第八十話 イオリと二人のわずかな成長
今回のこの階層のボスはオーガメイジを中心とした集団のようで、これは一昨日潜ったと時とは魔物の組み合わせが違う。
そういえば、浅い階層でも同じことがあったはずなので、ここのダンジョンでは極端に強さに違いはないにしても、ボスが新しく出てくるごとに違うことがあるのかもしれない。
「ふーん、オーガメイジとオーガが三匹、コボルトウォーリアかな? それが二匹か。なぁ、今回はうちがやっていいんだよな?」
「ああ、いいぞ。まあ、そうは言っても、お前のお眼鏡にかなうような魔物はまだ出てこないと思うけどな」
「たしかに…… じゃあ、うちは暫く我慢しようかな?」
「「えっ? あっ! ああ……なるほど」」
ちょっと思いもよらぬ事を言いだしたので驚いてしまい、それと同時に同じように驚いた声が聞こえたので振り返ると、ソータも同じように驚いた顔をしてこちらを見ていた。
どうやらソータの方も同じようなことを考えていたのか、声が重なってしまった。
なるほど、とソータも苦労しているんだなと。
「なっ、なんだ? ソータも、うちをそんな目で見てたなんて」
酷い、とアイツは地面にのの字を書きながら拗ねているが、まあとりあえず放っておこうと思う。
気を取り直して、さてどうしようか、と横を振り向くと、ふんぬと鼻息も荒く、気合をちょうど入れているリーン達が目に入る。
そういえば、探索中にリーン達に俺が変更した『冷静沈着』を使うことを提案してみたが、暫くは自分の限界を試してみたいということで、にべもなく断られたんだったな。
ちなみに『冷静沈着』の基となった、本来の『鎮静化』は感情の起伏を無くしてしまう効果があり、その結果として恐怖や怒り、悲しみなどの感情によって行動が鈍ったり誤ったりすることが無くなる。
もっとも、恐怖は慎重さに、怒りは一時的な身体能力の向上に、と本来はうまく付き合うことで享受できる良い部分を潰してしまい、まるで機械のように個性がなくなってしまったりするため、解除が著しく困難という性質もあって以前の世界では忌避される傾向があった。
そこで、俺が変更を加えた『冷静沈着』の出番となる訳だけど、この魔法自体が出来たのは偶然の産物だったりする。
この魔法が出来た経緯はともかくとして、新しく出来たこの魔法の効果は、もとの魔法から若干効果が弱まったことと引き換えに、魔法の重ね掛けをしても効果時間がはある効果時間を境に全く伸びなくなる。
このために、冒険者自身がこの魔法を覚えて恐怖心を抑えて強敵と戦ったり、初心者が始めて人や魔物を殺めた時に心が壊れないように、など若干使い方に疑問がないことはないけど、効果的に使っていたらしい。
「じゃあ、リーン達に任せるから。ソータ、補助お願いできるか?」
「任せるのじゃ」
「がんばる!」
「分かりました。じゃあ、あっちで拗ねているイオリさんの方は任せましたよ?」
「……ああ、うん。了解だ」
ソータにリーン達の補助を任せて、俺はフィーネと共にアイツを宥めにかかる。
そして、やっとアイツを宥め終わったと思ったら、リーン達の方もちょうどボスを倒し終わったようだ。
若干危ない場面もあったけど、ソータがうまく助けを出して補助をしていた。
「うーん…… まだまだだと思いますが、リーンさんも多少は全体を見るようになってきているし、ソフィーさんもなので、今後に期待、と言ったところでしょうか?」
「なるほど」
何事もなく無事にボスを倒し終わると、その後もしばらくダンジョン内を探索し、さらに六階層ほど、五十一層まで潜ったところで今日は探索を終わりにして泊まりの準備にかかる。
今回も、以前と同じように壁側に通路がない小部屋に陣取り、前方は俺が結界で壁を作りテントを広げる。
食事も一昨日と同じように弁当のご飯からおにぎりを作る作業をしてから、残ったおかずと出来たてのおにぎりを食べる。
オニギリにするのは地味に時間が掛かるから、こつこつとやっておかないとな。
オニギリを握った後、お皿に並べたお弁当は瞬く間に全員のお腹の中に消える。
「ふぅー。食った、食った。やっぱ、『手作りお弁当屋さん』の弁当はうまいぜ」
「たしかに、ポーラさんの作ったお弁当は美味しいですね。でも『隠された食事処』の方も違う趣があって……」
アイツとフィーネがどちらのお弁当が美味しいかの応酬を始めているが、放って置く。
ま、たしかにどっちも美味いもんな。
「で、イオリくん。この後の予定はどうしますか?」
「そうだな、とりあえず見張りの順番を決めて…… 明日は、まあ今日と同じ感じでいいか」
「そうですね、じゃあ、さっそく……」
「なんか嬉しそうだな」
「まあ、この道具自体、そこそこ値が張ったので使えるところで使っておかないと…… 実はこういう、まあ変わった道具を集めるのが実益を兼ねた僕の趣味になってるのですが…… 余り変なのばかり買ってるとイオリさんに茶化されたりするので使えるときには使っておかないと、と言う訳です」
「ああ、なるほど。たしかに、アイツなら、な」
オロオロと視線がフィーネ達と俺達の方を行ったり来たりしているリーン達と、放っておいたら喧嘩になりそうな雰囲気のフィーネ達を、取っ組み合いを中断させこちらへ呼ぶ。
まずは、ソータの取り出した『審判神の回転板』を使って、見張りの順番を決める。
今回も俺が気合を入れて張った結界内に居る限りは、見張りを立てることも必要ないぐらいに安全なはずだ。
まあ、例えば魔王と同等の魔物が居た場合など、例外はごく僅かに無きにしもあらず、だけど。
「おお、お前とか。じゃあよろしく」
「ああ」
そして決まったのは、俺とアイツ、ソータとソフィー、フィーネとリーン、の組み合わせだ。
見張りの順番も、俺から順に二刻半程度で回すことになった。
それぞれの担当の時間は、『アラート』の魔法が全員ともに使えるのでそれを使うことにする。
「イオリ様、おやすみなさい。イオリさんも」
「おやすみなさい、イオリさん、イオリくん」
「おやすみなのじゃ」
「おやすみ」
「おやすみ。ソータとソフィーは次よろしくな」
「最初の見張りはうちらにお任せだぜ」
さて、『自動地図』は一区切りついたから、新しい魔法でも作るかな。
そうだな、魔法で『鑑定』を再現してみるか。
俺が使っている『鑑定』は魔法ではなくスキルになるのだけど、実はこのスキルは便利だけど困る部分がある。
それは、スキルごとにほぼ間違いなくカウンタースキル、つまりスキルを打ち消すスキルがあるという事で、前の世界での研究結果として既に知られている。
ただこの話には続きがあって、どうもスキルと似たような効果の魔法があってもそれを打ち消すような魔法は必ず存在している訳ではなさそうという事で、その効果を打ち消せると言われる魔法も全ての効果を打ち消せているのではない、という事がこれまた最近の研究で分かってきていたらしい。
つまり、スキルは一対の合わせ鏡のように正と負のスキル、もしかすると三つ巴のような感じかもしれないけど、スキルの効果を打ち消すスキルが存在しているけど、魔法はそんな事がないらしい。
なので、俺が使っている『鑑定』には『鑑定偽装』があるが、もし対象を調べるような魔法があれば、万が一『鑑定』に失敗してもなんとかなる、かもしれない。
とりあえず、魔法には対象の魔力を調べるようなものがあるから、とりあえずそれを基にして作っていけばいいかな。
では早速試してみるか、と思っていたところ、アイツが喋りかけてきた。
『なあなあ、うち暇だからもう寝ててもいいかな?』
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