第二十九話 イオリとロブアグリードダンジョン一層目のボス
「うーん? イオリ様、先程から魔物は、ほとんどゴブリンや、ゴブリンメイジぐらいしか出てきませんね」
「そうだな……。おっと、そこの角を左だ、フィーネ。そろそろ、ボス部屋が見えてきても良さそうなんだけど」
先程から、出会う魔物はフィーネが鎧袖一触で尽く倒してしまうので、俺はやることがないし、そのフィーネも少し物足りなさそうだ。
そう言う訳で、今はさっさと下の階層へ潜るため所謂ボス部屋に向かっているところだ。
どうやら、このダンジョンのボス部屋は階層内のほぼ中央にあることが多く、また、通路や階層内の部屋に比べ広い区画をとっているのでダンジョン内の地図を正確に作ると、中央部分が空白地帯になるためにボス部屋の場所がなんとなく分かるみたいだ。
『広域空間把握』でダンジョン内の地図を作っている俺の場合は適当に歩き回っても、自動的にボス部屋が浮かび上がってくる訳だけど、なかなかボス部屋へ辿り着けないのは、ボス部屋へ入るための扉は一つしか無いために、ボス部屋の方へと進んでも右に左にと、折れ曲がってしまい途中でボス部屋から離れていってしまうのが理由だ。
「おっ! どうやらこの先がボス部屋らしい」
「そうですか。少しでも戦い甲斐のある魔物がいれば良いのですが」
少し先にボス部屋が見えたことからフィーネにつられて駆け出してしまったが、脇道から魔物が出てきたため、ちょっと焦りすぎていたかと反省する。
まあ、魔物自体は出会った瞬間にさよならしていたけど、主にフィーネによって。
フィーネは、この階層の魔物程度では歯ごたえがなさすぎて物足りないようで、だんだんと戦い方が雑と言うか、イライラをぶつける感じに荒々しくなってきている。
普段物静かにしているフィーネは王女様らしい、と誰もが思う物腰だけど、話す内容はほとんど戦いに関することだし、戦闘を行っている姿はとてもじゃないけど王女様とは見えないために、残念王女と影で囁かれていたりした。
まあ、俺は今の多少お転婆なフィーネがフィーネらしくて良いと思うけどな。
「お、ボス部屋の前に誰か居るな」
「そうですね。一応、フードを被っておきますね」
ボス部屋の前には、十代半ばぐらいの男女混合六人組の探索者が、ボス部屋の扉が開くのを休憩がてら待っていた。
基本的にボス部屋の扉が開いているのは、すでにボスが倒されているが次のボスが湧いてくる前であるために部屋の中にボスが居ない状態か、ボスはいるけど部屋の中に誰も入っていない状態の場合だ。
そして、扉が開いた状態で中にボスが居る状態ということは即ち……前のパーティーが全滅しているって事だ。
まあ、『離脱くん』を使えばボス部屋であろうとも逃げ出すことは可能なのでめったに全滅することはないけど、自分の力を過信した馬鹿なパーティーが全滅することはあるようだ。
「おう、来た所悪いが先に入らせてもらうぜ」
「お先にー」
基本的にダンジョンのボス部屋に入るのは到着した順番で入るのがマナーとなっていて、ほぼ守られているらしい。
ちなみに、順番を守らないパーティーとボス部屋で全滅するパーティーはだいたい同じパーティーらしい。
「はい、お先にどうぞ」
男の子が二人で女の子が四人の六人で構成されたパーティーがボス部屋に入っていくのを見送った後、しばらくするとボス部屋の扉が開く音がした。
「あれ? 意外と扉が開くのが早いですね、イオリ様」
「そうだな、っとまだボスも居るらしい。全滅はしていない、のかな? 特に装備や遺体も残っていないようだし」
開いた扉の中を見ると、倒されていないのかボスは居たが、装備類も遺体も部屋の中には見当たらなかった。
探索者が倒されると、遺体はもとより装備類など、ほぼすべての物という物が時間経過とともにダンジョンに吸収される。
ただまあ、例外として探索者組合のカードは謎の技術により保護されているために吸収されることなくその場に残るらしい。
あと、ダンジョン内で拾った組合のカードを受付に届け出ると少額だが報奨金が出るらしい。
ともかく、そういうことなので扉が空いた直後からしばらくは、遺体や装備類がそのまま残っているために全滅したかどうかの判断を簡単にすることができる。
そして、今の状況を見ると俺達の前のパーティーは、残念なことにボスを倒すことはできなかったが『離脱くん』で無事にパーティー全員が逃げ出すことはできたようだ。
「とりあえずはボス部屋に入りましょう、イオリ様」
「そうだな」
ボス部屋に入り、すこしすると後ろで大きな音を立てて部屋の扉が閉じる。
なんか、魔法をぶっ放せばそのまま出れそうな感じがするのだけど、どうなんだろうか?
緊張感の欠片もないことを考えながら、先程被っていたフードを下ろしていた所、どうやら、ボスのおでましのようだ。
「キ゛キ゛ッ゛! ク゛ォ゛ー!!」
ボス部屋の奥から魔物達が叫びを上げた後、こちらに向かい走ってくるのが見えた。
うーん、ボス部屋の魔物って扉が開く前にいちいち奥まで戻っているのだろうか?
叫び声を上げた瞬間、叫び声を上げた中央のゴブリン、『鑑定』するとゴブリンサモナーのようで、そのゴブリンサモナーから周囲に居るゴブリンに対して魔力が流れていくのが見えた。
さて、余裕があるからステータスを見ておくか……。
まずは、初めて見る魔物、ゴブリンサモナーだな。
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名称:ゴブリンサモナー
固有名:なし
種別:魔物
状態:良好
関係性:敵対
全長:4フィト前後
体重:22ルトエ
脅威:パーティー討伐C級、ソロ討伐B級
概要:主にダンジョン内部では低層に分布する亜人種の魔物で、同族を召喚し使役する。
詳細:
体長は4フィト前後で、ゴブリン種の中位種となる。
基本種や稀に中位種を召喚し使役することができ、周囲の同種族に対して『同胞昂揚』を使用し、ステータスを上げることが出来る。
ゴブリンサモナー自体は、ゴブリンメイジほどではないが魔法を使用でき、また、同様に接近戦を苦手としている。
ダンジョン外部では雌のゴブリンがごく稀にしか発生しないために、人種の女性を攫い苗床とすることがあるが、ダンジョン内で発生したゴブリンは生殖機能がないためにそのようなことは行わない。
加護:『ロブアグリードダンジョンの庇護』
スキル:なし
魔法:『同胞昂揚』『下位同族召喚』『風刃』
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まずは、ゴブリンメイジ、これは扱える魔法が違うぐらいか。
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名称:ゴブリンメイジ
固有名:なし
種別:魔物
状態:良好
関係性:敵対
全長:4フィト前後
体重:22ルトエ
脅威:パーティー討伐E級、ソロ討伐D級
概要:主にダンジョン内部では低層に分布する亜人種の魔物で、簡単な魔法を使用する。
詳細:
体長は4フィト前後で、ゴブリン種の中位種となる。
中位種の中では珍しく、簡単な魔法を使うことができるが、ほとんど魔法特化とも言って良いために接近戦を非常に苦手としている。
使用する魔法は、『水球』や『火球』、『風刃』など簡単な魔法のみを使用する。
ダンジョン外部では雌のゴブリンがごく稀にしか発生しないために、人種の女性を攫い苗床とすることがあるが、ダンジョン内で発生したゴブリンは生殖機能がないためにそのようなことは行わない。
加護:『ロブアグリードダンジョンの庇護』
スキル:なし
魔法:『水球』『火球』『火壁』
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最後は、ゴブリンだけど、なんか状態の所に、従属って書いてあるぞ?
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名称:ゴブリン
固有名:なし
種別:魔物
状態:良好、従属
関係性:敵対
全長:4フィト前後
体重:20ルトエ
脅威:パーティー討伐F級、ソロ討伐F級
概要:主にダンジョン内部では低層に分布する亜人種の魔物。
詳細:
体長は4フィト前後で、ゴブリン種の基本種となる。
基本種ではあるが、ある程度の知恵があるために連携して襲ってきたり、道具を自分で作り使うことがある。
このゴブリンからパーティー討伐E級のゴブリンソルジャーからパーティー討伐S級のゴブリンキングまで様々なランクの上位種へとランクアップする可能性がある。
ダンジョン外部では雌のゴブリンがごく稀にしか発生しないために、人種の女性を攫い苗床とすることがあるが、ダンジョン内で発生したゴブリンは生殖機能がないためにそのようなことは行わない。
加護:なし
スキル:なし
魔法:なし
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「この叫び声は、『同胞昂揚』ってスキルっぽいな」
「うーん、そうするとステータスの向上系統でしょうか? それでも、あまり変わったようには思えないのですが」
うん、俺達にとっては、変わっていないようでも、強さが近いものだと結構変わるんじゃないかな、フィーネ。
さっきのお返し、とばかりに呆れた目で見ると、少しフィーネが拗ねてしまった。
「まあ、ともかく、さっさと後ろのやつを含めて倒してしまおうか」
「はい、イオリ様」
ゴブリン程度の強さでは負けることがない、とここに来るまでに分かっているのでボス部屋内でも雑談しながら一番近くに来ていたゴブリンたちを倒していたけれど、もしゴブリンよりも素早かったり、強かったりしたら、当然のことながら雑談する暇もなかっただろう。
ともかく、一撫でで事切れたゴブリンたちをみて多少慌てたのか、奥に居座っているゴブリンサモナーが何やら魔法を使ったのが分かった。
すると、ゴブリンサモナーの周囲に魔法陣が現れ、すぐに数十体のゴブリンがわらわらと出てきた。
「キ゛ク゛! キ゛キ゛!!」
どうやら、あわててゴブリン達を追加で召喚したらしい。
まあ、魔法に『下位同族召喚』ってのがあったし、種族の名前からして召喚者だったから、なんとなくそうじゃないかな、と思ってた。
どうやら、この階層のボスはゴブリンサモナーとお供でゴブリンメイジが居て、その他は召喚したゴブリンだったらしい。
まあ、もっとも、ゴブリンたちはフィーネによって召喚された直後にさよならするわけだけど。
「イオリ様、中央のを倒してしまっていいでしょうか?」
「俺も魔法を使ってみたいなー、と思うんだけど」
「うー、しょうがないです。次の階層は任せてくださいね?」
「まあ……、いいか。分かった」
近寄ってくるゴブリン達を次々と葬りつつ、フィーネと交渉し、魔法で一掃する許可を得たので、早速やってみることにする。
とりあえず、下級で炎系の範囲魔法でいいかな?
フィーネの様子からすると、普通に魔法を使うと大惨事になりそうな感じなので、ちょっと工夫をする。
「とりあえずは、『威力制限』を使ってっと。『火炎領域』!」
魔法を使った瞬間、あっ、これは駄目だ、とすぐに気が付いた。
予想以上に魔法の威力が高かったのか、ボス部屋の中央より奥側が大惨事になった。
あわてて『氷壁』魔法を使い、炎がこちらまでこないようにする。
「……制限してもこれか。もうちょっと考えないとダメだな」
「そうですね。『氷壁』も前に見た時よりも威力が高かった気がします」
うーん、困ったことになったな。
これでもかなり抑えているつもりだったんだけど、まだ制御が足りないのは予想外にもほどがあるな。
しばらくは範囲魔法系は封印して、対象指定系の魔法に頼るしか無いのか。
これは、早めになんとかしないといけないぞ。
今の感じからすると対象指定系の魔法を使ったとしても対象自体の数を増やしてしまえば、何とかなりそうだけど、うん、面倒だな。
「とりあえず、ボスはドロップ品が残るみたいだ」
「ですね。拾って次の層に行きましょう」
フィーネは早くボスと戦いたいのか、奥の部屋にあるポータルの方へと背中をぐいぐいと押してくる。
まったく、そんなに慌てなくても階層のボスは逃げないと思うぞ。
ドロップ品を拾い、フィーネとともにポータルから次の階層へ移動する。
「まあ、一層目から一階層潜った所で様子がいきなり変わるってことはないよな」
「まだまだ、低層の一番始めの方ですから。十層目にたどり着くまでは、同じような感じだったと思いますよ」
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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