第二十六話 イオリと異世界での二日目
翌日、はっと起きたら昼だった、なんてことはなく部屋にある時計の針は朝の時間をちゃんと指していたようで、寝坊していないようで安心、安心。
さて、フィーネに起こされる前に起きることにしよう。
昨日はちゃんと見れていなかったので、朝ごはんをフィーネと食べに行く前に部屋の中を見ておくことにしようと思ったのはいいけど、一人用の部屋だしトイレもシャワーも無く、他の部屋があるわけでもないため、ベットに腰掛けた状態で周りを見渡すと部屋の中が余すことなく全て確認できてしまったりする。
とりあえず、この部屋は部屋履きやスリッパも特に用意されていないので靴のまま過ごすようだ。
そして、今右側に腰掛けているベットは、腰掛けると床に足がつくぐらいの高さしかないけど、ベット自体は適度に弾力があって寝心地も良かった。
ベッドの左側は壁にぴったりとくっついていて、その壁には手のひら2つ分ほどの四角い時計が埋め込まれ、いつでも今の時刻が分かるようになっている。
ベッドの上側、つまり頭の側には窓があり、そこからは、エレベータからも見えた巨大樹が、ここからでは見えない中庭から空に向かって聳え立っていた。
フィーネの泊まっている部屋は通路を挟んで向かい側なので、たぶんこの巨大樹は見えていないと思う。
この窓、内側から外側はほぼ透明でなにも存在していないかのように感じるぐらいなんだけど、その逆に外側から内側へはどうやらマジックミラーのようになっているらしく、若干遠くに見える、他の部屋の窓は、窓枠がなんとなくわかるぐらいで、窓の部分は鏡のように向かい側の壁を反射していて、中は伺えない。
まあ、女性の着替えシーンとか、マッチョの裸とか見えたら困るから、そこの部分はよかったと思う、いや全然残念じゃないぞ。
「ん、んぁー。よし、いいかげん起きよう」
とりあえずは、着替えて準備をしよう。
しかし、ある部分は進んでいたり、ある部分は遅れていたりと、この世界の技術水準がよくわからないな。
まあ、とりあえず置いておこう、そうしよう。
さてと、ベッドの右側には人一人分が通れるぐらいの幅を挟んで壁側に机と棚が備え付けられているので、普通は荷物を置いたりするのだろうけど、まあ、俺は基本的に荷物は武器を含めて『倉庫』に入れてあるし、フィーネも『収納』に全て入れてあるので特に置くものはない、かな。
まあ、資料室でメモしたものを纏める、とかに使うには丁度良いとは思う。
「よし、とりあえずはフィーネを起こして朝食を食べるか」
『倉庫』から服を出し部屋着から着替えたところで、フィーネの部屋へ行き、まだ寝てるようだったら起してあげようと思い、部屋を出たところで、ちょうどフィーネも部屋から出てきたところだった。
今日のフィーネは昨日、古着屋で購入した服に一見したら布鎧のようだけど実は防御など様々な効果を魔法で付与してあり、そんじょそこらの金属鎧にも負けない防御力などを持ちながら重量は軽く、そして動きやすいという、まあとんでも装備を服の上から身に付け、ローブを羽織っている。
フィーネは上の姉たちと違い、もともとお転婆で騎士に混ざって訓練していたことや俺達と侍女を連れずに旅をしていたこともあり、侍女の手伝いなく身の回りのことが出来るようになっているため、俺が着替えを手伝ったりなどはする必要もなく身支度できている。
まあ、一人でシャワーに行ける段階で、着替えの手伝いなんていらないことはわかりきっているのだけれど。
「おはようございます、イオリ様」
「おはよう、フィーネ。よく寝れた?」
「はい、気がついたらぐっすりです。肉体的に、と言うよりは精神的に疲れていたのかもしれません」
「だね。俺もしっかり寝れたよ、気がついたら朝だった」
まあ、部屋の前で話していてもしょうがないので、フィーネと朝食を食べに行くことにする。
「とりあえず、朝食を食べに行こうか。組合の食堂はたしか、朝からやってたよね」
「はい、結構早くから開いていたと思います。早速食べに行きましょう、イオリ様」
今日も、なんだかんだ言って腹ぺこフィーネは健在なようだ、って睨まれた、何故分かったんだろうか?
一階のカウンターで外出の手続きをして、朝食を食べに組合へ行く。
「うーん、やはりと言っていいのか、朝の組合内は人が多いな」
「そうですね、一応は食堂への道は人が少ないですが、それでもちょっと歩きにくいぐらいの人がいますね」
組合内に入ると、整理のために受付と食堂への道がロープで仕切られており、人垣で食堂へ行くことができない、といったことはないようだけど、それでも歩きにくいぐらいには人が行き来している。
やっぱり、初心者用の宿、というか共同住宅というか、があんなに大きいだけあって、組合を利用する人も一体どこに隠れていたのかっていうぐらい多い。
昨日そんなに人が多くなかったのは、たまたまなのか時間帯が理由なのか、ほとんどの人はダンジョンに潜っていたから、それほど多くはなかったんじゃないだろうか?
「とりあえず、朝食を食べてダンジョンに潜ろう」
「はい、イオリ様」
人の出入りに邪魔になるからと入り口から入ってすぐ隅に移動し、組合内を眺めていたが、まあ、ずっと眺めていてもしょうがないと思い、フィーネに声をかけ階段を上がり食堂へと歩いていく。
「モタモタすんなよー」
「ちょ、ちょっと待って引っ張らないで! 階段だから危ないって! っとわー」
何だ何だ?
と、思ったら、なんか上から人が落ちてくる、と言うよりは飛んできた。
「おっと、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
「早く早く! ダンジョンへ行こうぜ!」
「ちょっと落ち着こうよ、もう! すいません、ご迷惑おかけしました。失礼します」
飛んできた青年は行儀が良くて丁寧だったけど、なんか、連れの子供は、落ち着きがないようだ。
子供と振り回される、従者の青年、みたいな感じだ。
ってもしかして、さっきの人たちは昨日何回かぶつかって来た人たちだったのではないだろうか、妙な縁もあるもんだな、まあこれ以上は特に何かあるわけではないだろう、と思う。
「うーん? さっきの人たち昨日も見かけた気がします」
「だな、まあそんなに広い街でもないし、組合内だからばったりと出会うこともあるんだろう。そんなことよりご飯食べよう」
フィーネも何かしら縁みたいなものを感じて気になっているのかもしれない。
まあ、それはともかくとして、さっさと注文のために端末前の列に並び、朝食のメニューを選ぶ。
が、選択肢はそんなに多くなく、パンとサラダと紫色の卵のスクランブルエッグっぽいものか、なぜか朝からオーク肉のステーキがあるが、朝からちょっと重すぎるって。
いや、探索者ならそれぐらいぺろりと食べれるのかな?
まあ、あとは、オークカツバーガーがあるけど昨日の夜に食べたし選択肢から除外だな。
ここはまあ、スクランブルエッグのセットで、飲み物はっと、色が白いけどコーヒーっぽい飲み物にしておこう。
「よし、ぽちっとな」
言って、ちょっと恥ずかしくなって周りを見回してみたけど大丈夫のようだ。
何が大丈夫かはわからないけど。
ちょうどフィーネも注文が終わったようだで、端末から離れるのが視界の隅に見えた。
「フィーネは何を頼んだんだ?」
「えっと、私はパンとサラダとオーク肉ステーキ、とスープにしました」
ああ、やっぱりと言って良いのか、フィーネはステーキを選んだんだ。
まあ、フィーネは肉体派だから体が資本だもんね。
「イオリ様は?」
「俺は、パンとスクランブルエッグのセットにしたよ」
「むー、てっきりイオリ様もステーキを頼むと思ってたのですが。これでは、私が食いしん坊みたいです」
「いや、みたいです、じゃはなくて実際に食いしん坊じゃないか。まあ、剣士は体が資本だからよく食べるのはいいことだと思うけどな」
自分でもわかっては居るっぽいけど、年頃の女の子としては、あまりぱくぱくと食べるのが少し恥ずかしいらしい。
まあ、食べたお肉はほとんどがが戦闘時のカロリーとして消費され、それでも余った栄養は、お腹には付かずにある一部分に片寄るようで影で同年代の女の子から羨望の眼差しを向けられていたのを知らないのは本人だけだったという、他愛のない話も有ったりする。
現状はどうでもいい話だけど。
「とりあえず、ダンジョンに潜る準備はできたから、食べ終わったら早速潜ってみようか」
「はい、でもイオリ様、もう少しで食べ終わるのでお待ちくださいね」
俺もワクワクしているが、フィーネも同じくワクワクしているようで、少し多めだったステーキを猛烈な勢いで、それでも上品に見えるのは、さすが王女様、と言った所だろうけど、あっという間に食べ終わり、早く早くと、もし尻尾があれば、もうそれは振り切れんぐらいに振られていたであろう状態だ。
「よし、じゃあ行くか」
「はい!」
食堂を後にした俺達は、組合から出た後、ダンジョンへの転送ポータルがある建物に向かう。
まあ、建物と言っても昨日俺たちが転送されてきた魔法陣がある建物が、どうやらその建物だったらしいので、まあ、昨日の今日で場所が分からなくなるといった事もなく、そもそも組合の前の大通りの先にあるので迷うことも、しばらくすると無事にダンジョンの入口へとたどり着いた。
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