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歌詞集

作者: 吉野了

目次


1『トウヒコウ』

2『掠れる』

3『藍、兵と』

4『七転び八起き』

5『熱と指針』

6『形』

7『悪気ない』

8『カーテンコール』



『トウヒコウ』



もう嫌になってんだ あれやこれ

それならもういいやって言って、ああ、飛んでしまおうか

もうなに言ってんだか わけわからん

これからどうしたってどーせ、ああ、消えて終おうか


逃げたっていいんです

落ちたっていいんです

こっちだって危機なんです


そして踏み出した右足にはちょっとした抵抗もなく

こうして涙したあの日々にはこのずっと下で他愛もなく

逃飛行


そう嫌になってんだ あれやこれ

それならもういいやって言って、あれ、飛んでしまうのか

そうなに言ってんだか わけわからん

これからどうしたってどーせ、あれ、消えて終うのか


逃げたっていいんですか

落ちたっていいんですか

それは誰だって嫌なんです


そして落ちだした右足が引っ込んだ抵抗もなく

こうして震えだしたこの体助かった、ああ、僕は泣く


消えて逃げ出したいその気持ち知ってんだどうしようもなく

闘え踏み出した右足にはちょっとした迷いもなく

闘飛行

遠くへ行こう




『掠れる』



刺激がねぇってやる気がねぇって毎日毎日言っている

あれが欲しいってそれも欲しいって毎回毎回言っている

そうですねってそんなんばっかだそうしてそうやって損してる


ああ、止まる思考、止まるさもう、動かないんだ

ああ、耐える、摩耗、消えるだろう、仕方ないんだ


繰り返して繰り返して繰り返して

気付いてんのか、それって自分殺してる


ああ、溶けるみたく、ぶれる、記憶、あれいつだったっか

ああ、自覚はなく、終わる支度、あれいつやったのか

ああ、


ああ、


繰り返して繰り返して繰り返して

繰り返してんのがいやになった


だから歌うんだ、叫ぶんだ、ちゃんと自分がいるんだと

ここだ、刻むんだ、残すんだ、

ああ、止めないんだ、止めないんだ、


ずっと思考記憶、絶えず消えず、残す残す

そう繰り返す




『藍、兵と』



とある国境線にただ一人

立っているのは孤独な兵士

近付く者は片っ端から撃ち倒す


とある国境線にただ黙り

伏しているのは多くの死体

遠退く民も片っ端から撃ち倒す


ある日男が問い掛けた

「なぜ誰も彼も撃つのだ」と、

「嫌いなんだ、何もかも」

そう言い彼は銃を抜く


藍色の弾が飛び出した

音を残し、前へ進み、世界を閉じる

藍色の弾が飛び出した

肉を抉り、骨を砕き、命を止める

一つ息を吐いて、空を見る


とある絶叫、彼に突き刺さり

むせび泣くのは一人の少女

戸惑う彼はその子に掛ける言葉がない


そして少女は呟いた

「なぜ私の父は死んだんだ」

「俺のせいだ、何もかも」

そう言い彼は銃を置く


藍色の弾が生み出した

声を枯らし、髪を揺らす、少女の嗚咽

藍色の弾が生み出した

胸に刺さり、肚を焦がす、兵士の苦痛

二つ影が伸びて、日が落ちる


「怖かった、理解されるのが」

「恐かった、独りにされるのが」

「嫌だった、その全てが」

「嫌だった、その自分の全てが」


藍色の粒が零れ出た

頬を伝い、流れ落ちて 、地面を濡らす

藍色の花が乱れ咲いた

ここにはもう国境線はない

藍色の弾は無くなった

音を残し、前へ進み、世界を開く

一つ息を吸って、空を見る、日が昇っていた


とある国境線にいた一人

境は消えて今度は二人

行き交う人に花渡す




『七転び八起き 』



歩いて転ぶこと既に七回

崖から落ちるはもう六回

車に轢かれた、はて四、五回?

銃で撃たれた三回も

一回死ねば二度はない


驚くべき不運、驚異の幸運

どっちでもいいさ

今を生きてるのなら


転んで、落ちて、落ち込んで、

轢かれて、撃たれ、打ちひしがれる

そんな日もあるさ

何度でも起き上がろう


歩いて転ぶことこれで何回?

沼へと落ちるのもういいかい?

棺に入れられ、そりゃ死後か

君にぶたれた展開もあったね、

あれは容赦ない


あまねくこの不運、あまりの幸運

どっちでもいいさ、

君と生きてるのなら


転んで、落ちて、落ち込んで

轢かれて、撃たれ、打ちひしがれる

損な日もあるさ

何度でも起き上がろう


一回、二回、三回目

四回、五回、六回転ぶ

こんな日もあるさ

何度でも起き上がろう


歩いて転ぶことこれで七回

そんな日もあるさ

何度でも起き上がろう




『熱と指針』



拳ほどの入れ物に無理矢理押し込み、詰め込んだ

煌々と光るランタンに

行き先示す羅針盤

すると暗くて暗くてしょうがない

遂には何処だか分からない


胸が痛くて蹲る

そのくせ鼓動が忙しなく急かす

だけどもう一歩も踏み出せそうにない

いつの間にか泣いていた


ぎゅうと詰めた入れ物が苦しそうに叫んでる

此処は何処だと喚いてる

此処から出してくれ

そう言ってじたばた動くんだ


当たり前と人々に無理矢理押し込められたんだ

早々と消える、方々に

口々に言うは、淡々と

すると痛くて痛くて儘ならない

遂には何れだか分からない


胸が痛くて蹲る

そのくせ周りが忙しなく急かす

だけど誰一人も手を貸しそうもない

いつの間にか泣いていた


ぎゅうと止めた心拍が苦しそうに叫んでる

どくんどくんと喚いてる

此処から出してくれ

もういいって、ゆるゆる止まるんだ


胸が痛くて蹲る

そのくせ鼓動が絶え間なく響く

詰めたはずだが、流れ出す

そのくせ何処へも行けずに戻る

胸が熱くて向こうへと指し示す


ぎゅうと詰めた入れ物が苦しそうに叫んでる

此処は何処だと喚いてる

此処から出してくれ

そう言ってじたばた動くんだ


ぎゅうと詰めた入れ物が苦しそうに叫んでる

彼方此方と喚いてる

此処から出してくれ

そう言ってぐるぐる巡るんだ


拳ほどの入れ物に無理矢理押し込み、詰め込んだ

煌々と光るランタンに

行き先示す羅針盤

すると赤くて赤くて止めどない

遂には止め方分からない




『形』



なんでこんな形なんだろう

歪で複雑だ

どうにもこうにも分からない


丸いお前はいいよなぁ、

誰かの掌に包んで貰えるんだから


四角いお前はいいよなぁ、

誰かの支えになってあげれるんだから


見ろよ、この俺のトゲトゲを

包む皮膚を突き破り、

支える背中を刺しちまう

いいよなぁ、お前は


なんて不幸な体なんだろう

器用でよく動くが、

どうにもこうにも儘ならない


丸いお前はいいよなぁ、

転がっていればなんとかなるんだから


四角いお前はいいよなぁ、

転げられないならしょうがないもんな


見ろよ、この俺の左手を

望むように動くくせ、

自分の背中にゃ届かない

いいよなぁ、お前は


俺も丸くなれりゃ、

好きなとこへ転がってくのに

四角くなれりゃ、

これはこれでと立っていられる

なんでこんな形なんだろう

丸や四角より出来ることは多いのに

堪らなく不自由だ、不自由だ


ならば、その君の全身を

包む皮膚を突き破り、

支える背骨を抜いちまおう

いいよなぁ、なぁ




悪気(あっけ)ない』



からり、と戸を開き

ひらり、はらり、と木の葉が散る

ちらり、とそちらを見たら

たらり、と降る雨が手に乗る

のらり、くらり、ふらふら歩いたらば

ばらり、と体が離ればなれ


呆気ない、なんて呆気ない

味もそっけもないし、何にもない

さして悪気もないから

怒りたくても怒れない

呆気ない、なんて呆気ない

呆気にとられたまんま

あっちに勝手に拐われる


宙に舞う手と足と手と足

梅雨に消えると、雨と音と死

口にするあの足と手をくれ

目に見えるの割りと手遅れ


呆気ない、なんて呆気ない

足元って、もうないし、何にもない

両手どっちもないから

怒りたくても起きれない

呆気ない、なんて呆気ない

呆気にとられたまんま

あっちに勝手に拐われる


広がる広がる血、血、血

散らばる血らばる身、身、身

近付く血が付く死、死、死


呆気ない、なんで悪気ない

怒りたくても怒れない

あっという間に

あっちに勝手に拐われる


ざあざあ雨が降ってきて

ざわざわ声が寄ってきて

さあさあいよいよ瞼が落ちてきた

さよならさえ言えぬまま




『カーテンコール』



暗い夜の帰り道

僅かに街灯が照らす道

にわかに光る空の星と月

とぼとぼ歩いて向かう家


今日は色んなことがあったな、

楽しいこと、辛いこと

あいつが面白くて笑った

あのニュースを聞いて顔をしかめた

そこまで大したことじゃないけれど、

沢山のことが僕を囲んでた


明日は何があるだろう

ぽつりと呟いた

なんとなく目を凝らしてみたら、

街灯が途切れ途切れに道に浮かんでた

ぽつ、ぽつ、ぽつ、と

似たような光が行く先を照らしてる

きっと今日みたいな明日が続いてる


黒い夜のアスファルト

仄かに街灯が映す影

どこかに消える空の星と月

とぼとぼ歩いて向かう家


今日は色んなことがあったな、

嬉しいこと、嫌なこと

あの子と腹を抱えて笑った

あの知らせを受けて胸を痛めた

そんなに大したことはないけれど、

沢山のことが僕を囲んでた


明日は何かあるだろう

ぼそりと呟いた

なんとなく目を凝らしてみたら、

星月があちらこちらの雲に隠れてた

ぽつ、ぽつ、ぽつ、と

似たような光が夜空を照らしてる

きっと今日みたいな明日が待っている


いつか星は消え、

街灯は光を無くす

当たり前にあった昨日、今日、明日が

当たり前でなくなる

そしたらあの辺りにあった星、

あの明かりにほっとした僕、

はもういなくなるの


明日はどこにあるだろう

一人で呟いた

なんとなく手を伸ばしてみたら、

街灯が途切れ途切れに浮かんでた

ぽつ、ぽつ、ぽつ、と

似たような光が行く先を照らしてる

きっと今日見た明かりが、光が

きっとそうなんだろう


暗い夜の部屋の中

僅かに街灯が見える窓

にわかに見える星と月

カーテンを引く前にも少し見たいと手を叩く

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― 新着の感想 ―
[良い点] はじめまして。 言葉にリズムがあって音はないのに音楽を聞いているようでした。 言葉から伝わってくる葛藤や無力感にも共感でき、でも読後印象に残るのはそれだけではない強さみたいなものであるとこ…
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