第九十話 イオリとシチューのお店
店員の少女は、俺達をまず入り口に一番近いテーブルに案内する。
そして地図をテーブルの上に広げるようお願いされたので、俺はその指示に従い、手元の地図をテーブルの上に乗せると適当に広げる。
テーブルの上に無造作に広げられた地図を少し整えながら、えっとどこでしょうか、と何かを探す店員の少女。
地図全体を一通りぐるっと見回した所で目的の物を見つけたようだ。
「もう、毎回デザインが変わるのは何とかして欲しいです…… えっと、失礼いたしました。ここを見て頂けますでしょうか」
少女が指し示した所を見ると装飾された枠で囲われた中に文字と図柄が書かれている。
上から順に見ていくと、その中には『ランチあり』や『ディナーあり』、あとは『トイレあり』などなどが、たとえ文字が読めない人でも見れば何となく意味が分かるような図柄とともに記載されていた。
枠内に書かれている項目は他にもあったが、もっとも重要なのは俺達が探していた『テイクアウト可』の文字と図柄なのでそれを探すと、真ん中あたりにそれを見つける。
「なるほど、この籠のような図柄のありなしで、テイクアウトが出来るか出来ないかを表しているのか」
「そうです。そして、今居る場所はここのお店となります。ほら、ここに図柄があるのがわかると思います」
「と言う事は…… 俺たちはこっちからこうまっすぐ来たわけか。なるほど、わかりました。ちなみにこのお店ではどんな料理がオススメですか?」
「うちはシチューに力を入れてまして、どれも美味しいですが…… そうですね、一晩じっくりと寝かしたキラーラビットを使ったシチューがオススメですね。中に入った具材のジャガイモやニンジンなどはしっかりと形を残しつつも口の中でほろほろと溶けるようにして崩れ――」
「ま、まった、まった」
一体何が琴線に触れたのか分からないけど、突如として料理についてを熱く語りだしたので、慌ててそれを止める。
この店員の少女は、このまま放っておいたら暫く語り続けていただろうと思う。
そのまま聞いていたら、さっき昼食を食べていたにも関わらず、思わず料理を注文してそのまま食べてしまいそうだったので、止めたって理由も実はある。
実際、空腹ではないにも関わらず少し生唾を飲み込んでしまった。
熱く語っていた少女はと言うと、途中で止められたために一瞬不満そうな顔をしたが、俺達の様子を見て状況に気が付いたのか顔が赤くなっていた。
そんな少女の様子に茶々を入れるのは可哀想なので、気が付かなかった振りをして、俺達は当初の目的のテイクアウトについての話を進めることにする。
「えっと、とりあえず、そのテイクアウトをしたいのだけど」
「へっ? あっ、はい。えっと、テイクアウトですか? あ、いえ、テイクアウトでしょうか? では、テイクアウト用のメニューをお持ちしますので少しお待ちください」
店員の少女は、少し慌てた様子でパタパタと小走りでカウンターの中に入る。
しばらくすると、お水とテイクアウト用のメニューらしき物を持ち、俺達の座るテーブルまで戻ってきた。
「お待たせいたしました。お水と、こちらがテイクアウト出来る料理のみが乗っているメニューとなります」
「ありがとう」
「では、ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」
そういって、カウンターに戻ろうとする店員の少女を慌てて引き止める。
「あ、注文いいでしょうか?」
「えっ? は、はい」
今回俺達は、どれか一品を決めて購入するのではなく広く浅く物を集めるために収納魔法の容量に物を言わせ買い漁るつもりだ。
そういうわけなので、お店のお勧めの料理などを中心に注文する事にしている。
料理は当然のことながら六人分での注文を基本とする。
「ご注文をどうぞ」
「えっと、このお勧めの『キラーラビットと野菜のシチュー』と『オーク肉ときのこのビーフシチュー』と、『オーク肉とにんじんジャガイモのクリームシチュー』と『かぼちゃのポタージュスープ』、あとは『ダンジョン産魚介類のごちゃ混ぜシチュー』を、それぞれ6つ」
「えっと、『キラーラビットと野菜のシチュー』と『オーク肉ときのこのビーフシチュー』、『オーク肉とにんじんジャガイモのクリームシチュー』、『かぼちゃのポタージュスープ』、『ダンジョン産魚介類のごちゃ混ぜシチュー』を、それぞれ6つで。6つ!? あ、いえ、失礼いたしました。えっと、テイクアウトは基本的に前払いなのですが大丈夫でしょうか? あと、数が数なので少々お時間を頂きますがよろしいでしょうか?」
「えっと、はい。問題ありません」
では少々お待ちください、とメニューを回収しカウンターに戻る店員の少女は、なんか手荷物とすぐに踵を返し戻ってきた。
「お待たせいたしました。組合のカードをこちらに翳して、金額に問題がなければこちらの決済ボタンを押して下さい」
店員の少女の指示通りに俺の持つ組合のカードを翳すも、短く三回程度音が鳴るが、一向に金額が表示されない。
何回か同じように翳してみるが状況は変わらず俺は首をかしげるが、店員の少女は何か気が付いたようだ。
「ああ! 申し訳ございません。別のダンジョンの組合カード用の設定になっていました。えっと、ここ、だったかな? よいしょっと。お手数ですが、もう一度お願いできないでしょうか?」
「えっと、はい」
店員の少女が端末をゴソゴソと操作した後、再度同じように組合のカードを翳すと、注文の合計金額が197セタとでる。
どうも話を聞くと、前回支払い時に別のダンジョンから来たばかりのお客さんだったようで設定を変えたまま戻すのを忘れていたらしい。
まあ、それはともかくとしてテイクアウトのみが載っているメニューから選んだ料理は7セタ前後だったから、それに五種類に掛けることの、六人分なので、210セタか、これはまたなかなかの金額だ。
合計の金額大まかに計算してみると、表示されている金額とほとんど同じぐらいなので、多分あっているだろうと言うことでポチッと決済ボタンを押す。
「はい、ご注文ありがとうございます。料理のご準備が出来るまで、そのままお待ちいただくか、用意ができたらこの魔道具でお呼びすることも可能ですがいかが致しましょうか?」
「うーん…… どうする? フィーネ」
「そうですね…… せっかくですので、こちらで待たせてい頂きましょう。その間に、グルメマップからお店を選びませんか?」
どうしようか、とフィーネに聞いてみると、フィーネはテーブルの上のグルメマップをちらっと見るが、すぐに結論は出たようだ。
待っている間にグルメマップから目ぼしい店を見つけ、料理を調達を素早くできるようにと、フィーネなりに考えらしい。
そう言う訳なので、店員の少女にも料理が出来上がるまで店の中で待つことを伝える。
「料理が出来上がるまで、中で待つことにします」
「分かりました。このテーブルはご自由にお使い下さい。では、ご用意が出来るまでしばらくお待ち頂けますでしょうか。何か御用があれば遠慮なくお呼び下さい」
そう言い、店員の少女は俺達に軽くお辞儀をすると、カウンターの中へと戻っていく。
ちなみに、料理の方は料金を払った段階で作り始めたようで、店の奥から子気味良い音がして言た。
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次の投稿は7月14日の予定です。




