第八十四話 イオリと合宿二日目
まるで耳のすぐ横で目覚まし時計がなっているような、けたたましい音が頭の中で鳴り響く。
どうやら朝のようで、昨晩の寝る前に設定しておいた『アラーム』の魔法で起こされた。
夜中に叩き起こされる事がなかったということは、特に問題は起きてないはず、ないよな?
まあ、多少何かあったとしてフィーネやソータが何とかしてしまっただろう。
ついでに言うと、昨晩交代で寝る前にこの世界に来てから半ば習慣になってしまった『替玉人形』の状態にも異常がないようなので、本当に何もなかったのだろう。
「おはよう」
「あっ、イオリ様。おはようございます。他の皆さんは、まだ起きてないですよ?」
「うーん? ちょっと早かったかな」
「お腹が減ってきたし、ちょうどいい時間だと妾は思うのじゃ」
「そうか。まあ、たしかにそのぐらいの時間か。よし、じゃあ皆が起きるまで、おにぎりを握ってようか」
「分かったのじゃ。うぅ、目の前に食べ物があるのに食べれない。まるで生殺しなのじゃ」
もう一眠りするにも中途半端な時間だし、暫くしたら皆も起きて来るはずなので、今すぐ叩き起こす必要もなさそうだ。
待っているこの時間が手持ち無沙汰なので、それならばと、おにぎり製造機となる事にする。
リーンには悪いけどおにぎりを食べるのは皆が起きてからなので、暫くお預けだ。
一心不乱におにぎりを握ること暫く、『倉庫』内にある弁当の在庫が半分を切ったところで、ソータが起き、間を空けずにソフィー、が起きてくる。
起きてきた二人にも手伝ってもらい、弁当の在庫が更に減った所でアイツが起きてきた。
「ふぁぁー。よく寝たぜ。おはよう、ご飯はもう出来てるのか?」
全員が揃ったので作業は中断、朝食を食べる。
そして、ダンジョン内の探索…… じゃなかったリーン達の特訓の再開だ。
リーン達の二人は、昨日の疲れが特に残っている様子もなく、本日の探索を快調に進めている。
実力はこれからに期待だけど、意外と、と言っては二人に悪いけど、基礎の体力や精神的な強さに関しては予想以上のようだ。
もっとも、それ以外の所では、昨日の今日で急激に力を付けるなんて事はあるはずもなく、まだまだ危なっかしい所があるので俺を含む四人で交代しつつ二人を助けている。
とりあえず、五十層に着いたら一旦ダンジョンの外へ出て、四十五層からもう一度探索開始だ。
ダンジョン内の階層を自由に移動できると便利なのだけど、どうやらそういうことは出来ないらしい。
「そこっ!」
「今度はこうなのじゃ」
それから、繰り返し潜ること八回、リーン達の一層辺りに掛かる探索速度も上がり今の階層前後の魔物に対しては、もうほとんど手間取らない状態になっている。
そろそろ、少し階層を進めてもいい頃合いかもしれないと、ソータ達と相談し、全員が全員で問題なしと判断したため、階層を潜ることにする。
潜る階層は、ダンジョン内外の転移の関係で五層毎に潜ることにする。
「さて、この付近の階層ではもう二人の特訓にならないので、少し潜ることにする。分かっているとは思うけど、出て来る魔物が強くなるので再度気を引き締めていかないと酷いけがをするからな?」
「わかったのじゃ」
「わかった」
「まあ、死んでいなかったら、腕が千切れていようが下半身が消し飛ばされていようが僕とイオリくんが五体満足まで回復できるから、一応安心してほしいかな?」
リーン達二人は、ソータの言った内容を具体的に想像してしまったのか少し顔色が悪いが、ともかく探索もとい二人の特訓の再開だ。
「ソフィー、そこなのじゃ!」
「了解」
「次はそこじゃ!」
そして、階層を潜り進めること二回、繰り返し潜ること計二十回で夜になったので今日の特訓を中断することにした。
まあ、何事にも緩急が必要だし、無理をしても良い事はない。
今夜も昨晩と同じように、野営に適した場所を見つけ、同じように結界を張り、テントを設置する。
そして、夕飯として弁当のおかずとおにぎりを食べつつ、今日の特訓の反省を行う。
「では、本日の特訓の反省会を行う」
「「はい(なのじゃ)」」
もっとも、反省点を考えた時に挙げるとことが有るかというと、それほど多くない。
潜る都度にも、一言二言気になったことは伝えているし、次の探索ではきっちりとそれを気を付けて探索するので、潜る都度に動きに無駄がなくなっていく。
前の世界でも、新人冒険者の何人かと組んで依頼を受けたことは有るけど、変にプライドがあるのか、年下だと舐めてかかっているためなのか、なかなか俺やフィーネなどが指摘した点を改善することはなかった。
それら聞き分けのない新人冒険者達と比べ、リーンやソフィーは俺達の指摘を素直に聞く姿勢を持っているだけでも大きく違う。。
そして、指摘を聞くだけでなく、指摘では省略されがちな指摘に繋がる理由についても、どうやら探索の合間に二人で考察し、魔物との戦闘に余裕がある場合には確認するように実際に試していた。
そうすることで些細なミスはあるにせよ同じようなミスを繰り返すような事は俺達が思うよりも驚くほど少なくなっている。
とはいえ、二人共がまだまだ余裕もない状態なので、自身で気が付いていない癖や、戦闘中の相方の癖などはなかなか気が付かないし、癖と言うのはなかなか治りづらいものだ。
俺達は、そのあたりを中心に未だに修正できずに残っている点を指摘しておくことにする。
「リーンの方は、まだ、すこしだけ左側の警戒と反応が右側に比べて遅いかな」
「ですね。僕が思うに、やはり利き手とかと関係してるのかもしれません」
「気お付けておるのじゃが、難しいのじゃ」
リーンの方は、ソフィーと組み始めた当初はほとんど連携が取れていなかったが、先日の『イーティングオーク』の二人との試合や、試合の記録をその後に見た時に何か掴んだのか、試合の前後で驚くほど動きが違っていた。
もっとも、多少は全体の把握ができるようになったからと言って、それで完璧だ、と言える所までは先はまだまだ長いが、それでもこの短期間での成長には目を見張るものがある。
「ソフィーさんの方は、魔物に攻撃をした後に離脱が遅れる時があるようですね」
「うーん、うちにも覚えがあるけど自分の思っているほどダメージ通ってない時みたいに、手応えが何か変だった時に一瞬だけ戸惑うからだと思うぜ。あってないか?」
「たしかに。違和感があると、一瞬判断に迷う時がある、気がする」
ソフィーの方は、元々の性格なのか、魔物が硬かったり、その逆で柔らかかったり、またダメージが通っていなかったりと、自分の持つ想像と違うと一瞬戸惑って、その後の離脱が遅れる時があるようだ。
もっとも、遅れるとは言ってもほんの僅かだけど、そのほんの僅かの違いが生死を分けることがあるので、今のうちに直せるなら直しておくべきだ。
「あとは――」
その後も、本人たちが気づきにくい部分や、全体に対するアドバイスを伝える。
反省会と夕飯が終わると、今日も見張りの順番を決めて交代で休む。
もはやおなじみのソータの魔道具で、今日の見張りは、アイツ、リーン、俺、フィーネ、ソータ、そしてソフィー、の順番に決まる。
今夜は単純にペアとなるのではなく、少し変則的な半交代で見張りをすることにする。
つまりは、最初にアイツとソフィー、そしていつもの半分の時間でソフィーが交代、その後も同じように交代し、最後はソフィーとソータとなる。
まあ、そこまで深い意味はない。
強いて言えば、見張りの都度、喋る相手が一人から、同時ではないけど二人になるというぐらいだ。
「じゃあ、おやすみ」
「おう、おやすみだぜ」
順番的には途中なので睡眠が中途半端になるかもしれないけど、まあとりあえず寝よう。
眠れなかったら、魔法で強制的に眠ろうかと思ってたけど、テントに作った寝床に潜り込むとすぐに眠ったようで、ふと気が付くと『アラーム』が鳴り響いていた。
俺の場合、本来の時間から少し前の時間に起きれる様に『アラーム』の時間を指定してある。
つまり、ここで起こされたという事は、どういうことかと考えるまでもなく、もうすこししたら交代の時間という事だ。
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