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俺は死んだ



  激しい雨が降っている。


 灰色の厚い空からは、腹の虫が泣くかのようにゴロゴロと嘶く音が聞こえた。


 この勢いでは、今にも落雷が降ってきそうだ。


 俺は学校の授業から無事解放され、家路につくところだった。


 なぜか今日に限って、立てかけてあった自分の傘が無くなっていたので、少し戸惑った。



「やれやれ」



 仕方ないことだ、とすぐに思い立った。


 大したことじゃないさ。


 誰かが俺の傘を間違えて差して帰ってしまったのだろう。


 それをわざわざ責める気はない。


 むしろ今日は雨に濡れて帰りたい気分だったので、結果オーライだ。


 間違えてくれた人物に、感謝。


 途中、俺の不運に気付いた後輩の女子が俺に傘を貸してくれる、と言った。


 どうやら予備の折り畳み傘を常備していたようだ。


 俺は一応借りておいた。


 かわいい後輩の親切を無下にするわけにはいかないからな。


 俺は彼女にやさしく微笑みかけ、学校を出た。



 雨粒は激しく道路を叩いている。


 俺は冷たい雨を顔に受けて歩いた。


 雨は嫌いじゃない。


 汚れきった街の心を洗い流してくれる気がするから。


 つまり今日は街のお休みの日ということだ。


 いつもお疲れさん。


 感謝を心の中で告げ、しばらく俺は、雨天の歩行を楽しんだ。




 横断歩道にて停止。


 信号は赤。


 てらてらと雨に濡れ、真っ赤に輝いている。


 行き交う自動車。準じて跳ねる雨水。それを見送る。


 ややもすると、信号は青に変わった。


 一歩踏み出そうとした瞬間。




 その時だった。


 奴はやってきた。


 ピカッ、と空が激しく発光した。



「――なに!?」



 直後、目で追えぬほどのスピードの落雷が、俺の眼前に落ちた。


 路面がブスブスと真黒に焼け焦げる。


 衝撃に言葉を失う。



 スババーン!!  ゴロゴロゴロゴロ!!


 遅れて轟音がやってくる。


 体全身が微かに振動するのが分かった。



「……あ、危なかった…………一歩でも前に出ていたら、直撃していた……」



 ゴロ……ゴロ……。



「――ッ!?」



 直感ッ!


 後ろにバックステップ!


 落雷がまた音速を超えて落ちてきた。


 俺の直感は当たっていた。

 

 アスファルトが空高く弾け飛ぶほどの、威力。衝撃。恐怖。



「クッ、ここは危険だッ、退避!」



 俺は家への帰り道とは逆の進行方向へと、体を向ける。


 つまり、学校に引き戻ることを決意したのだ。


 この緊急事態、仕方ない。


 全力で退避だ。



 すると、

 スバババババーーーンン!!!!!


 俺の逃げ道を塞ぐかのように、雷撃が何本も地を貫いた。



「雷がまるで意志を持っているかのようだ!」


 

 思わず大声で叫んだ。


 ありえないッ。


 こんなことがありえるかッ?


 これではまるで、雷が意志を持っているかのようだ!


 それから、雷撃は雨のように降り注いだ。


 上空を見て、予兆を感じ取り、落ちてくる前に、体を動かす。


 回避!


 回避!


 俺は避け続ける。


 カエルのようにぴょんぴょんと跳躍しながら逃げてみたりする。


 再び雷撃ッ!


 よろけながらも、回避!


 黄色い閃光。走るイナズマ。


 すさまじい直感で避ける、避ける、避けるッ。


 だんだんと体が雷撃に慣れてきた。


 コツさえ掴んでしまえば、それほど難しいことではない。


 俺は刹那の雷撃に、全神経を集中させ、バックステップと前方ステップを駆使して踊るように避け続ける。



 だからこそ気づくことが出来なかった。


 右方から近づいてくる恐るべきものに。


「ハッ――――。万事休すかッ――――――ッ!!」


 もう遅い。


 俺は雷に気を取られている間に、2tのトラックに直撃し、潰れたトマトのように死んだ。



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