第六十話 イオリと組合の昔話
「お? これは記録更新か!」
「記録?」
「おお、すまんすまん。記録ってのはな、まあこちの都合なんだが。この探索者組合を含めた七つの大きな組合は、実態としては独立しているとは言え、過去のあれこれもあって緩く連携を取っていることは知って……いないか。まあ、連携を取っているんだが、その一環として色々なことで実は競い合っている。張り合っているとも言うな。そして今回の解体についても、その早さを競い合ってるのさ」
そうして、ついでとばかりにジンさんは、探索者組合に関してのあまり知られていないことも教えてくれた。
話自体は、特に秘密にされているという訳ではないし、資料室で調べたらすぐ出てくる話だけど、今から五百年も前の話なので興味がある人しか調べないから、結果的に知られていないという事だ。
そして、その話というのが現状の探索者組合が出来る前の時代についてだった。
まとめるとこういう事らしい。
曰く、探索者組合は支部と付いているが、現在は特に本部があるわけではない。
曰く、この支部というのは過去にあった大国とその従属国に冒険者組合の本部と支部が存在していた名残ということ。
曰く、大国にあった本部は、その大国に存在していた大陸一のダンジョンの氾濫に飲み込まれ、大国とともに消滅し、それぞれの支部のあった国も溢れ出た魔物に蹂躙され滅びた。
曰く、今現在も大陸の殆どは魔物で溢れているが、七つある探索者組合支部の周辺のみなぜか魔物が、全く居ないわけではないけど、ほとんど居ない。
曰く、本部のあったダンジョンは今も生きていて、魔物を外へと吐き出し続けているらしい。
まあ、後半の話については、知っていることが前提で話していたたので、リーンとソフィーを除く俺達三人は如何にも知ってます、という顔をして聞いていたけど。
あとで、この話を聞いていないソータにも話しておこう。
こうした話しを俺たちに教えてくれたジンさんは、解体が終わり片付けを行っている職員達の所へと歩いていった。
「かなり気になる話でしたね」
「だな」
「探索者組合が、冒険者組合だったなんて、びっくり」
「うむ、妾も初めて聞く話じゃ。親や兄姉にも聞いたこと無い話じゃの」
あ、リーンは兄や姉が普通に居るんだ。
てっきり、一人っ子かと思ってたけど、まあ、それは今はいいか。
どうやらソータの方も終わったようで、俺たちが話している中戻って来た。
「ふ〜。なんとか、終わった終わった。いきなり酷いですよ、イオリくん。僕にも心構えと言うものがですね」
「すまんすまん。気が付いたときには、もうほとんど魔物が『倉庫』の中に残っていなかったからな」
「まあ、たしかに、あれはちょっと、いや、かなりかな? 異常ですよね、あれ」
確かに、どれだけ解体作業に特化しているのかと。
おそらく戦闘においてはほとんど役に立つことはないだろうと思うけど、こと解体作業の、しかもチームで行う作業に関しては俺が前の世界も含めて見た中では断トツで一番だと思う。
「いやー、これで今年の記録はうちが貰ったな。へっ、へっ、へー。クロードハンガーダンジョンとこ奴の慌てる顔が目に浮かぶようだな」
少し悪い顔をし、毎回デカイ顔されてて鬱陶しかったんだよな、とそんなことを言いながらジンさんが手に紙を持って戻ってきた。
「おう、魔物の種類も数も提出した書類通りだな。むしろぴったし過ぎて驚いているぐらいだ。普通、この量になると多少は数に間違いが出るもんだけどな」
どうやら、集計を終えた結果を俺たちが最初に渡した紙に書き加えて持って来てくれたようだ。
ただ、なかなか答えづらい内容の質問がジンさんから聞かれたので曖昧にごまかしておく。
さすがに『倉庫』の機能で集計機能があるので間違えることはないです、なんて言えないしな。
「なあ、なあ、おっちゃん。結局のところ買取金額はどうなったんだ?」
気がつくと、アイツがいつの間にかジンさんのすぐ側に来て買取金額を聞いていた。
ジンさんは、と言うと気が付いたら側に居たアイツに一瞬驚いた顔をしたが、すぐにその表情を戻すと、手元の紙を見て何か忘れていたことがあったのか頭を掻いている。
「おっと、サインをしていなかった。 ……ほれ。忘れずにこれをいつもの窓口へ持っていって処理してもらうんだぞ」
「わかったぜ! どれどれっと」
「イオリさん、私も見ます!」
俺にチラッと、視線を向けてきたので頷くと、手に持っていた用紙にさらさらっとサインをしてアイツに渡す。
ふむ、さすがに、解体してそのまま買い取り完了って訳にはいかないか。
フィーネもしれっと紙を覗き込んでいるが、そのフィーネもいつのまにか近くに来て居たので、再度ジンさんは驚いているようだった。
「おー。すげー金額が書かれてる。……で、結局足りるんだっけ?」
「その紙、僕にも見せてください。ふむふむ、たしか保護期間で溜まった金額が諸々合計で三百セタぐらいだったから、それを四人分、いや六人分か」
「なあ、ソータ、結局足りたのか? 足りないのか?」
アイツの後ろから紙に書かれている金額を見たところ、どうやら足りそう、それも登録して日が浅いため、結果としてかなりの余裕がある状態のようだ。
心なしか、フィーネも嬉しそうにしているが、新しくパーティーに入った二人は何故か困った顔をしている。
「……二人は浮かない顔をしてどうした?」
「……妾たち、特に何もしていないのじゃが、こんなに色々して貰っても良いのじゃろうか?」
「わたしたち、何も返せない」
「ああ、そんなことか。気にしなくてもいいのに。そうだな、先行投資ということでどうだ?」
「先行投資?」
「ああ、先行投資というのは、要するにだ、俺達が将来性を見込んで二人の手伝いをするってことだな。最終的に俺達の助けになればいいし、だめでもそれは俺達の見る目がなかったってことなんだから、二人が気に病む必要はないさ」
俺がそう伝えたところ、なにやら二人して考え込んでいるが、俺は俺で、さっき言った先行投資と言う理由以外にも理由がないわけでもない。
単純に二人共が現在進行形でなにやら変なことに巻き込まれているようなので、ここで放り出して何かあったとすると目覚めが悪いので、まあ俺たちが側で見ていればきっとなんとかなるだろうという腹積もりだ。
「わかった。期待に答えられるよう、頑張る!」
「妾もじゃ!」
「まあ、そんなに気合を入れなくてもいいぞ」
どうやら、二人の話し合いの結果、変なスイッチが入ってしまったようだ。
鼻息も荒く、俺に向かって決意表明をしてきたが、まあそう今から気合を入れてもしょうがないとは思うんだけどな。
現在進行形で巻き込まれている問題も、今は言ってみれば相手側からのちょっかいが来ない限り動きようがない話だし、対応が後手に回ってしまうけど、後の先って言葉もあるぐらいだし、何かしら俺たちにちょっかいを返して来た時点で手痛い反撃を与えてやろうと、改めて思う。
「とりあえず、綺麗にまとまったところで、受付にこの紙を出しに生きませんか?」
「おっと、そっちはすでに終わってたか。じゃあ、行こう」
どうやら、俺たちのやり取りはフィーネ達三人に見られていたようで、気がつくと生暖かい目でこちらを見られていた。
俺達は、そのまま倉庫の中で作業をするジンさんに挨拶をして、中庭を通り、いつもの窓口へと移動する。
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