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異世界のイオリと伊織  作者: 猿丸駿
第一章
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第三十二話 イオリともう一人の……

「えっと、潜っていた時間は……。一層から十層までは、だいたい三時間弱ぐらいかな」

「イオリ様、それは早いのでしょうか?」

「他の探索者と比べて? 多分だけど、早いんじゃないかな。途中何組かのパーティーに会っているけど、ボス部屋から脱出したり、途中のマッピングも時間がかかるんなじゃいかな?」


 話しながら、次の階層へのポータルに乗ろうとするフィーネを慌てて捕まえて、地上へと帰還するためのポータルに乗り、石碑に手を乗せる。

 まったく、油断も隙もあったもんじゃないな。

 うまくいけば儲けもの、ぐらいの気持ちだったのか特に拗ねることなく同じように石碑に手を乗せたことを確認し、帰還用の呪文を唱える。


「『(convert)(imini)』」


 転移が終わり地上に戻ってきたことを確認しつつ辺りに目を向けると、今いる場所は話の通り俺たちがこの世界で初めて見た場所だった。

 うーん、これはやはり……、送還魔法の転移先が何らかの原因でずれ、送還魔法に近い系統の魔法か何かが使われているポータルに引き寄せられたってところだろうか?

 と、少し考え事をしていて心ここに在らずといった状態だったが、フィーネに袖を引っ張られたことで意識が引き戻された。


「イオリ様? 考え事をするのは良いのですが、ここではなく、どこか落ち着いた場所でしませんか?」

「ああ、ごめんごめん。とりあえずは、組合に行こうか」

「はい、そうしましょう」


 入り口付近に組合のカードを(かざ)す場所があるって話だったけど。


「おっ! あったあった。これだな」

「なるほど、これですか。えいっ!」


 そんな勢いを付けなくても、ちゃんと認識すると思うんだけどな。

 とりあえず、手続きは済んだので、さっさとここを出て組合に行くとしようかな。

 探索者組合へと昨日は、若干きょろきょろしながら通った道を……。

 訂正、今日もフィーネはきょろきょろと大通りに広がる店を見ながら歩いている。

 そんなどこか子供っぽいフィーネを横目で見ながら大通りを進み、十字路に差し掛かったところだった。


「あっ!」

「えっ?」


 なにやら、とフィーネがつぶやいた瞬間に、釣られてフィーネが目を向けている方向へと顔を向けると、俺の胸ぐらいの高さの何かが、がこちらに向かってすごい速さで飛び出てくるのが見えた。

 見えたのは良いけど、残念なことに街の中だったため……、だけではなさそうだけど、回避が間に合わなかった。


「「ごふっ!!」」


 ちょうど俺の方は左側面からわき腹に大ダメージを受け悶絶し、ちんまい物体は丁度良く頭へとクリティカルヒットしたようで蹲りながら頭を抱えて、うーうーと唸ってる。

 俺は自分でダメージを魔法で回復しぶつかってきた相手を見たところ、ちんまい物体、もとい少年(・・)も立ち直ったみたいだ。


「ちょっと、うちにぶつかっておいて、誤りなさい……よ?」


 いきなり好戦的な奴だな、と思っていると途中で首を傾げ出す。

 釣られたわけじゃないけど、俺もぶつかって来た奴を見て首を傾げる。

 身長は俺の肩ぐらいしかなく、フィーネとまあ、だいたい同じぐらいだ。

 フードが付いたローブを羽織っていて、フードを深くかぶっているため顔が少し影になって隠れて入るが髪は短めの黒髪のようだ。

 そして、ローブの前が開いているために、ちらっと見えた服装は、明らかに闘士風で、どう考えても魔術師ではなさそうだ。

 なんだか見覚えがあるような気がするし、それ以上に親近感を覚えているけど、なんだろうな、これ?

 と、そうだ。


「俺の名前は……!!!」「うちの名前は……!!!」


 ほぼ同時に、名前を名乗りはじめ、同時に話し始めたことに驚いたために途中で口が閉じてしまう。

 それも同時に。


「「えっと……!!!」」


 さらにまた、同時に話し出し同時に黙りこむ、俺とあいつ。

 ふと、隣を見ると少し不機嫌なフィーネが見えるが、何故不機嫌になっているのだろうか?

 わからない。


「「じゃ、じゃあ、どうぞ……!!!」」


 くっ、これでは話が進められないぞ、と思っていたら先にあいつが話し出す。


「とりあえず、先に名乗る権利をうちがあげるぜ」


 なぜ、上から目線なのか?

 まあ、あげるというなら貰っておこう。


「俺の名前は“イオリ”だ」


 苗字はといえば、勿論あにはあるけど伝えた場合には、まあ、ややこしいことになるのが定番っぽいし、前の世界でも面倒くさいことになったことがあるので省略する。


「……えっ!? ちょっと、うちの真似するなよ!」

「真似ってなんだ、真似って」


 普通に受け答えしたと思ったのだが、なにが気に入らなかったのか分からないが突然怒り出す。


「真似は真似だよ、名前が“イオリ”って。うちが“イオリ”だ!」

「いや、今さっき会ったばっかりの初対面で真似したもしていないもないと思うが……って“イオリ”だって?」


 なにか不可思議な状況に巻き込まれた予感がする、これは勘だけれど。


「そうだよ。うちの名前は“イオリ”だよ?」

「いや、俺の名前も“イオリ”だぞ?」

「やっぱ、真似っ子じゃん。あっ、あと先に言っておくけど、うちはれっきとした女の子だからな?」

「「えっ!?」」


 フィーネも気がついていなかったようだけど、どうやら、少年ではなく少女だったらしい……けど、一部の発育がわ……。


「ふんっ!」


 いきなり、殺気が膨れ上がったため、慌てて避ける。

 どうやら殺気は本物だったけど、拳自体は本気ではなかったようだ。

 って、いきなり危ないな。


「ちぃ! うちの拳を避けるなんて、なかなかやるな! 気に入ったぜ」

「いやいや、いきなり危ないだろ。まともに受けてたら大怪我のところだっただろうが」

「そりゃそうだぜ。ヤル気はなかったけど本気だったからな」


 ヤル気とか、なんて物騒な奴だ。

 本当に、一般人はまともに食らってふっとばされて大怪我してたんじゃないかな?

 つくづく一般人じゃなくてよかった、よかった……って違うか。


「まあ、間違えたのは悪かった。謝るから殴るのはなしな」

「しょーがねーな。うちは優しいから、デコピンで許してやるぜ」

「いやいや、さっきのから考えると、デコピンもただのデコピンじゃなくて必殺だろうが」


 と、若干漫才めいたことをやっていた所でフィーネたちから声が上がる。


「「あの」」


 また、同時に首を傾げつつ頭をフル回転させていると、フィーネと犬耳の男の子が同時に声をかけて来る。

 って、犬耳!?

 そういえば、フィーネの居た世界では犬耳や猫耳な獣人族はいなかったな。

 話を聞いても見たことがないと言う事だったので、元々居ないか、絶滅したか、それとも未だ見つかっていないか、の三通りが考えられるが、俺の希望としては未だ見つかってない事に賭けたいところだ。

 と、思考が飛んでいたところで、その、犬耳の男の子がフィーネに目配せをして先に話し出した。


「と、とりあえず、往来の邪魔になるので、何処かお店に入り腰を落ち着けて話をしませんか?」

「少し周りから注目を浴びていて、その……恥ずかしいですし」


 すこし、大きな声で話しすぎたか、周りからチラチラと見られていたようだ。

 フィーネも犬耳の男の子も羞恥でかすこし顔が赤くなっている。

 むぅ〜、なに犬耳の男の子と仕草をシンクロさせているんだ、フィーネ。


「そうだな……と、言っても、まだ換金もしていないし、あまり自由に使えるようなお金はないけど」

「いいよそんなの、うちが持つから。んーと、組合の食堂でもいいけど……。あっ! 『馬の蹄亭』にしよう! いいよね、ソータ」

「は、はい。僕は構わないですけど、その、お二人もそこでいいでしょうか?」


 どんどん、話を進めていくあいつと犬耳の男の子改めソータ。

 フィーネを見ると軽く頷き問題ないとの判断なのでお誘いに乗る事にする。


「俺たちの方は問題ないよ。そもそもおごってもらう立場だし、どこに何があるのかもまだ知らないし」

「んじゃあ、行こう! うちに付いてきて!」


 馬の蹄亭とやらで腰を落ち着けて話すために、先頭を進むあいつの後ろをぞろぞろと移動する。

 と、すこし狭い路地をどんどんと進んでいくので、少し不安な気持ちが出てきたことにに気がついたのかこちらを向く。


「あっ! ごめん、ごめん、説明が足りなかったね。ちょっと奥の方にあるけど、もうすぐ着くから! 大丈夫、取って食いはしないから!」

「いや、少し不安というか不審に思ったのは本当だけれど。取って食うのか?」

「食わないから!」


 現状、まあある程度はなんとかなる気がするんだけど、目の前のあいつやソータからは強者特有の雰囲気がしているので、俺もフィーネも少し緊張しているのは間違いないと思う。

 ただ、それとは別に、何となくあいつは大丈夫だろうと思っている俺も居るけど、なぜだろう?

 どうやら目的地に着いたようで、前を見るとちょうどこちら側へと振り向く途中のあいつが目に入った。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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