第三十四話 イオリともう一人のイオリ達の事情
「はっ! んん、ゴホン。私としたことがお見苦しいところをお見せいたしました」
「おう! なんだ、そこまで驚いてくれるとはな!」
「はい、俺たちはこの街に来たばっかりなのでびっくりしました」
話した後で、これがこの世界では普通のことだろうか、と考えていたけど、どうやらこんなパフォーマンスをするのはここだけらしいと聞いて、俺の常識は間違っていなかった、とホッとしたのは秘密だ。
「そうだろそうだろ。これはここの名物的なもんらしいからな!」
「まあな。こんだけ魔法の才能があれば十分探索者で食っていけるしな! 魔法使って給仕しているのはここぐらいじゃないか?」
じゃあ、ゆっくりしていけや、と話しながらおっさんはカウンターに戻っていく。
昼の仕込みでもするのだろうか?
「そうですね、トレイを四枚浮かべても魔力の漏れもないなんて驚きです! トレイを十枚も浮かべているのも昨日見たのでまだまだ余裕でいけるようです」
興奮し鼻息も荒く話すソータ。
俺たちと同じようにローブを着ていたが、もしかしたら、魔法使いか魔導師なのかもしれない。
まあ、給仕に魔法を使うなんて事を考えるのは、世界中を探してもなかなかいないと思う。
少なくとも、フィーネの世界で俺は見た事が無いし、あの驚きようを見ると、フィーネも見たことがないと思う。
基本的に、フィーネの世界では身分の高い人に魔法が使える人が多かったし、そもそもの話として、魔王と魔族、魔物の脅威があったために魔法技術の応用にそこまで余裕があったわけでもないので、生活の質の向上に魔法が使われるとしてももうしばらく先になると思うけど、今の所、戻る方法もないので気にしても仕方がない話だ。
「まあ、とりあえず、給仕の話は置いといて、だ。なんであんたはうちと同じ“イオリ”なんだよ!」
「いや、俺やお前のように同じ名前がいないわけじゃないだろ? 偶然だよ偶然、それ以外に考えられないだろ?」
「んー、まあ、普通に考えたら可能性としては低いですが偶然同じ名前だった、という話なんでしょうね」
「そうですね、偶然以外、考えられないと思いますよ?」
なんか、偶然が強調されている気がしないでもないが、どう考えても偶然としか考えられない。
「そうかー。んー、うち、やっぱりなんか引っかかるんだけど」
「あー、それは俺も思う。が、何だろう? 何かもう少しで出てきそうな気がするが、出てこないな。ちょっと喉に小骨が引っかかった感じがして気持ちが悪いな」
「何でしょうか? 私はなんとなく、雰囲気が似てるような気がします。気のせいかもしれませんが」
「そうですね、容姿も黒っぽい栗毛、黒目で、少し顔の彫りが浅い。うん、なんとなく似てる気がします、僕も。兄弟とか親戚と言っても通じるような気がします」
うーん、そう言われてみれば兄弟と言われてもしょうがない程度には似ているような気もするが、なんなんだろうな、これは。
「確かに。言われてみるとそうかもしれないなぁ、俺は生き別れの妹が見つかった! と言われたら信じてしまうかもしれない」
「そうですね、私も信じて……」
「えぇー! うちが姉じゃないかな、ここは」
何を言っているんだ、このちんちくりんが、と思っただけで顔に出してはいないはずなのになんか睨まれた。
実際、十人に聞いて十人がちんちくりんと答える容姿をしている自分を恨むべきだろう。
「あー、先程伝え忘れていたのですが、イオリさんに、小さい、とかチビ、とかは禁句なので注意した方がいいですよ。まあ、性別もよく間違われますけど」
と、ソータがこちらに顔を近づけつつ小声で話してくる。
男の子と間違えられて怒っている姿も可愛いのですが、と更に小声で席に戻る最中につぶやいていたけど、聞こえているぞ、ソータ。
「ともかく、姉はないな、姉は」
「くっそーっ! やっぱダメか。『日本』でも年下に舐められてたからなぁ……」
女の子が、くそとか言うなよな、その点フィーネは……。
って、それはどうでもよくて、『日本』だって?
「まあ、姉でも妹でも、なんでも良いや。ところでさ『日本』ってなに?」
念のため、こっそりと密談用の防音結界を起動しながら、質問を投げかける。
「な! 無詠唱? 見たこともない発動形式、こっ、これは、どう言うことですか!」
「っ!!! うちらとやりあうのか?」
椅子を鳴らし立ち上がり、いつの間にか武器を持って構えている、あいつとソータ。
あれ、どうしてこうなった?
魔法自体に気が付かないと思ったのだけど、どうやら気が付かれてしまい、余計な警戒を与えてしまったようだ。
そもそも、これに気が付くとか、地味に自信無くすな。
「イオリ様? ちゃんと誤解は解いてくださいね?」
「「誤解?」」
あいつとソータはフィーネの言葉に同時に首を傾げる。
なんか、あいつはもともと小さいし、ソータも男性としては少し背が低めで童顔なので、二人揃って同じ動作をしていると小動物っぽいな。
「あー、すまん、すまん。特に敵意はないし、誤解を与えるつもりはなかったんだ。今さっき起動したのは防音結界、えーっと、中で話した内容が外に漏れないようにするための魔法だ。攻撃とかそういう意図はない」
両手をバンザイの状態にしながら二人を宥めにかかる。
「あっ、そうだったのですね。すいません。僕も過剰に反応してしまって」
「なーんだ、それならそうと言ってくれればよかったのに。うちも緊張して損した」
損をしたとはなんだ、まったくもう。
しかし、魔法の起動に気が付かれたこともそうだし、戦闘行動への切り替えの早さといい、ちょっと相手の実力を見誤っていたようだ。
これが、この世界の標準だとちょっと困るんだけど、どうなんだろう?
この後で話が聞けるといいのだけれど。
「しかし、この魔法の起動に気がつくとは、これでも俺は自分の力に自信があったんだけど、それもなくなってしまうな。っと、まあ、それはともかく、結局『日本』ってなんなんだ?」
「あー、うーん。ちょっと待って、ソータ。こっち、こっち」
「あっ、はい」
ソータを近くに呼んで、なにやらこしょこしょ顔を寄せ合って小声で相談をしだしたが、すぐに結論が出たのかこちらに向き直る。
「えっーとな、信じられないかもしれないけど、うちらはここの出身、と言うかこの世界の出身じゃないんだ、実は」
「えーっと、異世界って僕達は呼んでいるんですが……」
いま、さらっと世間話をする感じで重大な話が出て来たんだが、ちょっと話の流れが急すぎて頭の処理が追いつかない。
隣に座っているフィーネを見ると錆び付いているかのように挙動不審にこちらへ向き、これはどう言うことでしょうか、と目で訴えかけてくる。
「えっと……」
何だったかな、そうそう『日本』だった。
そういえば、あいつの言った『日本』は俺の知っている『日本』と同じなのだろうか、それとも違うのだろうか?
「えーっと、異世界、異世界ですか……。私が知っている話しと同じだとすると、この世界とは異なる世界から来た、ということでしょうか?」
「そーだよ、うちらはしばらく前に、その異世界から転移してこの世界にやってきたんだ」
「……ちょっと待ってもらってもいいか? フィーネと二人で相談させて欲しい」
「はい、いいですよ」
やっぱり、異世界とか突拍子もないんだよ、とか、信じてもらえるかな、とか遠くで聞こえるが、とりあえず無視だ、無視。
「ちょっと、これはどう言うことなんでしょう? イオリ様?」
「うーん? 俺たちと同じようにして、この世界に来たのか? まだ、判断するための情報が少ないな。俺達の話もしつつ、もう少し話を聞いてみるかな」
「そうしましょうか」
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