第二十三話 イオリと宿泊施設
「ここが話にあった宿泊施設、『探索者組合経営簡易宿泊施設』のようですね」
「まあ、組合のすぐ隣って話だったから探す必要もなくていいけどね。組合の建物と比べても、少しだけ大きいぐらいだな。そんなに大勢の人が泊まれるような感じじゃないけど、何人ぐらい宿泊が可能なんだろう?」
どうなんでしょう、フィーネと喋りながら宿泊施設の入口から中に入る。
建物の中は外と同じく壁も床も木造となっていて、もしかしたら狙ってそう言う造りにしているのかもしれないけど、なんだか心が落ち着く感じがする。
入口から入ってすぐはロビーとなっており、そこにはふっかふかのソファーが置いてあり、数人が座って何やら楽しそうに雑談をしているようだ。
ロビーの左側には受付カウンターがあり、その受付カウンターには数人が並んで宿泊の処理などをしているのだろうと思う。
それから、ロビーから4人は並んで通れないが3人ぐらいならギリギリ通れそうな、通路への入り口が3箇所あった。
「すいません」
「はい、はじめてのご利用でしょうか? 共同シャワーは一番奥の入り口から地下31階にどうぞ。そちらのカウンターで手続きをするとシャワーのみをご利用いただけます。宿泊でしたら手続きをしますので組合カードをそちらの端末に翳してください」
受付カウンターの列に並ぶとそれほど時間がかからず順番が来た。
意外と列が履けるのが早かったけどなんでだろう、と首をひねりながら挨拶をするけど、そんなに時間がかからなかった理由は簡単だった。
組合カードを使って名前の確認やら料金の支払いなどを行うために手書きで書くよりもすぐに手続きが終わった、という事みたいだ。
「お二人共、保護期間中なので後20日はご宿泊可能ですが、返済を行っていない場合はそれ以降の宿泊が拒否されるためご注意ください。何日間宿泊しますか?」
「えーと、とりあず、2人とも20日でお願いします」
要するに、つまみ出される前に早く借金を返済しくださいね、ということなんだろう、あくまでこれは慈善事業ではなく将来への投資、ということなのだろう。
「とりあえず、20日ですね、了解いたしました。では詳しい利用規約はこの冊子に書かれているので必ずご確認ください。当宿泊施設の館内を簡単にご説明をいたします。まずは……」
館内についてまとめると、
・1階は、ロビー、および受付カウンター
・2階から5階、および地下1階から地下30階までが宿泊施設
・地下31階は共同シャワー受付、および男性用共同シャワー
・地下32階は女性用共同シャワー、ここはエレベーターが止まらないそうだ
・地下33階は雌雄同体用共同シャワー、ここも同じくエレベーターが止まらないそうだ
と、このような感じになっているようだ。
2階から5階部分は、宿泊施設は宿泊施設だけど、一定のランクの探索者のみが泊まれる、言って見ればVIP向けの部屋だそうだ。
表から見た感じだと、地上階しか見えていないから、そこまで大きな施設とは思わなかったけど、地下30階まで部屋がある宿泊施設ってのはすごいな、一体何人が泊まれるのだろうか。
「はい、お手続きが完了しました。では、お部屋は地下15階のB15ー7とB15-8です。エレベータに端末があるのでそれぞれ一人づつ翳すことでその階へと移動できます。何か他にご質問等ございますでしょうか」
「そういえば、2人部屋とか大部屋とかあるんですか?」
「いいえ、ございません。この宿泊施設では全て一人部屋のみの提供となっとります。備品などの規格を統一して新人探索者でも気軽に宿泊できるよう格安の料金体系となっております」
これだけ大きいんだから、大部屋とかありそうだったけど無いんだな、この世界の宿はここしか知らなけど、それでも変わっている気がする。
まあ、とりあえずは、明日に備えて部屋に行ってさっさと寝ようか。
「そうなんですね。わかりました」
「はい、では当宿泊施設をご利用いただきありがとうございます。どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ」
そう言って丁寧に挨拶をしてくる受付のお姉さん、ナルアさんと言うそうだ。
「フィーネ、とりあえず今日はもうやること無いから明日に備えて寝ようか」
「はい、明日の初ダンジョン探索に備えて寝ましょう。ちょっとワクワクしているのでちゃんと寝れるのか心配ですけど……」
まあ、どきどきワクワクは俺もしているのでちゃんと眠れるか心配というところは同意するしかない。
明日初めて潜るダンジョンについて雑談しながら、部屋へと移動をするためにエレベータホールに進んでいく。
エレベータホールには垂れ気味の犬耳お姉さんが先客として待って居たが、どうやら地下ではなく地上階へ行くようで特に会話もなく上りのエレベータに乗って行った。
しばらくすると下りのエレベータが来たのでフィーネとともに乗るが、フィーネの方は初めて乗るエレベータが珍しいのかキョロキョロしている。
まあ、俺自身はすでに何回も乗ったことがあるのでそれほど珍しいとは思えなかったが、それでも見知ったエレベータと違い、箱と言うよりはコップのような感じで天井部分がなく床部分と側面部分が動く感じだけど、床が丸くなっていることについてはちょっと珍しいな、と思いながらエレベータに乗った。
受付のお姉さんの説明の通りに、エレベータの扉は、部屋かその他のシャワー室などの行く先を選択し、組合カードを端末に翳すまで開いたままで、翳し終わるとエレベータの扉が締まり地下へと移動を始める。
エレベータ内は床が円形となっており、扉の反対側には中庭か何か、開けた場所が見えるように窓となっている。
中庭といっても地面の部分は全く見えず、地下の、それもかなり深い所、たしか地下33階まであったはずだから、その辺りから生えているだろう巨大な木がどんっ、と中央に存在感を放ちつつ聳え立っていた。
少なくともエレベータ内から見える範囲では幹から枝がほとんど生えておらず、遥か上の方に枝葉が見えており、上空の吹き抜け部分を覆っている。
あの生えている木、もはや巨大樹といったほうが良いかもしれないけど一体何メートルあるんだろう?
どうやら巨大な木を囲むように、おそらく部屋に付いている窓だろうものが無数に見えているが、光を鈍く反射し、まるで鏡のようなものが本来窓があると思われる部分の代わりにはめ込まれている。
フィーネはというと、いろんなものが珍しいのか未だにエレベータの窓部分から上を見て下を見てと、キョロキョロとせわしなく中庭の方を見ている。
と、そうこうするうちに、チンっと高い音で目的の階に着いたことを知らせつつ、窓部分が暗くなる。
まるでさっさとエレベータから降りるように急かされているようだったが、まあ、あながち間違っては居ないだろう。
窓に齧り付いていたフィーネは窓の外が暗くなった瞬間にびくっとした後、ぷーっと頬を膨らませつつこちらに振り向いた時点でずっと見られていたことに気が付き顔が赤くなったが、それを誤魔化すようにエレベータからさっさと降りていった。
「うー、絶対子供っぽいって思われましたー。恥ずかしーです」
なにか、ぼそぼそと小声で話しているのでよく聞こえなかったがまあなんとなく内容は想像がつく気がする。
「とりあえず、部屋に行こうか。部屋の番号は連番みたいだからすぐ隣とかじゃないかな」
「そうですね。では部屋までご一緒ですね、イオリ様」
うん、はにかむように微笑んでるフィーネ、何とも愛らしい。
肝心の部屋は、残念ながら予想とはハズレて隣ではなく右斜め前だった。
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