第四十七話 イオリとダンジョン内での野営
この階層も今までの例に漏れず、どうやらボス部屋はほぼ中央にあるらしく、マッピングの結果も外周部からどんどん進み、ぐるぐると時計回りで中心に向かって通路が地図に描かれている。
「えっと、次はうちらの番だっけ?」
「違うぞ? まあでも、二十層のボスは普通じゃなかったしな。ってことで、よろしく」
「あっ、そうだっけ? まあいいや」
簡単なやり取りの後、すぐに走り出したアイツに少し遅れれボス部屋に入ると、すでに部屋の真ん中まで辿り着いているのが目に入る。
まったく、せっかちだな、アイツは。
しばらくするとボスが俺達の目にも入ってきたが、アイツはボスに近づくと、すっと脇にズレて胴体に右アッパーを喰らわせる。
一応手加減はしているようで、胴体が抉れてはいないようだけど、胴体に強烈なダメージを受けたためか、悲鳴すらあげられず口から泡を吐きながらビクッビクッと痙攣をし、しばらくするとばったりとその場で横に倒れた。
ちなみに、この階層のボスは魔浪系のグレーターウルフに、その取り巻き数匹だったが、まず最初にその中心のグレーターウルフが倒されたために、それに驚き呆けていた取り巻きは次々と狩られていった。
「おー、流石に胴体を抉ったりはしなかったか」
「まあな、流石に学習するぜ。抉ると手とか汚れるしな」
「……そうか」
てっきり、毛皮に傷を付けないようにしたのだと思ったけど、どうやら、さっきの説教が効きすぎたようだ。
ソータも少し呆れているが、本人はよく分かっていないようで首を傾げている。
「ん? なんかおかしなことあったか?」
「いや、てっきり毛皮を傷付けないように手加減したものだと思ってたから」
「おお! そ、そうそう。それだそれだ!」
「いやいや、誤魔化されないからな」
「え〜。そこは誤魔化されようぜ〜」
俺は惚けたことを言っているアイツにため息を着くと、ダンジョンに吸収される前にボスと取り巻きの死体を回収し、奥の部屋へと向かう。
フィーネとソータは顔を見合わせると一瞬苦笑いをして俺を追って歩き出し、アイツも慌てて追いかけてくる。
「今回の階層は特に変じゃなかったな」
「ん? 変ってのは何が?」
「イオリさん、あれですよ。すぐ下の階層のボスが、アシッドジェリーだった件ですよね?」
「そうですね。こういうことはよく起きるのでしょうか? 調べたときには特に書かれていなかったと思いましたけど」
「そうですね。僕が調べた限りでも、そのようなことは書かれていなかったと思います」
「だよな。まあ、今のところは考えても仕方がないから、とりあえずはダンジョンに集中しよう」
「うん。うちもそれがいいと思うぜ」
まったく。
何となく分かってきたけど、アイツは頭は悪くないとは思うし、脳筋ではないと思うけど、考えるよりも手が動く方が先なようで、傍から見ると考えなしに動いているように見える。
ただ、どうやら、一見考え無しに動いているように見えるが、動物的カンと言うか、直感で正解を選んでいるみたいだ。
これまで階層内を予想以上の速度で移動できていたのは、そのカンのお陰なのかもしれない。
「とりあえず、次の階層行くぞ」
そんなこんなで、アイツが飛び出しつつ、フィーネが出会う端から一閃しつつ、どんどんとダンジョンを潜っていく。
まあ、ダンジョン探索といいつつ、低い階層はすでに探索し尽くされているのか、それなりに探索者が居るので、あまり人が居ない深い階層まで、俺達の実力に余裕がある限り潜る予定だ。
そして、今のところは潜っている階層と実力を比べると、役不足な感じがする。
これ、どこまで潜ればいいんだろう。
「二十六層まで来たけど、そろそろ飯にしないか?」
「そうですね。僕も、お腹が減ってきたので、休むのに良い場所が見つかったら、一旦今日の探索を止めませんか?」
「残念ですが、しょうがないですね。私は賛成です」
「うーん。まだ物足りないけど、しょうがないか」
もう少しぐらいは、お腹も我慢できるし、やろうと思えば、徹夜で移動も出来ないことはないけど、まあ、休める時は休んでおきたい。
「うーん、ちょうどよい所……か。そういえば、たしか、すこし戻った所の分かれ道、そのもう片側がちょっとした広場になってたな」
「そうですね。たしかに、ちょうど良いかもしれません」
俺とソータで相談して休む場所を決めたが、アイツとフィーネの方はといえば、特に反対はないようだ。
俺達は、少し洞窟内を戻ると広場の端に陣取り、昨日購入したテントを広げ始める。
「じゃーん! これが昨日購入したテントだ」
「わー。パチパチパチパチ」
「おー。うちらは寝袋しか持ってなかったよな」
「そうですね。テントも購入しようと思ってたのですが、まあ、僕たちは寝袋を持っているのでいいかな、と思ってましたけど。これはこれで良さそうですね」
基本的には、ダンジョン内では寝袋などが普通だろうけど、まあ、俺は結界があるし、ソータ達も特に何も言わなかった所を見ると、同じようなことが出来るのだろう。
昨日、ミーナちゃんが見せてくれたように、平らな所に設置し、魔道具を起動させると、あっという間にテントが設置できた。
忘れないうちに結界も張っておくことにする。
「じゃあ、テントも設置できたし、晩飯とするか」
「あんたらも弁当買ったんだよな。なら、ウチラとおかずの交換しようぜ」
そのまま摘んでもいいけど、お皿か何かに載せたほうがいいかもしれないと思っていたら、すでにソータがコップとともに用意していた。
じゃあ、俺はコップに水でも入れるかな。
「よし。お皿を用意したのでここに乗せて適当に食べましょうか」
「よし、じゃあ、俺達が買った弁当は、こっちのお皿に載せるぞ。混ざらないほうがいいと思うし」
「わかった。うちらはこっちだな」
せっかく、別々のお弁当屋さんで買ったのだから、混ざってどちらの店のかわからなくなるよりも、見てすぐに分かるほうがいいな。
「えっと、私たちは、ポーラさんという方が店主の『手作りお弁当屋さん』で購入したのですが、イオリさんとソータさんはどこで購入しましたか?」
「うーん? どこだっけ、ソータ?」
「たしか、『隠された食事処』だったと思います。ジニーさんが開いているお店なのですが、裏路地にあるのでかなり迷いました。あそこは、地図がないと辿り着けないし、地図があっても迷いそうです」
たしか、お店に行くのに、道にすごい迷ったって話だったな。
お皿にどんどん乗せられているお弁当を見ると、俺たちのにも負けないぐらい美味しそうだし、アイツらが弁当を買った『隠された食事処』ってのにも行ってみたいな。
「うーん、こうやって見ると、こちらの私達が購入したお弁当は、見事に茶色一色ですね」
「まあ、買った時からわかってたけど、オーク肉の弁当が安かったからしょうがないな」
「ん? オーク肉のオークって言ったら、魔物のオークのことだろ? それって旨いのか?」
そういえば、俺もフィーネの世界で最初は、魔物の肉ってだけでちょっと忌避してたけど、食べてみたら十分美味かったし、強い魔物になるほど美味しかったから、フィーネから魔物を見る目がなんだかおかしいって最後の方は言われてたな。
「そうだぞ。そんなに不思議がるってことは、組合の食堂とかでも食べてないのか?」
「たしかに、魔物の肉って話だったので、料理の価格は安かったですが、結局は食べませんでしたね。僕達の世界では、魔物の肉は毒も有るし、なんとか食べられるようにしても、すごく不味くて食べられたものじゃないってのは常識でしたので」
「それは勿体無いです。というわけで、ぜひとも私達の買ってきたオーク肉を使ったお弁当も味わってください。きっと美味しいですよ?」
お皿にお弁当を並べ終わり、お弁当を中心に、俺、フィーネ、アイツに、ソータ、の順に座る。
そして、座り終わって、さあ食べようと思ったら、俺以外の全員が俺の方を期待するように見ているので、しょうがなく合図をする。
まあ、俺たち以外はいないようだし、この合図でいいか。
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