第六十九話 イオリと新人二人の壁
結局、階層に着いた直後に言い含めたのもあってか、その後もリーン達は油断すること無く階層内を順調に進み、三十階層目まで来た。
俺達はと言うと、ソフィーやリーンが処理できずに抜けてきた魔物をさっくりと狩ったり、すぐに出来上がる魔物の死骸を素材とするために、どんどんと『倉庫』へと放り込んでいく。
そうした結果、今は三十階層目のボスの部屋の前に居るが、間が悪いことに丁度他のパーティーがボスへと挑戦中のようだ。
「とりあえず、一時休憩だな。二人は体を休めるのはもちろんだけど、武器や体の調子も確認しておけよ」
「ん」
「わかったのじゃ」
しばらく休憩しつつ、先程までの探索について意見を言い合ったり、とボス部屋の扉が空くのを待っていると、予想外に早くボス部屋の扉が開く。
中の様子からすると、どうやら俺達の前のパーティーは挑戦に失敗したようだ。
階層内を丨彷徨っている魔物とは比べ物にならない強い気配がボス部屋の中からしている。
「今回はお待ちかねのボスが居るようだ。が、そこの今にも飛び出しそうな二人はお預けだ。しばらくはリーン達に経験を積ませるために任せようと思う」
「えー、ひどいぜ」
「イオリ様、どうしても駄目でしょうか?」
「まあまあ、フィーネさんもイオリさんも、楽しみというのは後に取っておく方が期待が膨らんで、いいと思いませんか?」
「……まあ、期待はずれ、という可能性も無きに…… いや、なんでもない」
俺達に、ボスは任せた、と言われたリーン達二人は、少し緊張しつつも、任せて欲しい、と言った感じの顔をしてこちらを見てくるので、頷いておく。
今のところだけど、リーン達二人に関しては、まだ少し先の階層まで余裕を持ってすすめるのではないかと感じている。
俺達については言わずもがな、だけど。
「いく」
「うむ」
気合十分、と言った感じのソフィーに続き、リーンがボスの部屋へと勢いよく飛び込んでいくので、俺達も閉じ始めた扉で締め出されないように、続いて飛び込んでいく。
そうして部屋の中へと入り込んだ俺達は、久しぶりのボスとのご対面、と言う訳だ。
「えっと、どれどれフレイムウォーウルフにオークが少々、か。まあ、これぐらいなら下手を打たない限り大丈夫そうだな」
「すぐに飛び出せる心積もりは私もしておきますが、たしかにあの様子であれば問題なさそうですね」
リーン達は、魔物と比べそこまでの力量の差があるわけではないのだけど、そのわずかな差が、攻める一方な二人とその猛攻を防ぐことに手一杯な魔物、という構図が出来上がる原因となっている。
まあ、俺達の場合は現状だと、正に言葉通りの一撃必殺となってしまうので、これはこれで新鮮な感じがする。
「お、終わりそうだな」
「ですね。まだ、少し余裕があるようですので、しばらくはおまかせできそうですね。余裕がなくなってきてからが本番ですし」
「ソータも、なかなか厳しいことを言うな」
「そうでしょうか? でも、イオリくんも同じようなことを思っていませんでしたか?」
「まあ、否定はしないけど」
フィーネ達女性二人はというと、俺達の会話に参加せずにリーン達の動きを少し心配そうに見ている。
まあ、二人は俺達のように遠距離から打てる手が少ないので、危ないと思った時に飛び出せないと間に合わないからしょうがない。
俺はと言うと、ソータと会話しつつ、魔物のすぐ真上から魔法を打てるように、その存在を隠したまま待機させている。
ソーたの方も、同じようなことをやっている雰囲気だ。
「お、終わったか? どうやら無傷で完封できたようだな」
「ですね。あっ!」
「おっと、『雷撃』、は必要なかったか。油断大敵、だな」
終わったと思い、油断した二人は止めの確認を忘れ、俺達の方を振り返ってしまった。
その隙を突かれ気が付いた時には、二人からするとすでに手遅れに近かったが、まあ、リーン達以外の四人の中ではそんなことを許すような奴は居ないし、実際にもフィーネ達は間に合った。
そして、俺達が四人の所に付くと、リーン達は油断していたことをフィーネ達に叱られ、こってり油を絞られている最中だった。
傍目からみても分かるぐらいに落ち込んでいる二人をそのままにしておくと、後の探索に響くので、全員で宥めてなんとかいつもの調子に戻し、探索を再開する。
「次の階層からも、しばらくは魔狼種が多いですが気を付けてくださいね」
三十一層からも、暫くは同じような感じで進んで行く。
時々出てくるオークにソフィーが力負けしそうになり、慌ててリーンが牽制し、一旦後ろへ引いたソフィーが再び前に出て手数で倒したり、属性魔法を使うサンダーウォーウルフやフレイムウォーウルフに梃子摺ったり、ジェリー種に足を取られ、危うく取り込まれそうになったり、と危ない場面がすこしあったりもしたけど、今のところは最後には油断せずきっちりと止めを刺せている。
ボスの方も、流石に攻める一方、と言った感じではなくなっているが、それでも多少時間が掛かるが勝てている状態だ。
今のところの予定では、階層内の魔物に対して傷を負いつつ、やっと倒せるような魔物が出てくる階層で、暫く修行と称する何かをする予定だ。
当然のことながら、その階層へ行くまでには、ボスが倒せなくなっているので、そこはまあ、俺達が、と言うよりは女性二人が、だとは思うけど、サクッと倒すことにして先に進むことにしている。
そんな感じで進み、現在は次の節目となる四十層目前の三十九層のボスの部屋の中にいる。
ここまでの感じだと、あと少しでソフィー達二人は、今の実力での壁に当たりそうなので、そろそろボスに対しても二人だけでの対応は難しくなると思う。
そして、現在、二人はと言うとボスと戦闘中なのだけど、どうやら限界は突然やって来たようだ。
「あ、あぶないですね。『ヒール』『エアアーマー』。流石にこのあたりが限界みたいですね」
「うぁ」
「ッ、ソフィー! なっ! くっ、い、意外と力が強いのじゃ」
オークウォーリアが無造作に振った、先が太くゴツゴツしている鈍器のなぎ払いをソフィーは避け損ない、まともに体で受けてしまい壁に叩きつけられる。
そして、リーンもそれに気を取られしまったのと、ソフィーによる壁がなくなったために、一気に足が早いフロストウォーウルフに近寄られるが、リーンは姿勢が崩れていたために腕力でなんとか均衡を保っている、と言った状態だ。
この状態になるともはやどうにもならなくなる…… のは余裕がないパーティーの話で、俺達のパーティーは現状だとリーン達を除くと、一人で蹂躙し余りあるぐらいの余裕があるわけで、リーン達が劣勢になった直後にフィーネ達は動き出し、あっという間に倒してしまう。
壁に叩きつけられたソフィーは、叩きつけられる直前にソータが治療と衝撃から体を守る魔法を掛けたため、少しの衝撃があった後、思ったよりも衝撃が少なかったのが不思議なのか、すぐに起き上がるも首を傾げている。
リーンの方も、なんとか均衡を保っていたフロストウォーウルフとの攻防が、突然横から風が凪いだと思ったらすごい勢いで目の前の魔物が飛んでいったために、何が起こったか理解が追いつかず、周囲をキョロキョロしていた。
あいつの蹴りによってリーンの目の前から飛ばされた魔物はと言うと、壁に叩きつけられ赤いシミを作っていた。
ああ、素材が一体減ってしまったのは、ちょっと勿体無いなぁ。
結果としては、被害はほとんど無かったけど、いくら俺達が手助けできるとは言え、流石に限界を攻めすぎたかと反省。
なかなか加減が難しい。
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