第八十五話 イオリと新しい魔道具や人の呼び方
しばらくすると、アイツが交代のついでに起こしに来たが、何故か残念そうな顔をしていた。
危なかった。
もし、そのまま寝ていたら、起こすために何されたかわかったもんじゃない。
「じゃあ、交代だな」
「おやすみ。さっきからずっと眠いから、うちはさっさと寝るぜ」
日中ほとんど何もしてないのに不思議な奴だなと思いながら、テントに入るアイツを見送る。
さて、今回の野営では、『審判神の回転板』に続く、ソータ所有の新しい魔道具が使われている。
この魔道具は、ソータ曰く正式名称としては長ったらしい名前があるらしいが、普段は『魔導ランプ』と呼んでいるらしい。
まあ、名前の通りに灯りとして利用できる魔道具だ。
ちなみに、この魔道具を取り出した時、他にも似たような魔道具を所有しているから、幾つか要らないか、とソータが聞いてきたので有難く譲ってもらい『倉庫』の中に仕舞ってあるので機会を見て構造などを調べてみようかと思う。
ソータ自身は魔道具の制作よりも蒐集の方が好きらしく、実用品から観賞用、果ては、アイツが言う所の何だか分からないようなガラクタまで、節操なく集めていたらしく、『アイテムボックス』の中身の半分以上はそれらで埋まっているらしい。
まあ、ともかく、何故これまで利用していなかったランプを使うようになったのかと言うと、通常はダンジョン内の通路やほとんどの小部屋は、篝火やライトなど光源となりそうなものが見当たらないにもかかわらず、探索に支障が出ないぐらいには明るくなっている。
しかし、今夜の野営場所として選んだ場所はかなり薄暗い。
他の候補も探したことは探したが、薄暗いことを除けば一番の場所だった事と、ソータが『魔導ランプ』を得意げに取り出してきたので、まあここで良いかと最終的には妥協した。
この『魔導ランプ』は単に周囲を明るく照らすだけでなく光量が変更可能となっているため、夕食時は通路と同じぐらいの明るさに、そして見張りの時には行動に支障が出ないぐらいの明るさまで暗くしている。
「そこに座るのじゃな」
交代した直後、魔具ランプを挟んで反対側に腰を下ろすと、リーンは立ち上がり、トコトコとこちらにやってくる。
そして、隣りに座るでもなく、膝の上に乗ってきたので、次はフィーネだけど良かったのかと聞くと、ハッとした表情をして、さっと顔色が悪くなり、両腕で自分の体を抱きしめガクガク震えだした。
しょうがないので、隣にリーンを移動させ、頭を暫く撫でていると落ち着いたようだ。
「落ち着いたか?」
「う、うむ。だ、大丈夫なのじゃ。次の番がフィーネ姐様なのを忘れていたのじゃ」
ほんとうに大丈夫なのか?
一体フィーネ達は何をしたんだか。
フィーネ姉様って、フィーネがそう呼ばしているのか?
あと、なんか姉様の部分のイントネーションが俺が思っている感じと違ったような気がする。
「そういえば、リーンやソフィーは、俺達をどんな呼び方で読んでいるんだ?」
「呼び方? 妾は、イオリ兄様、ソータ兄様、フィーネ姐様、イオリ姐様じゃな。ソフィーは、イオリ兄、ソータ兄、フィーネ姐、イオリ姐だったはずじゃ」
「ふーん」
やはりイントネーションおかしな気がしないでもないけど、まあいいか。
俺の隣に落ち着いたリーンとそれから暫くいろんなことを話す。
例えば竜の里の様子や兄弟などの事、例えば俺の使っている魔法やリーンが使える魔法などの事、今日の特訓の様子、などなどだ。
特にリーンがダンジョンで囚われている前に住んでいた竜の里についての話はなかなか興味深かった。
竜は成人すると普段は基本的に群れを作らないらしい。
なので竜の里は、里と呼んではいるけど、その実態はと言うと長と呼ばれる最年長の古竜のもとへ番の竜と産まれたばかりの幼竜、そしてまだ独り立ちしていない兄弟竜が集まり、幼竜がある程度の歳になるまで保護し育成する集まりになるそうだ。
そして、その幼竜だけど、ここ最近はどうやらリーン以外に産まれていなかったために、両親や兄弟、子供が巣立ったばかりの番の竜達の可愛がり様は、それはもう凄かったらしい。
本人であるところのリーン曰く
「物心がついてからは、あっちに行くにもそっちに行くにも後ろを付いてこられて、鬱陶しかったのじゃ」
といった感じだったらしい。
ちなみに、最近というのは竜の基準で言う所の最近なので、実際は百年ぐらい前の話らしい。
「なるほどな。話は変わるけど、俺の使う魔法で『編集モード』と呼んでいるのがあってだな」
「突然なのじゃな」
まあそう言うなと、俺の使う『編集モード』についてリーンへ伝えることにする。
俺は『編集モード』を見つけた時点ではそこまで大した内容とは思っていなかったが、以前の仲間は秘匿した方がいいと思うが見つけた本人が良いなら口をだすことではないな、と言っていたり、教えるならお金を取ったほうがいいぞ、などと言っていた。
そういうわけなので、おおっぴらに言うつもりはないけど、特に秘密にするつもりもなく、聞かれたら答えるし、場合によっては格安でやり方を途中まで教えることにしている。
なにせ、誰でも手順さえ間違えなければ使え、基本的な機能自体は変わらないにしろ人により、編集の仕方などの細部が異なるために、結局は個人個人の技能に近く、教えたからと言ってすぐに使いこなせるとは限らないのだ。
もっとも、俺自身が『編集モード』で改変したり、新たに創り出した魔法については、もちろん秘中の秘として、手の内を晒すようなことはしていない。
「ほほー。これは面白いのじゃ。ふんふん、ここがこうなって、こうなのじゃな? なるほどなるほど」
「まあ、何かわからないことがあれば、基本的なことには答えられると思う。けど、詳細な部分は個人で違うらしいから、そこは自分で頑張ってくれ」
「分かったのじゃ。まあ、暫くは色々試してみるのじゃ」
どうやら『編集モード』は魔法使いや、それに類する役割を持つ人々にとっては最高の玩具のようだ。
ソータもそうだったけどリーンの食いつきが半端ない。
フィーネやアイツも興味は持っているようだけど、その興味の方向は、どちらかと言うと自分以外が使っているから使ってみたいと言った感じがする。
新しい玩具を与えられた子供のように『編集モード』に夢中になって、会話すらなくなったリーンを横目に見つつ、俺も『編集モード』で『鑑定』魔法の作製の続きをする。
「お、どうやらそろそろ交代の時間だな。リーン、リーン?」
「ふぁ!? な、なんじゃ? ん? え、ああ。交代の時間なのじゃな。もうちょっとでキリが付くのじゃが」
「そう言っていると、何時までたっても終わらないぞ。『編集モード』に途中保存の昨日はないか?」
「ああ、確かにあるのじゃ。むぅ、残念だけど一旦中断なのじゃ。では、フィーネ姐様を呼んでくるのじゃ」
テントに入ってまで続きをするんじゃないぞ、と釘を差しておく。
一応、大丈夫なのじゃ、と威勢の良い返事が返ってきたが、はたしてどうだろう。
「お待たせしました。おはようございます、でしょうか?」
「うーん、まだ時間的には夜中だからどうだろう?」
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次の投稿は6月16日の予定です。




