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異世界のイオリと伊織  作者: 猿丸駿
第一章
33/107

第三十三話 イオリと馬の蹄亭

「じゃーん、着いたよ! ここが“馬の蹄亭”さ!」


 と、胸を張り褒めてほしそうな顔をするので、頭をわしゃわしゃと撫でる、目を少し細め気持ちよさそうだ。

 隣を見るとフィーネが不機嫌そうな顔で俺を見ている。

 えっと、こ、これは出来心、そう出来心なんだよ、フィーネ、って、なんで言い訳しているんだろう?

 そして、前を見るとソータがなぜか不機嫌な顔で俺を見ているが、理由がわからないので首をかしげる。

 その間も、わしゃわしゃと手が勝手に頭を撫で続けている。


「はっ! ってうちは子供じゃないぞ!」

「ああ、すまん。撫でやすい位置に頭があったからな、つい」


 ともかく、どうやら目の前に見えているお店が、あいつおすすめの“馬の蹄亭”らしい。

 “馬の蹄亭”の店構えは、いかにも西部劇風といった感じで、壁はいい具合に年月が経った色合いの木材を使っているようだ。

 店の外からは店内が暗くて中の様子はよく分からない。

 入り口には西部劇でお馴染みの上半分しかなくて押して入る両開きのドアが付いていて、少しワクワクしてしまう。

 入り口付近の軒には、建物と雰囲気が合うようなランプが両側に二つ吊ってあるが、現在は昼間も昼間で、まだ日は沈んでいないために、そのランプ自体に火は灯っていない。

 夜になってランプに火が灯ると、まさに酒場と行った感じの雰囲気になりそうだ。


「もう! 中に入りましょう、イオリ様」

「そーですよ、入り口で固まってたら僕たちがここに来た意味がないじゃないですか!」


 入り口付近で立ち止まっていた所、フィーネに腕を引かれ中に入るように促される。

 ソータはソータで、あいつの背中を押して店の中に入っていく。

 中に入ると、薄暗いため一瞬、ほとんど周囲が見えなくなるけど、すぐに目が慣れると目につくのは、顔が映るぐらいによく磨かれたカウンターテーブルやファンシーなテーブルクロスが掛けられた丸机、そして天井からぶら下がるランプだった。

 ランプは形だけを見るとロウソクのようだが、よくみるとランプから天井へと黒色に近い茶色をしたコードが伸びていた。

 電気製品……はまだ見たこと無いから魔道具か何かでロウソク型のランプを光らす仕組みじゃないだろうか。

 丸机に掛かっているテーブルクロスは、およそ世界観やお店の雰囲気をぶち壊すような、可愛い花柄や少しデフォルメされた角の生えたウサギやアルマジロのような生き物が描かれている。

 そして、カウンターは傷一つなくピカピカに磨かれていているのもそうだけど、縁が一段高くなっており乗せているものが滑って落ちないようになっていた。


「おっちゃん、邪魔するぞ! 何か軽く摘めるものとジュースか何か出せるか?」

「ん? オメーは昨日来たイオリったか? ったく、まだ営業時間じゃねーぞ、昼までもうちょっとぐらい待てねーのか!!」


 なにやら、あいつは店員とは気安い中らしいが、どうやらまだ営業時間外だったらしい。

 話を聞いているとどうやらこの店は、昼からの営業らしいが、現在は昼ではなく朝をすこし過ぎたあたりなので、まだ店を開いていない時間だったようだ。


「いーじゃん! まぁー場所貸してくれるだけでもいいよ!」

「おいおい、ここに来て座るだけかよ! 金払うんだったら、昨日だしたやつぐらいなら用意できるぜ!」


 店員のおっさんは、顔は厳つく、がっしりとしていて大柄でいて、さらに言葉も雑だけど気がきくみたいだ。

 店の雰囲気も良いし、ここで昼食を食べるのも良いかもしれない。

 隣のフィーネもニコニコしているので、ここが気に入ったのかな。


「んじゃあ、それで頼むよ! うちらは奥にいるから人数分よろしく!」

「しゃーねーなー、座ってすこし待ってな、持ってくぜ」

「イオリさんが迷惑かけてすいません」


 ソータが店員に謝ってるが、強引なのはいつものことらしいが、あいつとは馬が合うのだろうか、店員は気にしていないようだ。


「いいってことよ! サービスするから贔屓にしてくれよな」


 そう言った後、話は終わったと、ばかり料理を用意するためにカウンターに戻る、おっさん。


「じゃあ、奥のうーんと、あの席でいいか。あそこの席に座ろう!」

「そちらの、イオリさんと、えーっと」


 ソータが名前を言おうとして言い淀むがフィーネが素早く名乗る。

 そういえば俺しか名乗ってなかったな、さっきは。


「フィーネと申します。そのままフィーネとお呼びください」

「じゃあ、フィーネさんでいいかな? とりあえず、えっと、イオリさんも、奥のあそこの席に座りましょうか」

「わかった。俺たちも行こう」


 フィーネに目を向けると軽く頷き、席に行くよう促される。


「とりあえず、座ったところで、もう一度、自己紹介をしようぜ! うちはさっきも名乗ったけど“イオリ”だ。この街には……えっと、昨日来たばっかだな。今日からダンジョンに潜ろうとしてたところだ」

「では、次は僕でしょうか? 僕はソータと言います。イオリさんとパーティーを組んでいます」


 しかし、同じ名前の人物が複数居るとわかりにくいな。


「俺は、いや俺もと言ったほうがいいかな? 名前を“イオリ”と言う。この街には同じく、昨日来たばっかりだ」

「では、最後は私ですね。フィーネと申します。こちらのイオリ様とパーティーを組んでいます。そちらのイオリ様も気軽にフィーネ、とお呼びくださいね」

「了解したぜ、フィーネ。っと、そうだよ、そのイオリ様ってのはなんとかならないか? くすぐったくてかなわないし、隣のあんたと同じ“イオリ”だと呼びにくくないか? まぁ、“イオリ”でもイオリさんでもイオリちゃんでもなんでもいいぜ」


 まったく、指をさしながら、あんた呼ばわりか、行儀の悪いやつだな。

 とはいっても、はてさて俺もなんと呼ぶのがいいのだろう?


「では、イオリさん、とお呼びいたしましょうか?」

「んじゃあ、うちはそれでお願いするわ」


 とりあえず、様を付けて呼ばれるのは、嫌らしい。

 俺も無しにしてほしいので、事あるごとに言っているが直らない、と言うよりも直す気配がないのはどうしたものだろうか?


「では、僕も様は無しで呼んでください」

「はい、ではソータさんとお呼びいたしますね」

「じゃあ、俺も……」


 どさくさに紛れて、何回目になるかわからないお願いをしてみる……が、結果は明らかだろう。


「? イオリ様はイオリ様ではないでしょうか?」

「ぐっ! やっぱりダメか……」


 まあ、それほど期待はしていなかったから良いか。


「それはともかく、俺も、“イオリ”でいいけど」

「うーん、紛らわしいのでイオリ君で良いでしょうか?」

「たしかに、紛らわしいな。まあ、俺はそれでいいか」


 自己紹介から若干の脱線を始めたところで、ぬっと、おっさんが顔を出す。どうやら食べ物と飲み物が来たらしい。

 と、おっさんの方を見たところで危うく吹き出すところだった。


「おう! 待たせたな、探索者御用達の手掴みバーガーとオレンジエード四人前だ!」

「ありがとな! 何度見ても惚れ惚れするような、給仕姿だぜ!」

「そうですね、さすが魔力に無駄がないです。僕も見習わなくては!」


 普通に料理を運んできたらいいのに、料理が乗っているトレイを魔法で空中に浮かべながら席まで持ってくるなんて、さすがに予想外だった。

 というか、何者だろうな、このおっさん。

 俺から見ても魔法の腕は悪くないと言えるぐらい、年季が入っているように見えるから、元探索者なのだろうか?

 っと、すこし、驚きすぎて固まっていたようで目の前にはバーガーとオレンジ色の飲み物が並べられている。

 右隣のフィーネも目を大きく開きぽかんと口も開いた状態で同じように固まっていたようだ。

 フィーネに肘をつんつんと当てて再起動させる。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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