第十話 イオリとこの世界について
前話に引き続き説明回でほんの少しだけ多めとなっています。
「まあ、ダンジョンについては大まかには分かったから、次はそれ以外の一般常識かな?」
「一般常識と言うと……通貨とか暦などでしょうか?」
「そうそう。あとは度量衡などの単位かな。魔物の大きさとかも単位を知らないと分からないしね」
「度量衡……ですか? 以前に聞いたような気がしますが」
「えっと度量衡って言うのは、要するに物の長さや体積、質量のことだよ」
「なるほど」
さてまずは俺達の生命線であるお金の単位について調べようと端末を見ると、俺達の会話を聞いていて気を利かせてくれたのか、既にトリアが調べてくれていたようだ。
全く優秀すぎる娘だ、端末のキャラにしておくには勿体無いな。
「えっとトリアが調べてくれた内容によると、お金の単位は『セタ』と『セロタ』の二種類で、『セタ』の百分の一が『セロタ』ってなっているみたいだね。単位が二種類あるみたいだけど、ほとんどが『セタ』で表記されているみたいだ。こういうところは曖昧と言うかザックリとしてる気がするな。ああ、そういえばケーネさんが一食は8セタ前後で食べられるとか言ってたっけ」
「『セタ』での表記ということは細かい単位は切り上げや切り捨てってことなんでしょうか?」
「いや、多分だけど、8.5セタとかそんな感じじゃないかな? お店での支払いは紙幣だけでなく硬貨も使われていないみたいだ」
「えっと、そうすると、物々交換と言うことなのでしょうか?」
「次のページに続きの内容があるみたいだ。えっと、どうやら支払いはさっきもらった探索者組合のカードを使って出来るみたいだ。カードを持っていない人たちは物々交換をしてるみたいだけど、この探索者組合以外にも商人の集まりや鍛冶屋の集まりなどいろんな組合があるみたいで、そこのカードも探索者組合のカードと同じ機能があるみたいだな」
「そういえば、その辺りはケーネさんからも話がなかった気がします。一般常識だからかもしれませんね」
「かもな」
そういえば『探索者の手引き』なる組合規則の詳細などが書かれた冊子をケーネさんから貰ったなと思い出し、パラパラと捲りよんでみると、組合カードの機能について書かれていた。
「フィーネ。どうやら『探索者の手引き』の中に組合カードの機能についても書かれていたみたいだ。さっきの支払い機能についても書かれてたよ」
「そうなんですね。あとで、その『探索者の手引き』も目を通さないとだめですね」
「そうだな」
とりあえず『探索者の手引き』に目を通すのは後にして、ほかにも色々調べていこう。
フィーネは、俺が『探索者の手引き』を見ている最中にいろいろとトリアに調べてもらっていたみたいだ。
「暦は一年が十一ヶ月で、一ヶ月は三十二日の小の月と三十三日の大の月の二種類が交互で、一年の最初の年は必ず小の月みたいです。見知った暦ではないのが不思議な感じです」
「へー、月には名前がついてるんだ。えっと、風の月、火の月、土の月、水の月、光の月、闇の月、雷の月、炎の月、金の月、氷の月、聖の月、か。魔法の属性に因んだ名前になっているのかな?」
月の呼び方は、一月や二月と呼ぶのではなく風の月や火の月とこちらでは呼ぶようで、例えば水の月の18日とか、そんな感じに表すみたいだ。
日本で弥生月や神無月って言ったりするような感じなんだろう。
「えっと、一日の中では、日の入りから日の出までを半日として、それぞれ十二等分して数えるみたいです」
「なんかそういう時間の数え方に名前がついていた気がする。うーん……? あっ、そうそう、不定時法って言ったはずだ。たしか」
「不定時法ですか? ということは何か不変的な尺度を基準にした一定時間を一単位としたものが定時法でしょうか?」
「うん、たしかそんな感じだったと思う」
「では、イオリ様や私の生まれた世界は定時法で時間が示されていたんですね」
「うん、そうだよ。それで二十四等分よりもっと細かな時間を表す単位はないの?」
「一日の二十四分の一が一刻で、そのさらに半分を半刻と呼ぶようですね」
「そうなんだ。なんか分とか秒とかに慣れているし、フィーネの世界でも同じような感じだったから、細かな時間がないとちょっと不安になるな。まあ、慣れるしかないか」
「そこは、まあしょうがないですね」
半刻よりも細かな時間の表現がないってことは、例えば待ち合わせも、太陽が真上に上がったときに、とか結構ゆるい感じになるのだろうな、きっと。
そういえば、日の出から日没までを半日とするってことだけど、日本みたいに季節によって昼間の長さが変わったりするんだろうか?
「えっと、なになに? 『半日の長さは一年を通してほとんど変わらず、過去の調査によると最大でも半刻程度の違いだった』か。へーじゃあ、昼間の長さはほとんど変わらないってことなんだな」
「なるほど。そうなんですね」
続き続き、と次のページをトリアに表示してもらい読み進める。
「あっ! イオリ様、どうやら時計があるみたいです」
「へー。時計って結構複雑な仕組みだった気がするけど……。なるほど、ここの時計は街にある親時計から今の時刻を受け取り表示する仕組みなんだ。ダンジョン用の時計もあるみたいだけど高価って書いてあるな」
「ダンジョン用の時計は二種類あるみたいですよ? 一つは特定のダンジョンから採れる素材を使い、ダンジョン内でも親時計からの時刻を受け取り時刻を表示できる機能を持たせた時計のようです」
「なになに、もう片方は親時計のように単体で動くように小型化した物みたいだけど、小型化ってそんなに簡単にできるものなのかな?」
「どうやら、ほとんど一点物のようで値段もかなり高価みたいです」
この世界にも時計も仕組みは違うけどあるんだな。
購入できる余裕ができたら買って詳しい仕組みとか調べてみたいな。
「うーん、あとは、ここは四季みたいにはっきりとしたものは無いみたいだな。雨季があるとか雪が降るとかもないみたいだ」
「私の生まれた国では雨季はありましたが、イオリ様の言う雪は、もっと山の方に行かないと」
「まあ、日本は俺の生まれた世界でも珍しい方だったからね」
そういえば、外国では四季がなかったりするから、四季を目当てに観光に来る外国人もいるって何処かで聞いた気がするな。
あと調べていないのは度量衡の単位かな?
「長さの単位は『フィト』って言うのか。おおよそ1フィトが肘から手を握った状態での先ぐらいみたいだから、3フィトは、1メートルぐらいかな? 正確には違うみたいだけど」
「1メートルはたしかイオリ様が生まれた世界の長さの単位でしたね。世界中で同じ単位が使われていると聞いたときはビックリしました」
「まあ、統一されるようになったのは海を渡って貿易をするようになってからみたいだし、今だに別の単位を主に使っている国もあったりしてたと思うよ」
「たしかに、国によって単位が違うと困りますね」
「更に長い単位は『フィト』の千倍の『トーフィ』ってのがあるみたいだ」
重さはどうなんだろうか?
「えっと、重さは……どうやら、麦の実が五千粒分を基準としているみたいだ。五千粒分を基準って、いったいどうやって五千粒分も数えるんだろう?」
「イオリ様、流石に一粒一粒数えたりはしないと思いますよ?」
「まあ、そうだよな。ああ、どうやら今の定義は違うみたいだ。一辺が1フィトのさらに半分の長さに揃えたアマンダイトの立方体の重さを基準にしているみたい」
「それは、たしかにそれは想像しやすいですね」
おっと、そういえば、いま俺たちがいる街の地理的な位置がどうなっているか確認していないな。
基本的なことを、いや基本的なことだからこそかもしれないけど忘れてた。
「そういえば、ここはどの国のどの辺りにあるんだろうか?」
「あれ? イオリ様、特に国に属してはいないようですよ。そもそも国という枠組みがないみたいですね」
「えっ!? 今なんて?」
「えっと、どうやら国が一つもないみたいです」
「そう……なんだ」
どうやら、驚いたことに、この地域、いや、そもそもこの大陸では国がないようだ。
昔は王国やら帝国やら聖王国やら大小様々な国があったようだけど、度重なる魔物の氾濫と侵攻を受け国を維持できなくなったようで、数百年前に最後の国が崩壊してからは存在していないらしい。
数十年前にやっとまともな探索者組合が出来て、人と人との繋がりが戻ってきたところのようだ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
感想、評価、ブックマークを頂けると励みになります。




