第六十一話 イオリと買取完了と保護期間の終了
買い取りの窓口を見ると誰も座っていなかったが、よく見ると、御用の有る方は呼び鈴を押してください、と書かれた札が出ていた。
全く気が付かなかったが、ジンさんが俺達を案内する時に出したのだろうか?
「なあなあ、これを受付に出せばいいんだよな?」
「そうですよ。あと…… イオリさん? 大切なものなのでグシャグシャにしないでくださいね」
「えっ?」
あ、言っているそばから握りつぶしてグシャグシャにしやがった。
お約束を破らないやつだな、全く。
「……ソータ、どうしよう?」
「全く、何回目ですか? このやり取りは。イオリさんは、おっちょこちょいとは言いませんけど、たまにやらかしますよね」
「だ、だってー」
「とりあえず、ぐしゃぐしゃで、一部が千切れかけているそれを、こっちに全部渡してください」
「……はい」
「これをこうして……。はい、元通りです」
「おおー! さんきゅーな」
おや、今のはどうやったんだろうか。
一瞬、ソータの手元から紙が消えたから、たぶん「アイテムボックス」に入れた?
少なくとも、俺の使っている『倉庫』やフィーネの使っている『収納』には、入れた物の時間が巻き戻ったりして、元の形に戻るようなことはできない。
もっとも、その逆で時間を進めるのは機能として持っているので簡単に出来るけどな。
「なあ、ソータ。今のはどうやったんだ? まあ、秘密でなければ、だけど」
「いいですよ。今のはですね……」
ソータが話す内容を、漏らさず聞こうと思っていると、袖を引っ張られたので振り向くとフィーネが何か言いたそうな顔をしていた。
まあ、当然のことながら何か言いたそう、で終わらずに、袖を掴んだままで、話してくるのだけれど。
「とりあえず、先にその紙を受付に提出しませんか? 受付で手続きをしている間や、その後の時間が余っているときにでも、腰を落ち着けてお話すればよろしいのではないでしょうか」
「ん? ああ、たしかにそれもそうだな」
ここで立ち話をしていてもしょうがないから、さっさと受付に紙を出してしまおう。
まあ、フィーネは一刻も早く借金から抜け出したいだけのような気もするけど。
受付の方を見ると、今は丁度どの受付も人が並んでいないようだ。
なので、これ幸いにと先程と同じようにケーネさんが座っている受付で手続きをしてもらうことにする。
見知った相手だと話しやすいしな。
「戻ってきました。ケーネさん、手続きをお願いします」
「はい、お疲れ様です。えっと、買い取りの完了手続きですね。承りました。まずは組合カードを、あ、代表の方だけで構わないのでカードをご提出ください」
「はい、お願いします」
「お預かりしますね。手続きを行いますので、少々お待ちくださいませ」
俺は待っている間に、ソータから先程のスキルの説明を聞いていた。
ソータが使った魔法のようなものは、どうやら「アイテムボックス」のスキル自体が持っている機能らしい。
この機能は、もともと一つだったものをまとめて放り込み、放り込んだ物の詳細を表示し、最後にメニューから復元という項目を選ぶと、どういう仕組みか、もともとの形にまで文字通り復元してくれる機能らしい。
ただ、復元できるのはもともと一つだったもの限定だったり、一部が欠けているとそのまま復元されてしまう等、多少癖が有るらしいが、持っている機能としてはかなり強力な部類に入るのではないかと俺は思う。
あと、ソータ曰く、いろいろ検証して、その結果、時間が巻き戻り元の形になっている訳ではないと言うことも分かっている、らしい。
「それは、なかなか便利そうな機能だな。色々と役に立ちそうな感じだから、なんとかして俺も使えるようになりたいところだ」
「じゃあ、あとでどんな感じか詳しく教えますね。丁度、戻ってきたみたいですし」
ソータに言われ窓口の方へと振り返ると、ちょうど手続きが終わったようでケーネさんが窓口に戻って来た。
「お待たせいたしました。カードをお返しいたします。手続きは以上で完了です。他に何かご用件はございますか?」
「そうだ。俺達のパーティーは全員が保護期間中だと思いますが、今回で、たぶんお金が溜まっていると思うので、そちらの終了手続きもお願いできますか?」
「保護期間の終了手続きですね。うーんと、はい。たしかに先程の入金で十分な金額が溜まっているようなので手続きは可能です。では、残りの引き落とし額などは代表者であるイオリ様のカードからまとめて、で問題ないでしょうか?」
「はい、それでお願いします」
「では、カードに記録を行う必要が有るので、手続きを行う方はカードをお貸しいただけますか」
俺を含めた四人は待っていました、とばかりに、さっとカードを取り出して机に置くが、ソフィーとリーンは本当にいいのという顔をして俺の方を見ているので、問題ない、と頷くと、おずおずとカードを出してくる。
これは俺達が二人に投資しているんだから気にすることはないのにな。
「はい、では六人分のカードをお預かりします。手続きをしますので、少々お待ち下さい」
「お願いします」
まあ、普通は他人に対して、一見施しと見えるようなことをするような探索者はいないのかもしれないが、俺達は、それをする余裕があると考えているわけだし、まあ、現状でも十分に稼げているので多分大丈夫だろう。
それに、単に施しをしているってわけじゃなくて、打算もしっかりあるから、まあいいだろう。
なにせ、訳ありの竜種と獣人種だし、現状は“封印”されているとは言え、加護やスキルを持っている。
そして何よりも、油断していたとは言え俺が対処できない速度で動ける、なんて能力を持っているなら、敵に回らないように確保しておくべきだよな。
「イオリ様、ちょっと悪いお顔になっています」
「だな、如何にも何か企んでいます、って感じの顔をしてたぜ」
俺以外のパーティーメンバーを順に見回すと、アイツはもとより、他の人もアイツの言葉に同意するかように全員が頷いている。
まったく、失礼な奴らだ、と思ったけど、まあ今のは俺でもはたから見るとそう見てしまうな。
すまんすまんと、謝りつつ、ケーネさんを待つ。
「結構時間がかかりますね」
「まあ、実際どうなのかは分からないけど、ま、いろいろ手続きがあるんだろう」
そういえば、ソフィーたち二人については、登録したばかりだし、てっきり、何か言われるかと思っったけど特に何も言われていないな。
組合にしてみれば、保護期間ってのは、要するに無担保で貸しているようなものだし、負債が減ればいいのかもしれない。
あとは、ここ数日であれだけ稼いだ、注目株の新人だから、そこまで目くじらを立てなくても、って話の可能性もありそうだ。
おっと、ケーネさんが戻ってきたようだ。
「お待たせいたしました。手続きが終わりましたのでカードをお返しいたしますね。また、パーティーのランクを一つ上げるとともに、そちらのイオリ様含め四名様のランクもFからEランクへと上がっておりますので、更新されているかカードを必ずご確認下さい」
「はい、分かりました。えっと、ランクが上がったのは大量に買い取りをしたため、でしょうか?」
「それもありますが、先の魔石の件が大きいですね。この件に関しては、数日中にも掲示板に注意喚起が貼り出されると思います」
「なるほど、分かりました」
「手続きは以上ですが、他に何かございますか?」
「いえ、ありません。ありがとうございました」
「では、次回のご利用をお待ちしております」
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