第二十七話 イオリとダンジョン探索の注意事項
「気が付かなかったけど、俺達がこの世界で最初に出てきた建物の横にもダンジョンの入り口があるみたいだ」
「そのようですね。あっ、イオリ様。どうやら入り口に、ダンジョンへ潜る人のための受付があるようですよ」
なるほど、組合での登録時にダンジョンのことについて、特に制度的な部分について説明がほとんどなかったのはダンジョンに潜る直前に待ち受けていて、その入り口で説明をしているから、のようだ。
受付は建物と言うよりは、柱に布できた屋根が付いているだけの仮設で作られた出張所と言った感じの所で、すでに数人が列に並んでいる。
ちなみに、屋根には『ロブアグリードダンジョン受付け』と大きく、そしてよく見える位置に書かれているために離れたところから見てもすごく分かりやすい。
昨日も思ったけど、探索者の人たちは多少は荒っぽいところがあるみたいだけど、ちゃんと列に並んでいたり、列に割り込もうとした新人探索者をつまみ出し説教している物が居たりと意外と、と言っては失礼なのかもしれないけど、いい人が多いようだ。
と、思考が脇道にそれていると、いつの間にか列が進んでいて、次がどうやら俺たちの番のようだ。
「おはようございます。まずは組合カードをお預かりしますね」
「はい、どうぞ。俺の分とパーティーを組んでいるフィーネの分です」
フィーネの分も含めカードを受付のお姉さんへと渡すと一枚ずつカードを翳し、内容を確認し、すぐに確認が終わったようでカードが返却されてきた。
「はい、確認いたしました。イオリ様とフィーネ様、カードをお返しいたします。初回のようですので、一通りダンジョンについてご説明いたしますね」
「おねがいします」
どうやら、名前の確認やダンジョンへすでに潜っているかどうかカードから読み取っていたみたいだ。
「まず、ダンジョンに潜る際には、必ずこの受付で何日間程度で、どの階層まで潜るかを口頭でよろしいのでお知らせください。これは探索状況の把握と遭難者の把握のためです。早めに切り上げる分には問題ないですが、あまりにも計画と差が大きい場合には、計画より早くても遅れてもどちらの場合にも組合から指導が入る場合がございます」
「なるほど。えっと、今日は半日程度潜る予定です」
「はい、半日程度潜る、と」
えっと、似たような感じのことを昔聞いたことがある。
たしか、登山計画だったっけ?
やり方は違うかもしれないけど、本質的には登山計画みたいなものだろう。
「ちなみに、行方不明となった場合には通常は組合自体が探索を行うことはございませんが、予め組合に対して保証金を預けることで、万が一の場合は掛け金を元に組合が探索を依頼する制度もございます」
なるほど、先払いの探索依頼も出来るのか。
けど、掛金が少ないと依頼を出しても受けてくれる探索者が居ないといったこともありそうだな。
「ダンジョンへ潜るには、あちらに見える囲いの中心に石碑があるのですが、その石碑に全員が手を置いて『ダンジョンへ』と唱えることで一階層目へと潜ることが出来ます。また、後ほど説明を致しますが、十階層ごとに有効なポータルが有効になっている場合には、先程の文言の前に階層を付けてください。たとえば『二十層、ダンジョンへ』のような感じで唱えてください」
「わかりました」
うーん、魔法の呪文みたいだけど、どちらかと言うと、魔道具を起動するためのキーワードみたいなものだろうか?
「次に、ダンジョンに潜る場合には、一人で潜る『ソロ』、二人から六人までの『パーティー』、さらに、2パーティーから6パーティーまで合同での『レイド』があります。これら、特にレイドについてはダンジョンの深層でのボス戦においてボス部屋に入室可能な人数によりレイド内の構成人数が決定されます。このことから分かるようにダンジョンのボスに挑む場合には、1つのパーティーではなく、複数パーティーで挑む場合や、レイド自体を抱える『クラン』といった集まりを作ったり、参加をすることが必要となるかもしれません。ここまではよろしいでしょうか?」
「はい、続きをお願いします」
なるほど、大人数で倒さないといけないようなボスも出てくるのか。
となると、深層に出現するドラゴンとかが大人数での討伐を前提としているダンジョンのボスなのだろうか?
「では次に、各階層のからの脱出方法についてです。まず、緊急時には『離脱くん』を利用してダンジョンから脱出することが可能です。『離脱くん』持ってますよね?」
「はい、持ってます」
「はい、よろしいです。『離脱くん』は大事な命綱なのでケチる対象として含めては駄目です。この事を分かっていない探索者の多いこと多いこと……」
なにやら、色々と探索者に含むところがあるようだけど、俺達に言ってもしょうがないと思うけどね。
先に進んでもらわないといつまで経ってもダンジョンに潜れないので、受付のお姉さんを宥めて正気に戻ってもらう。
「し、失礼いたしました。えー、ゴホン。えっと、そうです。緊急時は『離脱くん』で脱出していただくとして、ボスを倒すことで奥の部屋へと続く扉が開くので、奥の部屋からダンジョンを脱出するか、次の階層へと転移装置で移動することが出来ます」
「なるほど、各階層のボスを倒せばとりあえず地上へと帰還できるわけですね」
フィーネはボスを倒せる気で話をしているので、受付のお姉さんはちょっと苦笑気味だ。
「……そういうこととなります。ダンジョンから『離脱くん』を利用しての脱出、ボスの部屋の奥の部屋からの脱出の場合も、すべて、隣に見えている建物が出口となりますのでご注意ください。また、建物から出る際は入り口付近にこの箱と同じような物が設置してあり、翳すことでダンジョンから出てきたことを記録する仕組みとなっているため、忘れずにカードを翳してくださいね」
「はい、わかりました」
なるほど、どんな場合も隣の建物がダンジョンからの出口なのか。
昨日は気がつかなかったけど、ダンジョンの探索からでてきた探索者は、建物の出口でカードを翳していたんだな。
俺たちは、あそこにいきなり現れたからカードなんか持っていなかったし、そもそも部屋の中が薄暗かったので今の説明がなかったら、きっと見落としていただろうな。
「では次に、ポータルについてです。十階層ごとにポータルと呼ばれる、一種の転送装置が利用できるようになります。次回以降はポータルが利用可能になった階層に直接転移しその階層から探索を行うことが可能となるので、探索の時間を大幅に短縮することができます。ポータルの使い方は先ほどご説明させていただいた通りです。このポータルという仕組みは他の殆どのダンジョンでは存在しない仕組みなのですが、残念なことに、それを持ってしても今のところこのダンジョンの最深部まで辿り着いたパーティーやレイドはおりません」
なるほどなるほど、ダンジョンの深層部について、組合の資料室で調べた内容とほぼ同じだとはいえ、日々探索者の相手をしている受付のお姉さんから直接、生の声を聞くと実感が湧くな。
「では最後にお伝えする内容については、屈強な男性であろうとも、幼子であろうとも、これはどなたに対しても初回に必ず伝えている大事な内容となります。とは言っても、複雑な内容ではなく、ただ一言『常に情報を集め分析すること』この一言がダンジョンに潜る探索者にお伝えする内容となります」
ふむふむ、単なるダンジョンの魔物の分布など、それだけではなくダンジョンの些細な変化など、様々な情報を集めて分析し、探索を行ってほしい、という事だろうか。
「この、情報を集め分析することを怠ったものから、ダンジョンに飲み込まれ未帰還者となっていきます。ダンジョン内では常に孤立無援で探索を行う必要があるため、僅かな変化によっても足元を掬われることもございますので、このことを忘れないようにしてください」
「はい、分かりました」
こう、畳み掛けられるとちょっと不安になりそうな気がするけど……。
フィーネは逆に話を聞いてワクワクしているようだ。
「さて、以上を持ちましてダンジョン探索初回説明を終わります。事前の確認や準備は十分でしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「では、行ってらっしゃいませ。無事にお戻りになるよう願っております」
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