第三十七話 イオリと新たなスキル
フィーネたちに確認したが特にスキルは増えていなかったようなので、どうやら俺達には何かあるらしい。
増えた理由はともかくとして、とりあえず、スキルを『鑑定』で調べてみるか。
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名称:平行世界の双子
付与条件:並行世界における同一人物がその他の世界で接触すること
効果:思考共有、被ダメージ譲与、経験譲与、存在把握、自己保全
詳細:
本来、邂逅し得ない存在である、平行世界間での同一人物が、それぞれの平行世界のどちらでもない、その他の世界で出会い、接触することでこのスキルが付与される。
思考共有の効果は、このスキルを保持している者同士の思考を、双方に意識がある場合に限り、任意のタイミングで距離や次元を無視し共有することが可能となる。
被ダメージ譲与の効果は、このスキルを保持している者が受けた状態異常や怪我などを、双方に意識がある場合に限り、最大で九〇%まで、もう片方へ双方の同意に基づき受け渡すことが可能となる。
経験譲与の効果は、このスキルを保持している者が得た経験、これは技術や知識など、ありとあらゆる経験をもう片方へ双方の同意に基づき受け渡すことが可能となる。
存在把握の効果は、このスキルを保持している者が他方の存在を、距離や次元を無視し把握することが可能となる。
自己保全の効果は、このスキルを保持している者同士で、お互いの体や魂を含めすべてのバックアップをお互いに保持し、片方の存在が消失した場合に保持している複製情報から復旧することが可能となる。
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ちょっとこれは、なんなんだろう。
『思考共有』とかも、なかなかとんでもないけど、特に最後の『自己保全』の説明に書かれている効果が、あらゆるものすべてに喧嘩を売っていると思えるぐらい、うん、自分で言うのも何だけど酷いな。
「……これは、何というべきだろうか?」
「うち、こういうのを一言で表す事ができる言葉を知ってるぞ」
「ん?」
そんな言葉あったかな?
「チート乙ってやつだ」
「ああ、たしかにな。擬似的にだけど不死身ってことだろ?」
「ん? ああ、ほらフィーネも見てみるか?」
俺達だけでスキルを見て納得していると、袖を軽く引っ張られる感じがしたので、隣を見ると少し拗ねているフィーネがいた。
そんなフィーネをずっと見ているのも良いのだけど、放っておくと終いには口を聞いてくれなくなるので、程々でフィーネにもスキルの鑑定結果を見せることにする。
「これは……。何というか、すごい能力ですね。今までのイオリ様も凄かったですが、これは輪をかけて……ですね」
「たしかに、そうですね。味方としてはすごく頼もしいですけど、敵として現れたら尻尾を巻いて逃げ出したくなるような内容ですね」
尻尾ないですけど、と少し小さな声で付け加えた。
へー、耳はあるのに尻尾はないんだ。
ともかく、ソータも、そしてフィーネも、なんと言う酷い言い草。
たしかに、説明を見る限り、とんでもない能力な事だけは間違いがないな、
「そうだそうだ。なあなあ、うちらでパーティーを組まないか?」
「突然だな。うーん、ちょっとフィーネと相談させてほしいかな」
「すいません。イオリさんは言い出したら聞かないので」
突然のパーティー申請だったけど、俺としては組んでもいいかなと思っていたりする。
まあ、フィーネが嫌がらなければ、だけど。
「フィーネ、あいつらとのパーティーなんだけど、どう思う?」
「イオリ様は、あまり迷ってらっしゃらないように思うのですが、それならば特に反対する理由もありません」
「まあ、そうなんだよな。黒歴史とか知られてるし、スキルにも『存在把握』とか『思考共有』とかあるから、パーティー組んでいたほうが良いかなと」
「黒歴史…… ですか?」
「あ、いや、なんでもない。そこの部分は忘れて欲しい」
「分かりました」
フィーネも特に嫌がってなさそうなので、あいつらとパーティーを組むことにした。
「相談した結果…… パーティーを組んでみようということになった」
「……なんだよ、脅かすなよな」
「改めて、よろしくお願い致しますね、イオリさん、ソータさん」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
えっと、まずは組合でパーティー申請をしないと、だったっけか。
と、考えていたら、頭の中にあいつの声が聞こえてきた。
『おーい、聞こえるか? うちうちイオリだ』
『ん? ああ、これが『思考共有』なのか? 『思念会話』とどう違うんだ?』
『うーん? こうかな?』
と、なにか突然に、頭の中に物語のように様々な画面が浮かんでは消えていく。
どうやら、あいつやソータが体験した冒険の記憶らしい。
なるほど、これは『思念会話』とはちょっと違うところだな。
『おお! なるほど、これがこうして、こうか?』
俺もあいつに習って、俺達の冒険譚を送ってみることにした。
思考共有は、例えるなら、二人に共通な大きい机があって、その上に文字を書いたり、絵を書いたり、映像を出したり出来るような感じだろうか。
とりあえず、冒険譚は四年間をダイジェストにして三十秒ぐらいに纏めればいいかな。
『……すげーな。あんたもなかなか大変だったんだな』
『まあな。しかし、これは便利だな。いろいろ応用が利きそうな感じだ』
『だな』
と、思考共有で会話していたら、さっきと同じようにフィーネに袖を引っ張られてしまった。
いかんいかん、今の状態を傍から見ると二人して見つめ合っているようにしか見えないな。
親近感は湧くけど、生き別れた双子の片割れが見つかったような感じなんだけどな。
「もう! さっきから、二人で見つめ合い、イオリ様は何をなさっているのですか?」
「そうですよ。イオリさんは、僕というものが……」
「ん? ああ、『思考共有』を試していたんだ、フィーネ」
「そ、そうだぞ。ソータは何を言っているんだ?」
ソータが話した無いようは俺には最後まで聞こえなかったけど、どうやらあいつには聞こえたらしく、少し顔が赤くなっている。
「まあ、とりあえずは、だ。そろそろ昼時になるから、ここに居座るのも不味いんじゃないか?」
「んー。まあ、そうだな。んで、これからどうする? ダンジョンに潜るのか?」
「そうだな。ああ、そういえば、ダンジョンへ行くところだったっけ」
「そうそう。うちら、昨日見つけた弁当屋さんで昼の弁当を買ってダンジョンに潜ろうとしてたんだけど、タイミングが悪くてさ」
「タイミング?」
「そうなんですよ。目当ての弁当屋さんに行ったら、行列が出来てて、やっとのことで順番が来たと思ったら、なんと目の前で売り切れたんですよ!」
どうやら、弁当屋さんに行ったはいいけど、行列で時間を食ってしまったみたいだ。
「結局、お弁当は買えなかったのですか?」
「買えたよ。無理を言ってお店の人に他の弁当屋さんを紹介してもらったんだけどさ。そのお店の場所がちょっと見つけにくくて、迷いに迷って、結局は更に時間が掛かったんだよな」
ああ、行列で時間がかかり、別の店の場所を探すのに更に時間が掛かり、か。
踏んだり蹴ったりだな。
「それは、まあ。お疲れさんだな」
「おう、ほんとだよ。んで、結局ダンジョンには潜るのか?」
「それなんだけどな。先に組合で俺達とパーティー登録をしないか?」
「おお、そういえば、うちらのパーティー登録がまだだったぜ。完全に忘れてた」
どうやら、あいつはすっかりと忘れていたらしいけど、ソータはちゃんと覚えていたようで苦笑しながら隣に座っているあいつを見ていた。
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