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異世界のイオリと伊織  作者: 猿丸駿
第一章
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第百七話 フィーネと仲間達

お待たせいたしました。

今回は前回の直前、フィーネ視点です。

 私は、エオリティア王国の第二王女フィーネ・エオライトです。

 他には、おてんば姫とかじゃじゃ馬姫とか、特攻王女、あとは…… 猪王女などとも影で呼ばれていたようです。

 本当に猪なんて失礼です…… あ、でも猪の子供は可愛いので許します。

 まあ、それも昔の話で今は元王女というのが正解です。

 もう世界が違うため、母国であったエオリティア王国での肩書も意味をなさないでしょう。


「行ってしまいました…… 心配です」


 さて、私たちは、色々あってここロブアグリードダンジョン、その九十五層の次の階層と予想される場所に来ています。

 正しくは、連れてこられた、と言うところでしょうか?

 このダンジョンで幾度か経験している階層間の転移とは違うような気がします。

 私自身はイオリ様とは違い『直感』のスキルは保有していないはずなのですが、スキルを保有するには足りない程度の感、だと思います。

 まあ、それはともかくとして、愛しい(・・・)イオリ様が目の前の部屋に入ってしまい、しばらく戻ってこないのです。


「イオリさん? 中はどのような状況でしょうか?」

「フィーネは落ち着いたらどうなんだ? まあ、今のところはまだ交渉中らしいな」


 中に入りたいのですが、それはイオリ様から止められています。

 イオリ様は『直感』という、良きにつけ悪しきにつけ何かしらの虫の知らせがあるスキルをお持ちです。

 言葉にはされていないのですが、何かしらの感が働いたのでしょうか?


「おっ? どうやら交渉決裂らしいぜ。戦闘が始まったぜ」

「結局の所、お話していた相手は何者なのでしょうか?」

「うーん、本人? 曰くダンジョンマスターらしいぜ。ってことはここは人為的に作られたダンジョンなのか? それとも……」


 目の前に居る私よりも背の低い方も、イオリ様と同じくイオリと言うお名前の女性です。

 お胸のほうが、そのちょっと…… 慎ましいので、一見すると少年のように見えてしまいます。

 髪も動き難いから、などという理由で短く切り揃えているようで、それもまた少年のように見えてしまう一因だと思います。

 もっと髪を伸ばし、服も大人しめで清楚な感じの服にすれば、お人形さんのように可愛らしいと思うのですが…… 本人は嫌がりそうですね。


「いやー、あいつもスゲーけど、相手のジュダオンとか言う奴もなかなかやるな!」

「直接中が伺えないのは困りものです。イオリさんのように繋がりたいです」

「……なんか、ちょっとえっちぃな」

「まあまあ。で、状況はどんな感じでしょう」


 イオリさんを宥めているこの方は、ソータさんと言い、私たちと同じくこの世界とは違う世界から来たようです。

 私達が同じような状況だったのと、イオリ様という異世界の方が居たので信じられましたが、そうでなければ妄言を吐く頭のおかしい人達扱いだったかもしれません。


「どうやら、ジュダオンはこのダンジョンと繋がっていてほぼ無限に魔法が使えるらしいぜ。ずっりーよな」

「イオリ様、大丈夫なのでしょうか? 今からでもお手伝いをしたほうが……」


 他には、リーンさんとソフィーさんがこのパーティーには居ます。

 リーンさんとの出会いは、ダンジョン内で敵として出会うという、普通ならそのまま討伐されるか全滅するかという場面でしたが、イオリ様のお陰で今の関係に落ち着きます。

 ただ、助けられたその場で色目を使ってくるとは……

 体の起伏もなく、幼児体型と言っても言い過ぎではないその肢体でイオリ様にしだれかかろうとするなど言語道断ですね。

 イオリ様が、えっとろりこん(・・・・)と言っていましたでしょうか、それでないことは幸いでした。

 信じていますよ、イオリ様。

 ともかく、私としては要注意人物の最上位です。

 その場でせっか…… いえ、OHANASHIしたのですが、それでも虎視眈々と狙っているふしがあります。

 まったく、油断も隙もないです。

 そしてソフィーさんとの出会いも良くないものでしたが、それも理由あってのものでした。

 まあ出会いはともかくとして、あのモフモフでピクピクと動くお耳とか抱きしめるとスッポリと収まる抱き心地などは、良いものです。

 ええ、実は私、可愛いものが大好きなのです。


「あっ!」

「えっ? ど、どうなったのですか? イオリさん!」

「まずいぜ、うちらも……」

「いえ、ここは撤退した方が良いかもしれません。イオリ君が逃げもせず応戦しているということは、最悪の場合として一度中に入ったら相手を倒すまで出られない可能性もあります」


 珍しくイオリさんが焦っています。

 普段は天真爛漫で傲慢不遜、呼吸をするように魔物を倒して、物足りないといった顔をするイオリさんが、です。

 ど、どうしましょう。

 助けに入ったほうが良いのではないでしょうか?

 思わず、部屋にフラフラと歩いていこうとしたところで、前を塞がれました。


「えっ?」

「ダメ。行ってはダメ」

「なのじゃ。イオリ兄様が苦戦するような輩、妾達が行っても勝てない可能性が高いのじゃ。全滅するより、情報を持ち帰るのが重要なのじゃ」


 それは……

 と、少し迷っていたのが運命の分かれ目だったようです。


「わっ!」

「これはっ!?」


 イオリさんやソータさんの驚きの声に気がつくのと同じくして、足元から現れた魔法陣に気が付きます。


「こ、これは、イオリ様の? て、転移魔法です! ど、どういうことですか、イオリ様! イオリ様!」

「ま、まずいのじゃ、リーン! フィーネ姐様を抑えるのじゃ。ここは行かせてはならんのじゃ」

「わかった!」

「は、離してください、二人共! 私は行かないと、行かないと…… ああ、イオリ様。そ、そんな……」


 気がつくと、あたりの風景が変わっていました。

 あれは、たしか転移の魔法のうち、イオリ様が一人で使える最大の転移魔法『長々距離転移』だったはず。

 せっかくこの世界までイオリ様を追いかけてきて、け、結婚生活を夢見てここまで来たのに……

 あの転移魔法を使ったということは、現状は私達で相手をするには力不足ということでしょう。

 スキを見て転移で逃げ出せている、と言う可能性もなくはないですが、イオリ様は引き際を間違うことは滅多にありません。

 ほぼ間違いなく、入ったら最後、転移系魔法が封じられた脱出不可能な部屋なのでしょう。

 そうであれば、イオリ様はもう……


「な、なあ、フィーネの事どうしようか?」

「と、とりあえずしばらくそっとしておきましょう。しかし、ここでイオリ君が抜けたのは――」

「とりあえず思考共有で記録はしてあるから――」


 イオリさんやソータさんが何やら話していますが、イオリ様のことで頭が働いていなかった私はその会話の内容を理解できる状態ではなかったようです。

 気がつくと私は膝を折り顔を天に向けながらさめざめとしばらく涙を流していたようです。


「――ネ。フィーネ。しっかりしろ! フィーネ!」


 名前を呼ばれたような気がして辺りを見回すと、オロオロとしながら忙しなく動いているリーンさんとソフィーさんが目に入り、次に私を見つめるイオリさんとソータさんが目に入ります。

 リーンさんたちの慌て様を考慮すると、イオリ様が居なくなったショックで長いこと呆然としていたようですね。

 ダンジョンの探索中だと言うのに不甲斐ないです。


「とりあえずは戻ってきたな…… じゃあ、改めて…… ん? 何だこれ?」

「えっ?」


 イオリ様の敵を打つために、自身の揺れる感情に蓋をしてジュダオンなどという輩に復讐をこの身に誓っていた所で、イオリさんが発する驚きの声が耳に入ります。

 一体どうしたというのでしょうか?


「えっと、イオリさん?」

「ああ、えっと、ちょっと待ってな。えっと何々? 『このアイコンに触れると肉体の接続が切れた自身の同位体を復元します』だぁ? ってどういうことなんだ?」


 イオリさんが読み上げた内容の理解ができるとともに、冷え切った自身の心に再び火が灯ったような錯覚を覚えます。

 思わずイオリさんに縋り付き、ガクガクと体を揺らしてしまいました。


「わっ! まてまて。フィーネ待て、だ。えっと、これ、かな? ポチッとな! ん? 『なお、復元処理は肉体のみ(・・・・)の復元を行います』ぅ!?」

「えっ?」

「わっ!」


 何やら、ふくげんしょり? とやらを始めた様子のイオリさんは、続きの内容を読み進めるもその内容に驚き思わず声が裏返っています。

 えっと、肉体のみの復元、という事は……

 と、状況への理解が追いつく前に、何やら心の臓らしきものが目の前に現れました。


「うわっ! グロっ!」

「ん? これは何?」

「これはじゃな、たしか心臓という臓器だったはずじゃ」


 そして、心の臓が脈打った次の瞬間に血管や骨格などが形作られていきます。

 ああ、これはイオリ様です、そうに違いありません。

 そうして、目の前の出来事を呆然としながら見ていると、ほどなく皮膚や髪の毛まで作り終えたようでした。

 私はそれを確認した瞬間に思わず駆け寄り、そして顔がぐちゃぐちゃになるのも構わずに、わんわんと抱きつきながら泣き出したのです。


「フィーネは大胆なのじゃ」

「えっ?」


 抱きつき幼子のように泣き始めてすぐに、リーンさんが発した言葉が何故か耳に残ります。

 えっと、大胆?


「っ!!」


 リーンの言葉により、先程イオリさんが話していた内容に理解が及び、結果として自身の顔が火照るのを自覚します。

 と、力なく私に垂れかかっていたイオリ様の体が震えます。


「い、イオリ様、気が付かれたのですか!! お体は――」


 ――どんっ!

 

 突如として体に衝撃が走り、思わず尻餅をついてしまいました。

 なぜイオリ様から突き飛ばされたのか突然の出来事に混乱する中、そっとイオリ様の様子を伺うと……

 膝を地面につけて項垂れながら、まるで胃の中のものを吐き出そうとしているような様子のイオリ様が目の前に居られたのです。


「えっと? イオリ様?」

「ん? ああ、フィーネか。何か気持ち悪くて吐きそうだったから、思わず、な。突き飛ばして悪かった。あぁ〜、吐きそうなんだけど、何も出てこないのは辛いな。って! 何で全裸なんだ?」

「ほうほう、なかなかの身体つきをしてますなぁ。げっへっへー」

「わっ! い、イオリさん! 破廉恥です、見てはいけません」

「そ、そうですよ。イオリさん、見るなら僕の…… いえ、なんでもないです」

「じー」

「うむ、良い身体つきじゃの! 妾の伴侶に……」


 イオリ様の体をまるで舐めるように見ているイオリ様に気が付き、慌てて壁になるようにイオリ様との間に移動します。

 後ろでは、ゴソゴソと衣擦れの音がしているので、イオリ様は慌てて『倉庫』から服を取り出して着ているようですね。

 あ、リーンさんは再度のOHANASHIが必要です!

 と、まあそれはともかく、今は……


「お帰りなさいませ、イオリ様。お慕い申しております」

「ああ、ただいま、フィーネ。俺も愛しているよ」


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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