第一話 イオリと異世界
「イオリ様っ! 行かないでください!」
十三歳で異世界に召喚され、魔王を倒すために四年をかけて修行しつつ、世界を少しづつ巡り魔王軍を撃破。
そして、最後の最後に魔王を倒す寸前まで行ったのだけど……。
どうやら、最後の足掻きとして魔王は倒される寸前に俺を元の世界へと送還しようとした……らしい。
しかし、魔王が空間魔法の、それもかなり高度な送還魔法を使えるなんて話は噂すら聞いたことがなかったんだけれど……もしかして、今まで魔王城へ行ったきりで行方不明扱いだった勇者達は、魔王によってあえなく送還されていたので戻って来なかったのだろうか?
ともかく、送還魔法が起動している最中に魔王が倒れ込むのが見えたので、とりあえず一応は勇者としての責務は果たせたと思いたい。
って、現実逃避をしている場合じゃない!
「ちょっとフィーネ! いきなり何抱きついてるの――!? って、そうじゃなくて……」
しかし、まさかフィーネが送還魔法に飛び込んでくるとは……。
実のところ日本に帰っても友人知人のたぐいは家庭環境が原因でほとんどいない。
そもそもの家庭環境についても両親はすでに事故で亡くなっており、その結果として叔父と叔母のところへ引き取られたけれど、叔父叔母の子供達とは折り合いが悪く、居心地が悪かったので早く独立したいなぁ……とは思っていた。
まあ、学校へは普通に通えていたので、そこについては感謝していたけど。
要するには送還魔法で元の世界へと戻されてもありがた迷惑な訳ですが……。
なんたって元の世界では心躍る冒険なんかもできないしね。
と、送還魔法の完了間際にフィーネが魔法陣へと飛び込んできた事はまだ良くはないけどいいとして、さらにぎゅっと抱きつかれて混乱しているところ……。
送還魔法により、辺りが眩いばかりに煌いていたはずが、いつの間になくなっていることに気が付く。
えっと、たしか、召喚魔法や送還魔法が起動している最中には辺り一面、正確には魔法陣の周りが光り輝き、その眩しさによって見えなくなり、成功するにしろ失敗するにしろ、最後には光が消えるはず……だったっけ。
ということは、俺が生まれた世界へ戻ってきたのかなっと、辺りを見回すが……
あれ?
なんとなく……そう、なんとなくだけど、空気感が地球と違う気がして更に混乱に拍車がかかる。
「え? ここはどこだ?」
「ふぇ? イオリ様、着いたのですか?」
混乱の極みの中、冷静に冷静に、と心を落ち着けつつ辺りを確認すると、どうやらここは……少し薄暗いが建物の中のようだ。
今までは中世ヨーロッパ風の建物が立ち並ぶ世界に居たのだけど、それとはもちろん違い、また見知った日本の建物とも違うようで、あえて例えるなら西部劇風といったところ、なのだけれど……。
室内の所々に近未来風の機器が並んでいるために、その雰囲気がぶちこわされている。
辺りが少し騒がしいのが気になるが、ふと眼下が少し明るい事に気が付き、床に目を向けるとそこには幾何学的な模様が描かれ光っていた。
元の世界ではなさそうな所から送還魔法が失敗したと考えるのが良さそうだけど……それにしても、これは一体どういう状態だろうか?
つい先日、魔王討伐の出発間際に先見の巫女がこっそりと、魔王討伐後に新たなる出会いと終の伴侶が得られるであろう、とニヤニヤしながら教えてくれたけど、それに関連するのだろうか?
なにかあるのだろうとは思ってけど……うん、この展開は予想外だな。
しかし、まさか最後の最後に送還魔法を掛けられるとは……と言うか、個人で使えるもんなのかな?
てっきり、儀式魔法の類だと思ってたし、王城の書庫などで調べた限りでは、個人での送還魔法の起動は魔力が足りないために、たとえ勇者でも起動すらできずに失敗するだろう、と丁寧にも大量の計算式で証明が書いてあったし、深く考えず、まあそうなんだろうなと思っていたのだけど。
魔王自体の固有魔法の類いか、それとも何か抜け道みたいなのがあったのだろうか?
と、一人で悩んでいたところで、背中に衝撃が来た。
「いてっ!」
「おっとっと」
危うく無様な格好でべちゃっと地面に倒れるところだった、と後ろを見たら、俺が倒れる代わりになったのか、床にべちゃっと潰れている小柄でフードを被った子供がいた。
手を貸し立たせると、お礼を言った後、連れとともに足早で立ち去っていく。
ピコーン!
「ん? 何か鳴ったような?」
先ほどの子供……あれ?
何か見落としているような気が、と考えていると、そっとローブの袖を引かれる。
「あの……イオリ様? 先ほどは大丈夫でしたか?」
「ん、ああ、ごめん、ごめん。さっきのは大丈夫。ちょっと、この状況について考え事してた。まだ混乱してるけど」
「そう……ですか。イオリ様が混乱していると言う事は、ここはイオリ様の住んでいた世界、“日本”ではないのですか?」
「うん、どうやらそう見たいだ。もしかしたら映画セット、えーっと、劇の舞台装置みたいなやつ、かな? とも思ったけど違うような気がする」
「感……なのでしょうか? 以前からイオリ様の感はよく当たっていましたね」
と、そう言ったきり考え込むフィーネ。
俺もフィーネも、今さっき人にぶつかったというのに、全く周りが見えていなかったようだ。
「きゃっ!」
「ワバタシ、ェガクュメクコクデャザ!」
すぐ横に突如として現れた体格の良い男に突き飛ばされ尻餅をつくフィーネ。
「あっ、すいません」
「ナー? ザムダクデャアシ?」
尻餅をついたフィーネに手を伸ばしつつ周囲を警戒するが……どうやら男たちが話している言葉は日本語に似ているようで似ておらず、またフィーネが居た世界の言葉とも、そして少なくとも俺が知っているどの言葉とも違うように思う。
おっと、ここは慌てずに騒がず、召喚された直後に使った『言語習得補助』の加護を有効にすると、会話の途中で突如として言葉が明瞭になり……。
「ガー? ククュダデダドョヒ、ヤガゴヱンムプョロクたから龍の膝枕亭で酒盛りしようぜ」
話している言葉の意味がわかるようになる。
そういえば、この『言語習得補助』の加護は便利だけど、言葉や文字などの習得具合によって補助がだんだんと少なくなり、最終的に日常生活に困らなくなったタイミングを狙ったかのように、いつの間にか加護の影響が切れているから、違う国に行った時に一瞬戸惑って困るんだよな。
「そうだな! おう、悪かったな俺も前見てなかったぜ! わっはっはっはー」
どうやらこの後にやる事を思い出し機嫌も良くなったようで豪快に笑いながら去ってく男たち。
ちなみに、地球、それも日本は魔力がとても薄いが神力は多いらしく、加護の力は神力によるものなので送還されても問題なく使えるらしいと、先見の巫女ことフィーネの姉のフラン王女様が言っていた事を思い出していたら、またそっと袖を引かれた。
「あの、どうやらここは人がよく通るようなので場所を移りませんか?」
辺りを見回すと、たまに人が突然現れ、そのまま出口に向かい移動しているようだ。
もしかして、ここは転送ゲート、それも出口専用のゲートみたいなところなのだろうか?
「そうだな。とりあえず出口から外に出てみようか」
そう言ってフィーネの手を引き出口に向かい歩く。
「はいっ!」
手を繋いだ瞬間に少しビクッとするが、すぐに少し頬を染め嬉しそうにきゅっと手を握ってくる、かわいい。
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2016/07/06 ルビが上手く振られていなかったのを修正




