第二十話 イオリと魔道具の試作品
ほれほれ、早く早く、と何故か、期待の眼差しで見つめるライアさん。
仕方なしに組合カードを取り出し、その謎の期待に応えるべくテーブルの上のカードにそっと載せると、空中に確認の画面が出てきたので、値段を確認し承認する。
「なるほど、カード同士でもお金をやり取りできるのですね」
「組合では特に説明されなかったけど組合カード同士での個人間での送金ができるのは便利だな」
「なんじゃ、面白くない。カード同士では普通はお金のやり取りができんと言うに、もっと驚かんかい」
なんか、期待していた反応と違い、俺たちの驚きが少なかったことで、子供みたいにちょっと拗ねはじめたので、フィーネが必死に宥めている。
まあ、俺たちは今日この世界に来たばかりだから常識を求められても……、とは口が裂けても言えないけど。
とりあえず、ライアさんの謎の期待の訳がわかった訳で……。
ということはこの黒いカードというか、これは組合のカードが黒いケースに刺さっているってことだな、どれどれっと。
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名称:3業種対応超小型個人間送金用魔道具試作
通称:(不明)
状態:稼働中
耐久度:98/100
希少性:ユニーク・レア
魔力消費:起動時消費8、継続消費なし
概要:3業種の組合カードに対応したカードケース型の個人送金決済端末
詳細:
探索者組合、商業組合、鍛冶組合の3業種の組合カードに対応する超小型決済端末。
3業種のどれかのカードをカードケースの形をした魔道具自体に入れることで、同じく3業種のどれかのカードと予め設定した金額を決済することができる。
決済中に耐久度がなくなった場合には決済中の金額が全損する場合があり改修が必要となっているため利用には注意が必要。
ライアが開発中の小型決済端末の試作であり、現状はこれ自体のみしか存在していない。
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ふむふむ、決済中の金額が全損とは、穏やかじゃないけど、この辺りが試作となっていることの理由なのだろうか?
「ふん! まあ、よいわ。これはまだ試作品じゃが、特別にこれもさっきの魔道具の料金に含めておこうかのう。しばらく使ってみて使い心地を教えてくれれば良いのじゃ。ただ、大っぴらには使ってくれるなよ」
「まあ、ちゃんと支払いができたのは確認できたので、貰えるというなら貰っておきますが、ひとつだけ確認したいんだけど? ほとんど完成品みたいだけど、なんでまだ試作品止まりなんだ?」
『鑑定』した結果は見た通りだけど、念のため他にも理由があるのなら知っておこうと思い聞いてみると、なんか顔を逸らしたぞ。
「うーむ、実はじゃな。支払い時にちょうどよくじゃな。耐久度がなくなると支払いの金額がまるまる、どちらのカードからも綺麗さっぱり消えてしまうことがあるのじゃ。それがのう、どうしても何ともならないので未だに試作止まりで困っておるのじゃ」
「えっと、その、他には試作で止まっている理由は無いのですか?」
「今のところ、その支払い時の問題だけじゃな。借金の一部はそれが原因じゃ。まさか今までの蓄えを消費しても何ともならないとはのう」
ふむふむ、なるほど、正に自腹を切って確認していたので借金が増えたということか。
しかし、支払い時に壊れないように、か。
んん? 別に壊れそうなときにも何とかして動くようにする必要はないんじゃないか?
「えっと、素人の考えだけど、魔道具が自身の耐久度を把握ですることは出来るのか?」
「ふむ、なるほど。たしかに『剣型魔道具』は、たまにそれ自身に耐久度を表示する機能を付けたものもあるからのう。可能といえば、可能じゃがそれがどうしたのじゃ?」
「だったら、耐久度がほとんどない、つまりもうすぐ壊れそうってなったらそもそも、使えなくするとかできないかな?」
「ふむ? 耐久度がなくなりそうに、なったら……、なるほど! それは盲点じゃった。たしかにそれならば大丈夫そうなのじゃ」
んー、これは悩みすぎて思考が凝り固まってしまった、ということなんだろうな。
相談できそうな人が周りにいればそんな事はなかったかもしれないが、物が物だけになかなかできなかったに違いないし、そもそもこの世界に、壊れそうなら壊してしまえ、みたいな考えをする人は居ないのかもしれない。
「それでじゃ、その魔道具はどうする? さっき言った問題以外はないので、それに気をつければそのまま使っていても構ないのじゃ。まあ、完成した物ができたら完成品と交換するので持って来ると良いのじゃ」
「わかりました。では、これはそのまま使ってみようかと思います」
何とも気前がいいことで、まあ、試作品のテスターかモニターってところだろうな。
まあ、いろんな魔道具を見ることはできなかったが、普段見ることができない魔道具の制作過程を見学できたり、格安で飲料水生成の魔道具を購入することもできたし、魔道具の試作品のオマケも貰えたので、この店に来てよかったと思える充実した時間だった。
いつの間にか良い時間になっていて、気がついたら結構な時間を過ごしてしまっていたので、ライアさんに断り店を出ようとした所、一つ依頼というかお願いをされた。
「そうじゃ、そうじゃ。ついでと言ってはなんじゃがの、この街のダンジョンである素材を取ってきて欲しいのじゃ。借金のほとんどはこれなんじゃが、探索者組合に依頼をしてあるので、可能ならそっち経由で依頼を受けて欲しいのじゃ」
「依頼……ですか? その、素材というのは、どのような物なのでしょうか?」
「ああ、ドラゴンじゃ。ダンジョンの深層に生息しておるドラゴンを狩って欲しいのじゃ」
たしかに、この街のダンジョンの深層にはドラゴン種が居るらしいが、まだ、俺達は探索者に登録したてなんだけどなぁ。
しかし、ドラゴンの素材が必要とは、何を作ろうとしているのだろうな、まあ、聞いても教えてくれない気がするが、もしかして、借金のもう半分はこれなんじゃないだろうか。
「ドラゴンって……。えっと、私達、今日探索者として登録したばかりなのですが、ドラゴンを狩れなどというのは流石に無茶だと思いますよ?」
「ほう、新参者探索者とはのう。強者の香りがしたので、てっきり流れの探索者かと思ったのじゃが。まあ、そのうち狩ってきてくれれば良いのじゃ。急いではおらんし、見込みがありそうなものには声をかけているので、お前たちだけが頼りじゃ、という訳でもないしの。具体的な依頼の対象はじゃな、漆黒竜の鱗と爪、そして獄炎竜の角じゃ。どちらも、大量にあればあるほど良いので、狩れるようになったらどんどん狩ってほしいのじゃ」
強者の香りってなんなんだろう、そんな匂いとかがあるんだろうか?
まあ、しかしそれだけドラゴンの素材が必要であれば借金を作るのも仕方ないような気がするが、本当に何を作るのだろうな。
しかし、二種のドラゴンの討伐、というかもはや採取というような気もする依頼だがそんなにポンポンとはドラゴンなんて狩れないと思うのだが。
しかもたしか、その二種のドラゴンは上位種じゃなかったかな、それをあるだけ欲しいとは。
「はぁ。とりあえずわかりました。実際に俺たちが狩るにしてもドラゴンの生息域は深層なのでしばらく先になりますよ?」
「ふむ、狩れないとは言わないのじゃな。まあ良いのじゃ、そのうち狩ってくれれば問題ないのじゃ」
そう言ってニヤリと笑うライアさんはとても楽しそうに見えた。
まあ、狩れるかどうかで言えば、ほぼ確実に狩れると俺は見ているんだけど、どうかな。
しかし、油断したわけではないけど、ちょくちょくとトラップを仕掛けるのはどうなんだろうな、まあ本人も楽しそうだし、気にしないでおこう。
「ありがとうございます。それでは失礼しますね」
「ではまたの。必ず、また来るのじゃぞ!」
手をぶんぶんと音がなるぐらいに振りながら店の前まで見送りに来てくれたライアさんに軽く手を振るフィーネを横に見つつ、店を後にした。
店を出ると、辺り一帯が茜色に染まっていて、どうやら何時の間にか、結構な時間が経っていたらしい。
結局のところ、他の店を知らないため夕食も組合の食堂で食べることにした俺たちは、組合のある方向に向けて歩いていく。
組合に近づくにつれ、人が多くなってきたことに気がついたけど、どうやらダンジョンへ潜っていた探索者達もちょうど、夕食を食べに戻ってくる時間帯だったらしい。
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