第八十六話 イオリと合宿三日目
リーンがテントの中で寝ているフィーネを呼びに行く。
おっと、忘れずに『アラーム』を次の交代の時刻に設定するとして、音量は小さめでいいか。
時間を開けることなく、すぐにフィーネが起きてくる。
もしかして、リーンに起こされる前にすでに起きていたのだろうか。
今、俺達のパーティーでは俺とフィーネが購入したテントとソータ達が購入したテントの二つを持っている。
両方のテントは、共に四人用で、無理をすれば後一人か二人は利用できる大きさだ。
もともとは、俺達が購入したテントで野営をしていたが、ソータ達も購入した後でリーン達が俺達のパーティーへ加入したので、丁度二つある事だし、と男女で分かれて利用している。
アイツやフィーネは勿論、リーン達も特に男女で分かれていなくても気にしないとは言っていたけど。
俺達のパーティーは男女の人数比が偏っているので、男女で分かれると俺とソータの寝ているテントでは隙間が空くので荷物を置いている。
ただ、元々が魔法で収納している関係で荷物自体がそれほど多くないのでフィーネたちには少し窮屈な思いをさせているのは申し訳ないな、とは思っている。
「そういえば、アイツと――」
「えっ!? イオリさんが、どうかしたのでしょうか? もしかして、イオリさんと何か……」
「いや、単に前の世界のことについて話したってことだけなんだけど」
「そ、そう、ですか」
アイツと話した異世界についての内容、つまりソータが住んでいた世界の事についててフィーネにも伝えておく。
他にも些細な事を、例えばアイツの『編集モード』で使われている文字が俺と同じ文字だった事などもフィーネと話をしていたが、いつの間にか『アラーム』が鳴っている事に気が付く。
もう交代の時間のようだ。
「じゃあ、交代の時間みたいだからソータを起こしてくる」
「はい。お休みなさい、イオリ様」
フィーネに見送られながらテントへ向い、中に入る。
テントの中を見ると、ソータが丁度、背伸びをして体をほぐしている所だった。
「お、丁度起きたところか」
「はい。ぼちぼち寝られました。本音を言うともうちょっと寝ていたかったですけど」
ソータと一言二言話し、交代する。
それから俺は『倉庫』から寝袋を取り出し、それに潜り込み夢の中へと旅立つ。
「イオ…… 起き……」
ゆさゆさと揺さぶられ、意識が覚醒する。
就寝時でも敵意や殺気などの類いが俺自身に向けられていれば、瞬時に覚醒するのだけれど、それらを別にすると朝は苦手な方だ。
まあ、『アラーム』によって強制的に起こされはするんだけど。
うーん、と『アラーム』は…… 鳴っていないようだ。
まだ起きる時間には早いような気がするけど、誰が俺を揺さぶっているのろう?
「イオリ兄、起きる」
「ん? ソフィーか。何か問題が起きたか?」
「そうじゃない。朝、起きる」
「うーん、時間には少し早いと思うけどなぁ。ま、いいか。起こしてくれてありがとう」
ソフィーは、あれっと、まるで頭にはてなマークが浮かんでいるような感じで首を傾げていたが、俺が頭をワシャワシャと無造作に撫でると目を細めて気持ちよさそうにしている。
俺が撫でるのを止め頭から手を離すと、名残惜しそうに手を見ていたが、すぐに頭を振ると、おはようと言い、テントから出ていく。
そういえば、ソータはどうしたんだろうと思い、隣を見るとすでに起きた後のようだ。
寝袋を終いテントを抜け出すと、すでにアイツも起きていた。
「おはよう。起きるの遅かったか?」
「いえ、ちょうどいい時間だと思います。僕は少し早く目が覚めてしまったので」
「ん? そうなのか? うちはちょっと遅いかな、と思ってたぞ?」
「「ん?」」
俺とアイツで認識が逆のようで、二人して首を傾げる。
人により『アラーム』の時間の進みが違うのか?
「あ、そういえば言ってませんでしたね。『アラーム』は、使う人の心臓の鼓動を基準にして時間を刻んでいるそうなので、男女や体格、日中の活発な活動時と就寝時などで時間の進みが多少違うらしいです」
「へー、なるほど。そういうことか」
「なるほど、それは知らなかったぜ」
「いや、イオリさんは前に一度仕組みを聞いているはずなのですが……」
なるほど、『アラーム』は、そういう仕組で時間を刻んでいるのか。
しかし、運動時と就寝時とでは違いもあるし、どうやって一定にしているのだろうか、と考えたところで今調べることでもないかと思い直す。
また、どっかのタイミングで『アラーム』を調べてみるか。
「フィーネとリーンも起こして…… ああ、ソフィーが起こしてくれたようだから、少し早いけど朝食を食べて出発するか」
「ですね」
「お腹、少しへった」
もう少しゆっくりしても、と思ったけどソフィーが寝ている二人も起こしてしまったので、朝食を食べてさっさと特訓の続きをすることにする。
本日の朝食もお弁当のおかずにオニギリとなる。
何日もダンジョンに潜っていると、お弁当の種類がそこそこあるとしても、そろそろ別のものが食べたくなってくる。
俺やソータが使う収納魔法は時間の経過を止める事ができるので、出来たての料理を入れておいても、冷める事もなく腐る事もないので保存については問題ない。
問題があるとすれば、他の探索者に食べている所を見られてしまうことだろうと思うけど、昼間の一時的な休憩時ではなく夜の野営時であれば、多分見られることはないので問題ないだろうと思う。
あと、解決しなければ駄目な問題は料理をどうやって調達するか、だろうな。
まあ、それもダンジョンを出てからの話なので、今は探索と言うかリーン達の特訓に集中しよう。
「じゃあ、今日の特訓も昨日までと同じように、ひたすら繰り返して探索し、少しづつ深い階層に行ってみよう。リーン達は昨晩の反省点は覚えてるな?」
「無論なのじゃ」
「大丈夫」
「であれば、俺からはこれ以上は特に言うことはないな。ソータはどうだ?」
「僕もないですね」
「じゃあ、テントなどを片付けたら出発だ」
「「わかった(のじゃ)」」
俺とソータがテントを片付ける間に、細々としたものをフィーネ達が片付ける。
まあ、やる事はほとんど何もないけど。
「じゃあ、今日も安全第一で行こうか。では、出発だ」
「「了解(なのじゃ)」」
今日も朝から順調にダンジョン探索、もとい特訓を開始する。
今回の特訓では、リーン達は『自動地図』を使わずにダンジョン内の地図を自ら描かせている。
俺が使う便利な魔法があるとはいえ、現状ではリーン達にとって、それは言ってみれば他人から貸し与えられたものだ。
世の中何が起こるかわからないし、基礎は大事なのだから、と言う理由で自らダンジョンの地図を作る作業を探索と同時に課題として与えている。
もっとも、俺達は引率者という立場なのだから、と言う理由を作り『自動地図』を使っている。
決して、全員が全員、地図作成が得意ではないとかそう言う理由ではない、たぶん。
まあ、それはともかく、考えてみればダンジョンの各階層で今まで俺達が一歩目を踏み出すのは毎回決まって片方が行き止まり、その反対側は暫く進むと二股以上の分かれ道に繋がっている場所だったな。
他にも、気が付いた事がある。
各階層で一歩目を踏み出す場所は一見ランダムのようだが、数日前に一度だけ同じ場所に、そして気が付いただけでも数回は近い位置に出た事がある。
もしかしたら、探索者が探索を開始できるダンジョン内の場所は限られているのかもしれない。
などと俺達が後ろでこんな事を考える事が出来ているのも、リーン達が着実に探索をしているお陰だな。
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次の投稿は6月23日の予定です。




