第五十三話 イオリと襲撃者の正体
「あのー、イオリ様? えっと、その子、なんだか今にも死にそうな状態に見えるのですが……」
会話に参加していなかったフィーネに言われて慌てて『鑑定』で確認すると、体力の欄がさっき確認した17/100から3/100と大きく減っていて、かなり危険な状態だった。
「えっ! あっ、状態が重傷だったからどんどん体力がなくなっているのか。とりあえず『完全回復』っと」
「どわっ! と、と危ないな。うちじゃなかったら怪我していたところだぞ」
「これは…… 足枷や手枷を付けた状態でこの素早さはちょっと考えられないですが、ってなんか体中から血が出ていますね」
体力が回復した瞬間に、またもや襲い掛かってきたので、アイツが押さえつけている間に『昏倒』で転がしておく。
今回、俺やフィーネはやや後ろよりに、そしてソータも少し離れて位置していたので、体力が回復し気絶状態も治ったことで目が覚めたこの子は、ほぼ真正面に居て最初に目に入ったアイツに、枷をしていた影響か獣化もせず襲いかかったが、難なく地面に組み伏せられた。
ただ、枷をしていても結構な素早さで動けているこの子に後ろ側から傍観者として見ていた俺は若干驚いていりする。
さっき、いきなり襲いかかられた時に、最初は対応できなかったのも頷ける話しで、速度だけを考えるなら普通の状態の俺では到底敵わないぐらい素早いようだ。
「とりあえず、どうしようこれ? この状態でもどんどん血が流れているからなんとかしないと死んじゃうよな?」
「そうですね。ただ、回復するとその瞬間、本能のままに襲い掛かってくるのは困りものです」
「なんとかなりませんか? イオリ様」
うーん、『完全回復』って、たしかある程度の状態異常も直るはずだし、状態異常には呪いの類も含まれていたはずなんだけど、この世界では違うのだろうか。
さすがに、回復して襲いかかられ、また回復して、を繰り返すのは面倒なので物理攻撃に耐性が有る『結界』でこの子を閉じ込めてから色々と確認することにしよう。
「とりあえず、閉じ込めとくぞ。『結界』。そして『完全回復』っと」
ふむふむ、『完全回復』した後に『鑑定』、そして目が覚めると襲いかかってくるので『昏倒』を使って気絶させ、を繰り返し、この子の状態を確認してみると、使った直後は確かに“精神汚染”が解除されているが、呪いは消えていないし、“精神汚染”の方もしばらくすると、また状態の欄に増えている。
なるほど、この呪いが特別なのか、それともこの世界の呪いは同じなのかは、まだわからないけど、どうやら状態異常としての“精神汚染”以外に根本の原因は別に有るようだ。
『結界』に囚われた後は、俺が色々と確認しているために、目が覚めると目の前の誰かを襲おうとするが『結界』に阻まれ失敗、そしてまた『昏倒』で気絶させられ、と傷ついて回復されと、さながら拷問をしているようで、ちょっと一般人には刺激が強く、お見せ出来ない状況になっている。
もっとも、そもそもの話として傷ついているのは、この子自身が『結界』にぶつかったり、スキルか何かの影響で体中の血管が切れているためだし、傷ついたら回復をすぐにしているので、冷静に考えるとそれほど酷いことをしているという訳でもないと思うけどな。
まあ、とりあえずそれは、いいや。
「だめだな。『完全回復』を掛けると一旦は消えるけど、しばらくすると、状態の欄に“精神汚染”が増える。もしかしたら、この世界の呪いの類は今の『鑑定』では見えないのかもしれないな」
「むー。そうですか」
「はぁ〜。とりあえず、色々試してみるか」
フィーネの期待するような目を見てしまったら、もう少し試してみるしかないか。
とりあえず、光魔法系の『状態回復』かな。
「『状態回復』。 ……どうだ? だめだな、じゃあこれは……」
結局のところ、小一時間程度、光魔法、闇魔法、神聖魔法、深淵魔法、状態異常回復、体力回復などなど、色々試した結果、闇魔法の『幸運減少』と『昏倒』を使った後に、光魔法の『状態異常完全回復』を使うことで回復することがわかった。
まあ、色々試していたところで『状態異常完全回復』での回復を忘れて気絶させてしまい、慌てて回復させてみたら何故か治ってしまった。
言うなれば、偶然の産物だな。
手探りでこの組み合わせにたどり着くのは絶対に無理、とまでは言わないけど忍耐と時間が必要だったと思う。
「ふぅ。なんとか“精神汚染”と呪いの方は治せたみたいだ。ただ、スキルや魔法についている、“封印状態”や“強制付与”の方は相変わらずだから、どうしたものかな」
「そうですね。あれ? そういえば、もう体中から血が出ていないですね」
「ん? ……たしかに。呪いが原因って事ではないけど、関係が有るのかもしれないな」
体力も回復し呪いなども消えたが、精神的な部分で負荷が掛かっていたのか、今はフィーネに膝枕をされて寝ている。
う、羨ましくなんかないぞ。
「えっと、結局これからどうしようか?」
「流石にうちもこの子を放って移動しよう、とは言えないぜ。むー、またダンジョンはお預けか」
「おっ? この子を思いやるぐらいは出来るのか」
「むっ! さすがのうちも、このぐらいの分別は着くぞ! 馬鹿にするな!」
「そうですよ、イオリくん。流石に非常識の塊とはいかないですが、非常識の革を被った常識と呼ばれたことも有る、イオリさんも成長しているのですから」
俺の言葉に噛み付いたアイツだったけど、どうやらソータに止めを刺されたようで、ダンジョンの壁際に移動しいじけている。
まあ、慌ててソータが宥めに言ったので問題ないだろう。
ただアイツの意見に乗るってことじゃないけど、やはり一旦はダンジョン探索を切り上げる必要があるよな。
「とりあえず、一旦探索を切り上げるのは決定として、どうやって戻ろう?」
「えっと、イオリ様。どうやってとは? この先をそのまま進んで抜ければいいのではないでしょうか?」
「いや、それも一つの手だけど、まずはフィーネの言った、このままダンジョンボスの部屋から抜ける方法が一つ。『離脱くん』利用する方法が二つ目だ。あとは三つ目、と言いたいけど残念ながら道を逆に辿っても行き止まりだな」
この後、どうするかをフィーネに聞いてみると案の定と言うか、ボスのことしか頭にないと言ったらいいのか、他の選択肢は全く考えていなかったようだ。
まあ、二人でどうしようか考えていてもしょうがないので、アイツらにも伝えることにする。
「……僕はどちらでもいいですが、イオリさんはボスと戦いたいって言いそうですね」
「おう! うちの事良く分かってんじゃねーか」
「イテテ。まあ、イオリさんですし……」
アイツに背中を叩かれて痛そうにしつつも少し嬉しそうなソータは放っておくとして、まあ、もう少しでボス部屋なので、フィーネじゃないけどそのまま抜けようと思う。
「うーん、考えたけど、もうちょっとでボスの部屋みたいだからこのまま行こうと思う。まあ、流石にドラゴンとかが出るんとわかってるなら、この子を抱えている今だと『離脱くん』を使ったほうがいいかもしれないけど」
「まさかぁ。こんな浅い階層でドラゴンなんかが出たら、ウチらじゃなければ全滅間違いなしだしドラゴンとか出るわけないぜ。そんなことより、ほらほら、さっさと行こうぜ」
「そうですよ。イオリ様もホラホラ」
「……イオリさん達は元気ですね」
「だな」
まあ、ともかく、ボス部屋を目指して進んで行こう。
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