第七十六話 イオリと地下訓練場での試合
受付で簡単な手続きを経た後、荷台の上の芋虫達は組合へと引き取られ、その結果として俺達は組合から予想よりも多いポイントが与えられた。
後から聞いた話によると現在進行系の事件に関係する場合など、組合が重点的に情報を集めている場合はポイントが多いらしい。
さらに、どうやら中堅と言われるような探索者の中には、ダンジョンで探索することをやめて今回のことのような依頼を受け、高いポイントを得ることで生活をするものも居るらしい。
もっとも、依頼自体は組合でのランクが高くないと閲覧できないようなので今の俺達には関係ない話だったりする。
「さて、そろそろ昼だけど、どうする?」
「そう、ですね……」
「お、居た居た。探したぜ」
「あれ? ドナドさん? どうしたんですか?」
「ああ、物は相談なんだが昼食べる前に模擬戦をしないか? まあ、嫌なら断ってもいいんだけどよ、『デイブレイク』の面子を軽くあしらえる実力ってのに興味があってな」
「うーん? 俺はまあ、別にかまわないけど。どうする、ソータ?」
「僕も構わないですが…… そうですね、僕達と『イーティングオーク』さん達のパーティーのみに試合を公開、という条件であれば良いと思います」
「なるほど。ドナドさん、ソータの言った条件で、そうですね三人ぐらいの対戦で良ければ。そうだ、この二人の戦いだけでいいんだけど、さっき証拠として出した様な記録を取りたいんだけど問題ない?」
「それは…… うーん……」
「記録自体はうちのパーティーメンバー以外には見せないのと、二人の試合以外は記録しない、という条件でどうでしょう?」
「……まあいいか。じゃあ、地下の訓練場を予約してくるから、それまで入り口で待っててくれ」
「分かりました」
成り行きでドナドさん達と試合をする流れになってしまったが、この機会にリーンとソフィーに対人戦を経験させておきたい。
なので、二人は決定として、さて、あとは誰を出そうかな。
「じゃあ、誰が試合に出る?」
「はい、イオリ様! やってみたいです」
「じゃあ、最初はフィーネで。あ、次はリーンかソフィーのどちらかで」
「えっ?」
「へ? ん、なんじゃ、妾達の番もあるのか?」
「ああ、そうか。別に二人で組んでもいいのか。じゃあ、二組目はリーンとソフィーだな。勝たなくてもいいから、相手から何か学んでこい」
「わかったのじゃ」
「ん、まかせる」
さて、俺は今回の試合では戦う気がないので、残りの枠の三組目は必然的に残りの二人になるな。
そう思い、アイツとソータを見ると、なぜかジャンケンをしていた。
『ん、何やってるんだ?』
『へ? 見てわからないのか? ジャンケンだよ、ジャン……』
思わず『思考共有』でアイツに話しかけてしまったが、それはどうやら失敗だったようだ。
「よし、僕の勝ちですね」
「なっ! 今のはなし、なしだ。コイツに話しかけられて気が散ったんだよ」
「いやいや。イオリさん、負けは負けですよ。おとなしく認めましょう」
くっそー、とか言いながらアイツが地団駄を踏んでいる。
あー、悪いことしたな、あとで埋め合わせしておこう。
ダンジョンのボス一層分でいいかな?
「おう、またせたな」
「いえ、大丈夫です」
「予約が取れたから行くぜ」
「あ、対戦なんですが」
「ん? やりません、は今更なしだぜ?」
「そういうことではなくて、二組目だけ二対二で試合をしませんか、という話で」
「ほう、それはそれで面白そうだな。いいぜ」
悪戯を仕掛けるときのようにニヤリと笑うドナドさんを先頭に地下へと続く階段を降りながら、ルールを決めていく。
どうやら『イーティングオーク』の他のメンバーはすでに訓練場で待っているようだ。
「じゃあ、確認するぞ。致命傷になりうる攻撃は無し。降参するか、気絶するか、指定の範囲の外へ出たら負け。その状態での攻撃もなしだ。一応は致命傷を防ぐ魔道具もあるから訓練場ではそれを使うようにはなっている。が、それ自体が消耗品で高価だから、消費しなくていいならしない方がいい」
「分かりました。では、こちらは、フィーネ、リーンとソフィー、最後がソータの順に出ます」
「ん? オメーは出ないのか?」
「ええ。今回は見学ということで」
「そうか。じゃあ、対戦メンバー決めるから少し待っとけ」
そう言って、小走りで丁度訓練場の間に集まっていたパーティーメンバーの輪に入っていくドナドさんだけど、なぜか首を傾げていた。
俺達もドナドさんを追いかけ、複数ある訓練場のうちの一つへと歩いて行く。
「ん? どうした、お前たち。中に入らずに」
「ああ、ドナドさん。えっとですね……」
「なんだ? はっきりしねーな」
「いやー、兄貴。もう、ドナドさんに中を見てもらったほうが早いですよ」
「中って言うと訓練場の中か……」
なにやら、メンバーと少し話をすると、ドナドさんは訓練場の扉を開き中を確認するが、何故かすぐに扉を締める。
訓練場の中に何かあるのか?
「おう、ちょうどいい。あれ、どうする?」
「あれ?」
訓練場の中を指さされ、あれと言われたので俺達も見てみる。
……そして、同じようにそっと扉を締める。
「なんで、支部長が居るんだ? しかも、中心で腕を組んで立って待ち構えてるし」
「さあ? まあ、なんとなくは分かるがな。俺と同じように、お前たちの実力に興味を持ったんだろう」
「……厄介な」
「で、どうする? 俺としては残念だけど、やめてもいいぜ」
「まあ、いいです。このまま、試合をしましょう」
「そうか、まあ、お前たちがそれでいいならそれで」
しかし、ロベルトス支部長は暇なのだろうか、とか、いつの間に追い越されたんだろう、とか多少疑問は浮かぶが、まあロベルトス支部長だからと言うことで諦めよう。
考えることを放棄するとも言えるけど。
「じゃあ、俺達のパーティーは、この四人だ」
「槍使いのオムスと言います」
「うす、エブヤです」
「イシニナです。魔法使いやってます」
「ヴノバといいまス。イシニナと同じく魔法使いでス」
ふむ、最初の優男風の武器は槍、次はちょうどいいことに魔法使いと片手持ちの盾をそれぞれ両腕に装備した戦士で、最後の女性二人は魔法使いのようだ。
俺達と多少合わせたのか、なかなか面白い組み合わせだな。
「じゃあ、組み合わせが決まったようだな。早速試合を始めるぞ。対戦者は魔道具を起動して中央に集まってこい」
「あの〜」
「ん? なんだ? 魔道具の使い方がわからんのか?」
「いえ、そうではなくて…… 何故ここに居るんですか?」
「……気にするな」
フィーネが思い切ってロベルトス支部長にここに居る理由を聞いてみたようだけど、はぐらかすような答えが帰ってくる。
開き直っているようだし、絶対ドナドさんが推測した理由で間違いないな、きっと。
しかし、そんなに、気になるものなのか?
「気を取り直して、最初は私がお相手いたします。武器はこれです」
「え? それどこから…… まあ、いいか。お手柔らかに。武器はさっきも言ったけど、この槍を使います」
「はい、よろしくお願いします」
「あ、ローブの彼、イオリくんだっけ? 彼と付き合ってるの? 俺に乗り換えない? 彼よりも強いよ?」
「……私より弱い人はお断りです。私を口説くのであれば、それ相応の実力を見せて頂きたいものです」
「へ? ほ、ほほー。随分と、舐められたもの、だな。手加減はなしだ。後悔すんなよ?」
あー、なんか俺が馬鹿にされたからかフィーネが珍しく相手を煽ってる。
相手も相手で簡単にそれに載せられるとか、前の世界の俺の師匠が見てたら、修行がたらんとか言って地獄の特訓に放り込まれそうだ。
おや、何故か寒気が……
「じゃあ、始めだ」
「参ります!」
「行くぜ」
お、始まったようだな。
ああ、相手の、オムスさんは開始早々でケリを付けるつもりらしい。
が、オムスさんは完全にフィーネに遊ばれている。
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