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異世界のイオリと伊織  作者: 猿丸駿
第一章
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第七十二話 イオリと赤と黄色と緑色

「で、どこまで行くつもりだ?」

「ん? どこまでって階層の話? そういえば、特に考えてなかったぜ」


 どんどん進んでいくので、どこまで行くつもりかと聞いたら考えなしか。

 俺が何も言わなかったら、きっと、進める階層まで進もうとしていたな。


「それでは、六十層が次にポータルへ記録される階層になるので、その階層で一旦戻るのは如何でしょう? その後でソフィーさん達の強化を行うということで」

「じゃあそれで。ソータもみんなもいいか?」

「まあ、しょうがないですね」

「妾達は守られている立場じゃから、引くにしても進むにしても着いて行くしか無いのじゃ」

「ん、問題ない。頑張る」


 考えなしのアイツの代わりにフィーネが提案した内容に俺も含めて異論もなさそうなのでその案に乗ってみることにする。

 まあ、五十六層まで来ておいて途中で戻ると次は五十層からだから面倒だってだけなのかもしれないが。


「では予定も決まったことですし、そろそろ今夜泊まる場所を探しませんか?」

「もうそんな時間か? ……意外と時間が経つのが早いな」

「たしかにフィーネさんの言うとおり、ちょうどいい頃合いですね」


 ソータに確かめたところ、ちょうどよい頃合いのようなので今夜泊まる場所を探し始める。

 気を緩める訳にはいかないが、今日は今のところ探索で大きな問題は起きていない。

 もっとも、探索が順調だからと言ってそれ以外で全く問題が出ないかと言うと、そういうことはないようだ。


「のう、ぬしよ、この点はなんじゃろうか? 魔物の色とは違うようじゃが」

「どれどれ? ああ、この表示は『自動地図』の利用者に対して敵意も好意も持っていないってことだな。多分他の探索者じゃ…… ん? 止まったな」


 リーンが『自動地図』に魔物とは違う色の点が表示されていることに気が付いた。

 俺もどれどれ、と目の前に表示している『自動地図』を確認してみると、黄色の点がまとまって存在していた。

 ちなみに、地図に示されている黄色の点は中立を表していて、その他に赤色が敵対、その逆に友好的な場合は緑で表示される。

 すこし気になったので俺たちは物は試しにと、分かれ道まで戻りもう片方へと進んでみるが、何らかの方法で俺達を追っているのか、暫く後に俺達の通った道を正確になぞりだんだんと近づいてきている。

 どうやら見間違いとかではなくこちらを目指して進んでいるようだな。


「こっちに向かって来ているのじゃ。あっ、色が赤色に変わったのじゃ」

「うーん、他に魔物らしき点もないようだけど、探索者じゃないのか?」


 しかも、探索者だろうその点は、リーンの言うとおり、中立を示す黄色から赤色、つまり敵対状態へと変化した。

 これは、厄介ごとがやって来たということだろうか?


「とりあえず警戒しておこうか」

「イオリ様、相手は敵対しているのだから……」

「排除しましょうってのはなしだぞ、フィーネ。こちらから先に手を出すのは不味い。相手は魔物じゃなくて探索者の可能性があるからな」

「なあなあ、うちらは不意打ちでも大丈夫だと思うけど、リーン達は危なくないか?」


 言われてみれば、たしかに俺達自身は問題なく身を守ることが出来るだろう。

 だけどリーン達は、と考えた時に、万が一が起こる可能性は無きにしもあらずだな。

 だとすると、やはりここは『替玉人形』の魔法がいいだろう。

 たしか、前に居た世界でも暗殺や不意打ちによる怪我の重症化などが大昔から課題として上がっていて、それを解決するために考案された魔法だ、って話を聞いた覚えがある。

 その結果、この魔法が出来てから暗殺の成功率が格段に下がったらしい。


「たしかにな。それなら『替玉(ringer)人形(mudhori)』っと、これでいい。暫く持つはずだ」

「ぬしよ、この魔法はなんじゃ?」

「ああ、この魔法は…… おっと、お客様がそろそろ到着だな。説明は後だな。えっと、くれぐれもこっちが気が付いていることは悟られるんじゃないぞ」

「だな。下手な演技をしていても笑うんじゃないぞ。……うちは、後ろに居たほうがいいか?」

「……自覚があるんなら、そうしてくれ」

「妾達は、多分大丈夫なのじゃ」

「ん、がんばる」


 一人、シリアスな雰囲気をぶち壊しそうな奴は、一応は自覚があったようで、思わず笑ってしまっても大丈夫なようにフィーネの後ろに隠れていることにしたようだ。

 盾にされているフィーネは何やらもぞもぞと居心地が悪そうだ。

 とりあえずお客さんの相手はソータとする事にして軽く打ち合わせをする。

 暫く待っていると足音が聞こえてくるが、その足音も多少は乱れているが、何かに追われていると言った様子ではなく、むしろ訓練として一定の速度を保ち走っていると言われた方が納得できる気がする。

 これで、魔物に追われているとか言われても、はたして騙される探索者なんて居るのだろうか?


「た、た、助けてくれー」

「ひ、ひぃ、魔物が、魔物が追ってくる」

「ド、ドラゴンが出たんだ!」


 俺達の後ろから必死の形相で叫び駆け込んで来たのは、スキンヘッドが二人、フードを被った女性が一人に、やけに露出が高い服を来た女性が一人に、全身鎧が二人のパーティーだった。

 うん、幸いと言ってよいのかどうか、相手の演技は下手ではないようだ。

 絶賛演技中と思われるパーティーの構成は、前衛、中衛、後衛、の人員がそれぞれ均等に居るようで、まあ平均的な構成だと思う。

 今まで他の探索者のパーティーでは見かけなかったが、露出が高い服を着た女性は丨所謂いわゆる、自身が踊ることにより支援魔法を前衛や中衛に掛けることが出来る、前の世界で踊り子と呼んでいた役割を持っているのだろうか?

 ともかく、俺とソータは先程の打ち合わせ通りにお互い顔を見合わせ、何だろうという顔をしながら相手へ振り向く。

 アイツはフィーネの後ろで、必死に笑いをこらえているようで、プルプルしている。

 おい、リーンも少し顔が歪んでるぞ、しっかりな。

 ソフィーの方は流石の無表情だけど、すこし口元がピクピクしている。

 これで、相手の演技が大根役者だったなら、二人は陥落していたところだな。


「えっと、魔物というか、ドラゴンが追ってきているって話が本当だとすると、大変なのですが。その、後ろには居ないようですが?」

「へ?」

「ほら」

「ほ、本当だ。助かった〜」

「よかった。ほんと死ぬかと思った」


 口々にドラゴンを振り切れたことを、一部はへたり込み、一部は抱き合いながら喜んでいた。

 ちなみに、抱き合っているのはスキンヘッドの男同士だったりするので、暑苦しい事この上得ないし、それを強制的に見させられているのは何というか苦行に近いものがある。

 まあ、相手の言う通りだとして、集団で幻覚を見たという可能性は無きにしも(あら)ずだけど、以前調べた時には、このダンジョンでそんな魔物が出て来たと言う情報はなかった。

 そもそもの話、脇道にそれた俺達を真っ直ぐに追いかけてくる時点で集団で幻覚を見たと言う可能性は低いだろう。

 以前聞いた話では、幻覚にかかっている場合は視野が狭くなる傾向があるらしいので、今回のように二股に分かれている道の片方から出て、わざわざ後ろを向いて別の方向へ行くのはあまり考えられないからな。

 俺は少し考え事をしていたが、ソータが話を引き継いでくれたようで、いつの間にか一緒に野営をする方向で纏まったようだ。

 まあ、そのほうが化けの皮も剥がれやすそうだし都合がいいな。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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次の投稿は3月17日の予定です。

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