第三十六話 イオリともう一人の勇者
「ほらほら、テレビで『暴れたがり坊将軍』とかやったなかったか?」
「うーん、そんなテレビ番組あったかな? 『徳川吉穂』が主人公の『暴れん坊姫将軍』とかならやってた気がするけど……。そもそも『徳川家康』とか男みたいな名前なんだな?」
「えっ?」
「んん?」
なんか、俺の知っているテレビ番組じゃない気がするし、今の言い方だと、まるで代々の将軍が女性みたいな話しぶりだな。
「確認するけど、代々の『徳川家』の当主って男だよな」
「ん? いんや、うちが覚え間違ってなければ最後の将軍まですべて女性だったはずだぞ? 何言ってるんだ?」
こ、これは、もしかして……もしかしなくても、そういう話なのか?
同じ場所に住んでいたりとか、知り合いに共通項が多すぎたりとか、そもそも、俺の黒歴史を知っているとか……てっきり、平行世界的な感じかと思ったけど、どうやら少し違うらしい。
平行世界は平行世界だけど、男女の性別が入れ替わっている系の平行世界なのだろうか?
どうやら、あいつ自体はまだ混乱中でこのことに気が付いてはいないみたいだけど。
「なるほど。とりあえず、落ち着いて聞いてほしいんだけど」
「うん? さっきよりは落ち着いてると思うけど?」
さっきって言うと、黒歴史を暴露した時のことだろうか。
……うっ、この眼帯に隠された、って眼帯してないし、この話はもう金輪際やめておこう、封印だ封印。
「どうやら、俺とお前は、と言うよりは、俺の生まれた世界とおまえの生まれた世界は『平行世界』の関係なんじゃないだろうか?」
「ん? 『平行世界』って、要するに、もしもこんなことがあったとしたら、の世界ってことだろ? お前の話を聞いている限り特に違う部分は……。ああ、性別か……」
「そう。まあ、確証は無いけどな。もしかしたら、お前も感じてるのかもしれないけど、なんか既視感みたいなものを感じてたんだ。けど、今話したことが理由なら、まあ納得が出来る理由ではあるのかなと、理解は出来ないけど」
「……なるほどね。そういうことなら、うちも納得いかなくもないかな? 異世界への召喚ってのがなければ信じなかったと思うけど……。実際に召喚された今だとストーカーよりは納得がいくかもしれない。まあ『平行世界』もあるかもな、って程度だけど」
とりあえず確証はないし、どうやったらそれを確かめられるかは分からないけど、まあたぶん、そういうことなんじゃないだろうか。
俺の黒歴史も含めて把握されているっぽい状況は、ちょっとご遠慮願いたいけどな。
お互いに納得がいったところで、傍観に徹していたフィーネが袖を軽く引っ張ってくる。
「えっと。とりあえず話はまとまりましたか?」
「ああ、すまん。とりあえず状況の整理はできたと思う」
「イオリ様、その……。最後に出てきた平世界とは何でしょう? 異世界とは違うのですか?」
「うん、『平行世界』な。そうだな、例えば、もしもフィーネが男に生まれていたらとか。もしも『魔王』が生まれず『勇者』も、まあこの場合は俺って事になるけど、その『勇者』が召喚されなかったらとか。そんな、もしもこんなことがあったなら、の世界だな。まあ、俺の生まれた世界ではさっき言った、もしもこんな事が実現する世界があるのなら、をまとめて『平行世界』って言ってたんだ」
「うーん、何となく話は分かるのですが、ちょっと想像できないです」
まあ、あいつも言ってたけど、異世界へ召喚される前なら、平行世界って言われても、物語の中の話だろ、って感じで一蹴していたかもな。
実際に、現状を考えてみても、未だに少し信じられない気持ちが強い。
「なあなあ、『魔王』とか『勇者』とか出てきたけど、もしかして、お前も『勇者』なのか?」
「ちょ、ちょっと! イオリさん、不味いですよ」
あっ、失敗したな。
ぽろっと『魔王』とか『勇者』とか口にしていたらしい。
……って。
「も?」
「そうそう。うち『勇者』なんだぜ。その感じからすると、お前もだろ? ほらほら『鑑定』みたいなの出来るんだろ? うちに『鑑定』してみなよ」
どうやら、あいつは俺と同じ『勇者』だったらしい。
さっきまで必死にローブの裾を引っ張ってあいつを諌めようとしていたソータは諦めたのか、今は疲れたように首を振っている。
「じゃあ、お言葉に甘えて『鑑定』してみるぞ」
「おう、ばっちこーい!」
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名前:イオリ
性別:女性
年齢:17歳
称号:召喚された勇者、魔王の敵、魔王を滅ぼした者
状態:良好
ステータス:
体力:(抵抗されました)
魔力:(抵抗されました)
魔法:(抵抗されました)
スキル:(抵抗されました)、平行世界の双子
加護:(抵抗されました)
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ほうほう、同じ年なのか。
あと、まあ、あいつの言う通り、女だったらしいけど、口に出しても表情に出しても拳が飛んできそうだ。
しかし、ステータスはスキル以外軒並み抵抗されているな。
「ふむふむ、って、抵抗ばっかだな。まあ『勇者』ってのは、称号にもあるし納得した。しょうがない、ほれ、『鑑定』出来るんだろ、お前も」
「まあ、たしかに、うちも『鑑定』できるけどさ」
あいつに問いかけると予想通りの返答が帰ってきた。
しかし、俺の『鑑定』をレジストできるとか、どう考えても俺と同レベルの『鑑定妨害』系のスキル持ちだ。
『鑑定妨害』系のスキルに特化しているとかではない限り、実力としては同等程度はあると考えるのが対応としては正しいと思う。
実力が同等かそれ以上と考えた場合には、よっぽど実力が違わない限り、戦って勝ちはしないまでも、負ける事はないという自信はあるけど、そもそもの話、今のところ特に敵対する理由もないから、ここで『鑑定』を使われるのを断って悪感情を持たれるのも馬鹿らしい。
「イオリ様、よろしいのですか?」
フィーネが袖を引っ張り、小声で聞いてくるが、まあ、この場合はしょうがないだろう。
というか、黒歴史まで握られている相手に敵対とか考えただけでも恐ろしい。
すこし待つと、どうやら『鑑定』したらしく『鑑定看破』のスキルに反応があった。
まあ、いつもなら『鑑定妨害』を常に行っているので、例えば戦闘中に『鑑定看破』スキルが反応して気が付く、などの事が多いけど、今回の場合は鑑定する事が予め分かっているので特に驚く事はない。
「むー。おまえも、うちのこと言えないと思うぞ。名前や性別とか称号ぐらいしか見えないし。そういえばスキルの欄は、ほとんどすべて抵抗されてるけど、平行世界の双子ってのが一つだけ見えてるな。どういうスキルなんだ?」
「ん? 平行世界の双子なんてスキルは知らないぞ? ちょっと待て……。ああ、たしかに増えてるな。いつの間にか増えたから対象に追加できてなかったのか。というか、お前のところにもあるぞ、それ」
「えっ? あっ、本当だな。いつ増えたんだろう?」
どうやら、俺とあいつには、いつの間にか平行世界の双子なる、新たなスキルが増えていたようだ。
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〆(.. )カリカリッ!!




