店の数を数えていた時、フィーネはと言うと地図の裏側に書かれていたお店の紹介欄を上から順に見ていた。
「うーん、殆どが軽食をお勧めとしているようですね。 あ! ここなんか良さそうです」
ほどなくして、フィーネは行ってみたい店を見つける。
どれどれとフィーネが指差している店の名前を見ると、何故か見覚えがある。
はて、どこで見たのだろうか?
「フィーネ、このお店の場所は、ここからだとどう行くんだ?」
「えっと、場所はですね…… あっ……」
お店の紹介欄の左上に書かれている番号を覚え、グルメマップの地図を見るために裏返し、お店を探すフィーネ。
地図上では多少の例外はあるけど、裏側の紹介欄と表側の地図とを結ぶための番号は、地図の上側から順に振ってある。
結局、お店の場所はどこなんだろうと思い、フィーネの方を見ると地図のとある場所を指し示した状態で固まったように動きを止めた様子のフィーネがいた。
不思議に思い顔を上げるが、途中で理由に思い当たる。
「どうした? あっ!」
「場所は…… この店でした」
どうやら暫く固まっていたのは、通りに着いて何気なく入ったお店と、フィーネが紹介欄を見て選んだ店が同じ店の事だったためらしい。
この店は、通りを入ってすぐの立地が良い所に店を構えていて、おすすめの料理も他の店とはひと味もふた味も違っているので、偶然に店に入ることがなかったとしても、最終的にはフィーネがこの店を見つける可能性は高かったのかもしれないな。
まあ気を取り直して俺とフィーネはお店の紹介欄を読み進め、他に珍しい料理を出している所がないか更に探す。
そうして幾つか気になったお店を現在地から近い順に一覧にすると、こうなる。
・シチューやスープが専門の『ルエルルさんのスープ&シチュー屋』、つまりは今いるお店だ。
・ハンバーガーなど軽食がメインの『ワトーキッチン』、ここはサンドイッチとバーガーを扱ってる。
・サンドイッチなどを扱っている『サンド・オーク・サンド』、オーク肉を使ったサンドイッチなどがお勧めらしい。
・パンが専門の『エシーヌのパン屋』、表面を固く焼き上げたひょろ長いパンを切り売りしている。
・変わり種のパンを扱っている『ユエッソ』、パンの中にオーク肉のしぐれ煮などが入っている。
・フィッシュアンドチップスを扱っている『ザ ネッジベ』、他のダンジョンで獲れる白身の魚系魔物のフライにジャガイモの細切りをフライした物が添えられている。
・エンカーゴドッグをベースに色々なトッピングができる『トマオム’ズ・ドッグ』、パンにソーセージを挟んだ所謂ホットドッグの様なものらしい。
・カバーブのサンドを売りにしている『テニカバーブイシナ』、同じ様な店が何故か固まっていたけどなんとなくここを選んだ。
・ドーナツ専門の『ロシニードーナツ』、いろんな種類のドーナツが売りらしい。
・オーク肉のステーキなどを扱う『オーク・オーク』、独自の調理法でテイクアウト可能にしてある。
一覧にしてみたけど、全体的にはサンドイッチなどの軽食を扱っていたり、売りにしているお店が多いようだ。
ちなみに、これらの一覧は『編集モード』のメモ機能を利用して記録を取り、『複製』の魔法で紙に纏めてある。
そういえば、アイツやリーン達も同じ地図を見ているはずだけどどこか出会うのだろうかと考えるけど、まあその時はその時か。
気を取り直して、グルメマップを穴が開くまでフィーネと一緒に見ていると、店員の少女がトコトコとこちらにやってくるのに気が付いた。
グルメマップから目を離し顔を上げると丁度少女と目が合った。
「すいません。お待たせいたしました。料理の準備が出来ましたので、こちらに持って来てもよろしいでしょうか?」
「はい。おねがいします」
どうやら、注文した料理ができたようなので慌ててテーブルに広げていた地図を片付ける。
料理はどうやって運んでくるのだろうと、カウンターに戻った少女の方を見ると、カウンターからフワフワと料理が乗ったトレイを引き寄せている様子が目に入った。
あれはもしかして、と思いさくっと魔道具らしき物を『鑑定』してみると、予想したとおりミンティアナさんの所でミーナちゃんが使っていた『運べーる』と同じ魔道具のようだった。
ミンティアナさんが何気なく使っていたけど『運べーる』を他で使っているのを見たのは初めてだな。
「お待たせいたしました。『オーク肉ときのこのビーフシチュー』が六人前です。料理に使われている容器は使い捨てとなっておりますので、食べ終わったらそのまま破棄して頂いて結構でございます。こちらは『かぼちゃのポタージュスープ』ですね。これも六人前で――」
店員の少女は俺達が座るテーブルのすぐ横にやってくると、地図を片付け場所が空いたテーブルの上に料理を順に並べ始める。
説明を聞きながら少し待つと、説明が終わるのと同時に料理もテーブルに並べ終わる。
「以上でご注文の品はお間違いないでしょうか?」
「はい。注文通りです」
「ありがとうございます。お水はテーブルに置いたままで結構でございます」
料理をテーブルに並べ終わった店員の少女はトレイと『運べーる』を両手に持ってカウンターに下がる。
さて、とテーブルに並べてある料理を見てみる。
言葉で五種類六人分の量というのは言葉では一言で済むけど、実際にテーブルの上に並べられると思った以上の量がある。
一瞬、そう一瞬だけは注文し過ぎたかと思ったけど、すぐに『倉庫』へ収納するので問題ないか、と考え直す。
すこし固まっていたよう。
フィーネがどうしたのですか、と首を傾げていたので、なんでもないと答えて、テーブルに並べられた料理を『倉庫』へどんどん放り込んでいく。
まあ、『倉庫』に入れるだけなら、このぐらいの量はなんでもないのですぐに収納は終わる。
ここでの用事は済んだのでフィーネとともに席を立つ。
席を立った後で、料理が片付けられスッキリしたテーブルを一瞬振り返り見るが、水はそのままで良いと言っていたし、特に忘れ物はないかな。
「ご利用ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
店を出る直前に、店員の少女にしっかりとしたお辞儀と挨拶をされる。
すこし堅苦しい気もするけど、接客もしっかりしているし、また来ようかと思うお店だな。
もっとも、料理の方の味次第だけど、店員の少女の態度を見た限りでは、きっと料理の方も美味しいのだろうと思う。
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次の投稿は7月21日の予定です。




