第四十五話 イオリとアシッドジェリーについての報告
「こんにちは、ロニさん」
「はい。イオリ様、先ほどぶりですね。今回はどのようなご用件でしょうか?」
お昼前の会話が聞こえていたのか、パーティー登録を行ってからダンジョンへ潜り、夜になる前に戻ってきた事に少し驚きながらも淡々と対応をしてくれるロニさんは、きっと優秀なんだろう。
「えっとですね。ちょっと報告したい件がありまして……」
「報告…… ですか? どのような内容になりますでしょうか?」
「はい。まずはこの魔石を見てほしいのですが」
「これは、少し小さいようですし、ゴブリンなどの魔石ではないようですが…… えっと、たしか、この色でこの大きさだと…… !!!! こ、これはどこで手に入れたのでしょうか?」
どうやら魔石を見ただけで、ロニさんは異常性に気がついたみたいだ。
ただ、驚きすぎているのか、カウンターを乗り越えんばかりの勢いで顔が近づいてくる。
「ちょ、ちょっと、顔が近いですよ、ロニさん!」
「はっ! こ、これは失礼いたしました。私としたことが…… それで、この魔石はどのような経緯で手に入れたものでしょうか?」
「えっと、二十層のボスの部屋で」
「に、二十層ですか!? そ、それは…… っと、とりあえず、組合カードを預からせていただけないでしょうか?」
「? はい、どうぞ」
「お預かりします」
とりあえず、組合カードをロニさんへ渡し、カウンターに広げていたアシッドジェリーの魔石を回収しておく。
しかし、このタイミングで何故、組合のカードが必要になるのだろうか?
ロニさんの対応を不思議におもっていると、ローブの袖を引っ張られた。
「おわっ! ああ、なんだよ?」
「なーなー。結構注目浴びてるみたいだけど?」
「ん?」
アイツに、そう言われて組合のロビーを見渡すと、俺とワザと目を合わせないようにはしているようだけど、俺達気になります、と言った感じにそわそわとした雰囲気となっていることに気がついた。
ロニさんが結構慌てていたから気になったのだろうか?
丁度、確認が終わったようなので、ちょっと、奥で話せないか相談してみよう。
「お待たせいたしました。組合カード、お返しいたしますね」
「はい。それで、ちょっと注目を浴びてしまっているので、奥へ行けないでしょうか?」
「奥、ですか? ……たしかに、あの階層で、あの魔物というのは、現状、ここで話せる内容ではないですね。支部長を呼んできますので、しばらくお待ちいただけないでしょうか?」
「はい、分かりました」
そう行って、受付に『隣の窓口へどうぞ』の札を出しカウンターの奥へと支部長を呼ぶために消えていく、ロニさんだったけど、しばらくすると、支部長のドタドタと走る音と共に戻ってきた。
「おう、ちょっと、昨日の応接室まで来てくれ」
「えっと、パーティーメンバー全員でも良かったですか?」
「おう、構わねぇぞ」
そう行って、急いで奥に消えていったロベルトス支部長を追いかけるように全員で応接室に入って行き、言われるままにテーブルを挟み支部長の向かい側のソファーへと腰を掛ける。
「とりあえず、昨日の今日で、二十層まで行っているとは驚いたな」
「はぁ。それはまあ、何というか」
「おっと、それはともかくとして、二匹分のジェリー種の魔石を二十層で見つけたって?」
「えっと、ちょっと違います」
「ん? 何が違うんだ? ロニからの報告ではジェリー種の魔石が九個って話を聞いているが、もしかして他にもあるのか?」
どうやら、報告に行き違いがあったようだ。
まあ、たしかに、俺達のような新米のパーティーが中層以上で出てくるような魔物を倒せるとは普通思わないよな。
信じてもらえるかどうかは置いておくとして、とりあえず起こったことを伝えてみよう。
「順を追って話します。まず二十層のボス部屋に入ると、普通出てくるようなボスが出てこず、その代わりにアシッドジェリーが二十層の階層ボスとして出てきました。そして、倒すと合計で九個の魔石が出てきた、と、そんな感じです。それで、ちょっと普段出てくるボスではないようなので、その階層で探索を切り上げて組合へ報告に来たというわけです」
「……アシッドジェリーが、それも九個の魔石持ちが二十層に出てきた、だと? 一匹のジェリー種が持っている魔石の数が九個と言うのは、たしか今までに報告がなかったはずだな。念のため魔石を預かって確認してもいいか?」
「構いませんよ。はい、どうぞ」
アシッドジェリーの魔石を『倉庫』から取り出し、テーブルの上に載せる。
魔石はほぼ球体だけど、完全な真球ではなく少しいびつな形をしているので、そのままコロコロとテーブルを転がり落ちるようなことはないと思うけど、テーブルを傷つけないように、布か何かの上に置いたほうが良かったかな。
「これか。ふーむ、たしかに全部の魔石が同じような形で重さや大きさも同じようだな。まあ、さっきも行ったが、これは預からしてもらうぞ」
「はい、お願いします」
報告する内容は、これだけだったかな?
フィーネたちに確認を取るように顔を向けてみるが、特に追記することはないみたいだな。
「報告は以上か?」
「はい、特に漏れもないようなので以上です」
「よし、よく報告してくれた。最近は探索者の質が下がっているのか、ダンジョンの異常を見逃すことも多くて……」
なんか、愚痴が始まってしまったが、話が長そうなのでさっさと終わらせようと思い、ロベルトス支部長へ声を掛けようとするタイミングでソータが割り込んできた。
「ちょっといいでしょうか? イオリさん、その魔石なのですが、戻ってきたらどうします?」
「どう、と言うのは?」
「買い取ってもらうかどうかです。えっと、組合長さん、たしか魔石の買い取りも出来るんでしたよね」
たしか、魔石も素材として買い取りの対象にされているんだっけ。
でも、買い取ってもらう以外の選択肢があるような聞き方だけど。
「ん? ああ、ソータだったか? たしかに買い取りもしているが…… そういえば、お前たち全員、組合のランクはFだったよな」
「はい、たしかに昨日登録したばっかりなので俺達のランクは全員がFだったと思います」
「そうだよな。それでだな、初めて組合に魔石や魔物の素材を持ち込んだ時に説明しているんだが、魔石の買い取りはちょっとした制限があって、魔物のランクが探索者のランクよりも、そうだな、基本はランクが二つ以上開いている場合は組合の規則で買い取りを拒否している。ということで、残念ながらこの魔石は組合では買い取れない」
「なるほど。ということは、僕達のランクが上がってから持ち込んだほうが良いということですか?」
「まあ、それも手だが、魔石の価値は時間が経つに連れて下がるから、あまり良い方法とは言えないな。他の選択肢としては、懇意の魔道具店に持ち込みで魔道具を造ってもらう、とかだな。まあ、懇意の魔道具店なんてのは早々出来ないんだがな」
ランクにより、買い取りが制限されているとは。
まあ、しばらくは、組合負担で生活できるから問題ないけど、ランクもどんどん上げていかないと駄目かもな。
「懇意の魔道具店ですか…… 魔道具店と言えば、そういえば、昨日、ライアさんと言う魔道具職人さんと知り合いになりました」
「ライアか。ん? アイツは今確か、借金で首が回らなくて店は開いてなかったはずだけどな」
「みたいですね、知り合ったのはミンティアナさんから紹介してもらってです。そういば、支部長はライアさんとお知り合いなのですね」
「ん? ああ、お前たちは、この街に来たばっかりだったか。まあ、アイツは魔道具組合の支部長をしているから、その縁でな」
へー、あのライアさんが、魔道具組合の支部長なのか。
腕の良い職人のようだったから、もしかして、お偉いさんかもしれないとは思っていたけど、支部長だとは。
でも、支部長なのに、借金まみれってのはどうなんだろうな。
原因が、研究費や材料費ってのは職人らしいといえば職人らしいけど。
「まあ、それはともかく、だ。魔石は今のままだと規則で買い取れないから、ライアと知り合っているなら、そうだな、必要であればライアへの紹介状を書くことも出来るがどうする?」
「そうですね…… では、紹介状をお願いできますか」
ライアさんへの紹介状を書いてくれるということなので、ありがたく頂いておこう。
とりあえず、これで魔石を『倉庫』の肥やしにしなくても良くなったかな?
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