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5月「守りたいもの 下」

5月の一大行事である修学旅行の計画が始まった5月初旬。

舞華との関係を意識し始め、戸惑いながらも1日1日を幸せに過ごしていた。


5月某日、土曜日。

今日から、学校の大きな行事、修学旅行に向けての準備が始まる。

土曜日から計画を立て始めるのは、土日の朝夕の時間を使い、グループの編成と大まかな研修コースを計画するためだ。

修学旅行は5月14,15,16日の二泊三日で、あっという間に終わってしまいそうなものだ。


午前中は3学年全体で学年集会が開かれ、修学旅行についてのルールやグループ編成人数などが長々と説明された。

修学旅行の楽しい想像とは裏腹に、春耶達3年生一同は、鬼畜な時間を過ごしていた。「メモ取らなきゃいけないって、拷問かよ」

先生から説明を受けている際は、必ずメモを取らなければならず、しかもそのメモ用紙を提出することとなっている。

「パンフレットにほとんど書いてるのにね、面倒だよ」

「まったくだ......眠くなるぞ」

幸いなことに、隣に座っているのが昴だったため、暇な時に雑談する仲間は確保できた。


「えー、パンフレットには書いてなかったことをお話しします。グループの編成人数についてですが、少なくても2人から6人程の人数でグループを編成してください」

「ほう、2人でもいいんだな。偏りそうだな」

「ボッチにならずには済むね。俺、ボッチになりそうだったからさ」

「ふーん......ところで、えーと」

春耶は舞華を探す。

なんとなく、あいつからグループ編成について相談されそうな気がする。

アイコンタクトでもできないだろうか。

「お、いたいた」

自分の2つ隣に舞華は座っていた。

春耶の視線に気付いたのか、舞華がこちらを見る。

「これ、どうすんの?」

さすがに喋ることはできないため、口パクで伝達しつつ、パンフレット内の編成人数のところを指さして首を傾げてみる。

これで大方趣旨はできてもらえるだろう。

「ふたりでね」

口パクで舞華が返答する。最後には手でグッドマークをつくってみせた。

口の開き方からして、どうせ2人でのグループだろう。

つか、最後のグッドマークは要らねぇ......




学年集会が終わり、クラス順に教室に戻る。

4組が移動するまでは時間があるので舞華と再確認する。

「グループは俺とお前か?」

「うん。実は友達に何回か誘われてたんだけど、折角だし、春耶と2人きりのグループがいいかなぁって」

「なるほどな。まぁ、それはそれで俺はなんかそいつらに申し訳ない気持ちもあるんだが......今度は遊んでやったりしろよ」

「そのつもりだよ。あ、そろそろ移動だから、また教室でね!!」

「ああ」



教室に戻ると、齋藤からまた説明がされる。

長々しい話はごめんだ。今度は本気で寝ちまう......

「ではでは、簡単にこの時間にすることを説明します。最初はグループの編成を行いますが、先程先生が仰っていた通り、2人から6人程の人数でグループを編成してください。説明を終えたあとにこのグループ編成用のプリントを配布するので、編成したメンバーを書き、リーダーには◎を書いて提出してください。呉々(くれぐれ)も字は綺麗に書くこと」

説明が終わり、齋藤は丁寧にプリントを配布する。席が席だけに、早く配布して欲しいものだ。丁寧に渡すのはいいが、スピードが遅い。

「まぁ、メンバーはもう決まってるし。あれ、班長は......」

正直、気が弱い自分にとって班長を任せられるようなことはないと思っていた。

しかし、舞華のことなので班長を押し付けられるような気もしてならない。


「春耶ー、班長お願いね」

「やっぱりな......」

舞華が席に座りながら班長を押し付けてきた。予想的中、なんで俺は変な予想ばかり当たるんだ。

「まぁ、俺はお前に班長は任せられないから俺が班長を務めるが、俺に頼りっきりにならずに自分のことは自分でやれよ?」

「はーい」

舞華が少し残念そうな声を上げる。

まさか、俺にすべて押し付ける気だったのか......

ダメだ、先が思いやられる。

「ねぇねぇ、もう書いちゃったら?」

「そうだな。............よし、提出してくるわ」

プリントを書き上げ、齋藤へ提出する。

しかし、齋藤ったら、プリントを見ながら首を傾げたりや唇に指を当てたり、なんだこいつは......

殴りたくなるのを抑えつつ、春耶は齋藤からOKのサインを貰う。

「よし、OKだ。さて、次は自主研修のルートを考えるんだが......どこに行くんだっけ?」

確か、修学旅行でどこに行くか説明されているときは昴と雑談していて先生に注意を受けたため、ほぼ全部聞いていなかった。

「もう、ダメだよ、ちゃんと聞いてなきゃ!! 沖縄だよ、お・き・な・わ!!!」

「あー、分かったから大声たてんな!」

ふむ、沖縄か......

春耶の想像癖のスイッチが作動する。


沖縄と言えば......雄大な自然に囲まれた昔から独特な地域文化を持つ珍しい島で、戦国時代は(しょう)氏が琉球王国を建国。

そして、鹿児島や宮崎の武将と交流を交えながら領地を拡大していたというが......明治維新らへんで琉球王国が滅亡したとかなんとか。

シーサーという島の守り神。

青い空、白い砂浜、白い雲、そして光り輝く太陽!! がとてもよく似合う風景だ。

美ら海水族館は全国的に有名で、その中でも世界最大の魚類だか哺乳類であるジンベエザメが有名である。

「なるほど、ルートはいくらでも思いつきそうだ」

「ほんと!? やった!!」

想像のおかげで、何通りものルートが思い浮かんだ。

首里城は定番だから、ルートに必ず入れるべきか......

それともジンベエザメを見に美ら海水族館を訪れるか......

春耶の頭の中は修学旅行で一杯になった。



もう夕方の6時だ。土曜日なのにも関わらず、いつも通りの学校生活となってしまった。

「今日は楽しかったね。でも、ルートの完成にはまだまだ時間がかかりそう」

「そうだな。明日で半分くらいを仕上げることを目標にしよう」

「うん、頑張るよ」

明日の日曜日の分を含めて、あと修学旅行についての時間はあと4回。

明日でルートの半分を終わらせておけば気が楽になるだろう。

少しテンポ上げて、あとの数回でボチボチ決めていけばいいか。

「春耶?」

そんなことを考えていると、舞華が声を掛けてきた。

「どうした?」

「あのさ......手、繋ご?」

「ん、お、おう。どうした急に」

突然の言葉に春耶は動揺を隠せない。

そして誤魔化せるわけもない。

今回は素直になろう。

「沖縄で一緒に歩くとき、(はぐ)れないように手繋いでれば、大丈夫かなって......」

「なるほどな。じゃ、ほら」

春耶は手を舞華の方へと差し出す。

舞華は徐々にだが、手を近づけていき、大事なものを包むように、きゅっとその手を握った。

握ってきた手は、暖かかった。

舞華の儚くも力強い温もりが感じられる。

手を繋ぐって、安心するんだな。

こう言葉にして舞華に伝えたかったけど......


......は、恥ずかしい!!

なんだ、この羞恥心は、この気恥ずかしさは......

昔は普通に手を繋いでいたのに、この年代になって、はたまた俺らの関係も考えるととても恥ずかしい。

だから、会話なんかまともに成立はしない。

手を繋いだまま、お互い目を合わせず無言で歩いている。

流れていく時間は2人に会話なんて求めていないかのように、刻々と刻まれていく。

ダメだ、このまま無言で終わるのはダメだ。

「なぁ、舞、華......?」

ぼそぼそと春耶が何とかして話題をつくろうと話しかける。

「なに?」

「今日は、疲れ、たな」

「う、うん。そうだね......」

「お、おう」

「......」

「......」

ダメだ、これ以上続かない。

自分って結構無力な方なのか?

あれ、以外とコミュニケーション障害?

え、待て。コミュ障になった覚えはない!!

そんなことを考えているだけで、1日がすぐ終わりそうだ。



「じゃ、またな」

「じゃあね、また明日」

交差点で別れを告げ、それぞれ帰宅する。

肩の荷が下りたって感じがする。

それくらい、緊張するものなのか、恋人と手を繋ぐのは......

やっぱり、先が思いやられる。

この先うまくやっていけるのかと自問自答すると、明確な答えはすぐには帰ってこなかった。



日曜日。

今日も修学旅行の編成のために登校する。

土日も学校をあけるだなんて、ここくらいじゃないだろうか。

土曜日の補習授業は他の高校にも沢山あるが、日曜日の普通登校なんてそうそうないだろう。


「おはよう」

「あ、おはよ」

「今日は、昨日も言った通り、少しテンポを早くしてルートの半分は決めてしまおう」

「りょーかいしました」

舞華がビシッと敬礼のポーズをとる。

なんでもやっちゃう舞華だから、仕方ない。

ふざけてるわけじゃないから、春耶は微かに微笑んだ。


「よし、このくらいか」

「すごいね、すぐ出来上がっちゃったよ」

1時間程で本日の目標は達成できた。

しかし、時間が余り過ぎてしまった......

現在は午前11時。下校してもいい時刻まではあと3時間もある。

「時間が余ったから、もう少し進めるか? 疲れてないか?」

「この際全部決めちゃおうよ。その方が楽だよ!!」

「よし、ならばそうするか」

このままルートを全て決めることを選んだ。

家族へのお土産代も含めて、移動料金は控えめになるようにしよう。

嗚呼、終わったらシャワーでも浴びたい。

ルートを決めるのは、安易なことではない。

特に、沖縄の場合は......簡単じゃない。



午後1時。

「ああ、やっと終わった......」

「もう机にガイドブックが山積みだよ」

2時間を要してやっとルートが完成した。

コスト削減を新たに考えてみると、最初のルートの方にも少し無駄な出費が見えたため、いくつかルートを変更した。

塵も積もれば山となる。ということわざがあるが、今、舞華の机は図書館状態だ。

まさに、本が重なりゃライブラリー。と言ったところか。

この自然なリズムがいいな......和む。

「屋上にでも行くか」

身体が休養を求めてきた。

背伸びをし、全身の血流の流れをよくしてから屋上へと向かう。

舞華は友達と雑談すると言うので屋上には俺一人だ。

「風が気持ち良い......」

2時間も頭を悩ませ続け、そして小さい字ばかり見ていたので、目も疲労している。

疲れた身体に当たる微風(そよかぜ)はとても気持ち良いものだ。

周りから見れば、河原で黄昏てマンガを読む男子高校生のような風景にしか連想できないが、春耶にとってこの時間は寝ると同じような価値のものだ。



十分程風に当たり、屋上の戸を開けて教室へと戻る。

昼休みの終わりを告げるチャイムがなる。

春耶は急ぎ足で教室へと向かった。



「おかえり、春耶」

「充分にリラックスできたぞ」

あの風の心地よさは最高だった。

5月になって、若干気温が高くなってきているものの、微風は額に浮かぶ汗をも掻き消してくれた。

「良かった。疲労溜め込んじゃダメだから、しっかり休んでね?」

「ああ。わざわざありがとう」

「うん!!」

舞華の幸せそうな笑顔を見るだけで春耶も自然と笑顔になる。

これが幸せってやつなのかな?

こういう想像の結果は、後々知ることになるだろう。

今は修学旅行について考えるのが最優先だ。



午後2時30分。

下校してもよい時刻を過ぎたため、舞華に声を掛け帰宅の準備をする。

先生から借りたガイドブックを返却し、忘れ物がないかを確認する。

精々、忘れたのは屋上の戸の鍵を閉め忘れたことだろう。

そこから不審者が入るわけでもないから、閉め忘れようがどうだっていい。

「そろそろ帰るぞ」

「うん」

舞華と共に階段を降りる。

午後2時40分。陽は少し暑いだろう。

タオルを手に取り、下駄箱の靴を取る。


昇降口から出ると、初夏を感じるような暑さだった。

「これから梅雨だというのに、この暑さは少し厳しいな......。今年は猛暑かな」

「えー、やだよー。日焼けしたくない」

「どこまでUVを嫌ってるんだか......」

男子からすれば女子が日焼け止めを塗ることの意味が理解できない。

日焼けしたって別にいいじゃんという理由で済ます男子だが、女子にはUVをカットしたがる明確な理由があるのだろう。


今日の帰り道。

今日の2人は手を繋いではいない。

昨日繋いだらめちゃくちゃ恥ずかしかった。

会話が続かないから手を繋がない。

という理由ではない。

とにかく、暑さに負けていた。

「暑い、とにかく暑い......」

タオルを頭に被せ、直射日光が頭部に当たらないよう保護する。

今年は本当に暑くなりそうだ。

まるで、2人の恋を熱くするみたいに。


まだ5月の始めなので、水筒など持ってきてなどいない。

この時期から熱中症に関するニュースが出たら、今年の日本の夏は最悪だろう。


炎天下照り付ける中、水を求め自販機に止まる。

150円を入れ、コーラを購入する。

「これで生き返る......」

「春耶、水持ってきてないんだ?」

「逆になんでお前はいつも水を持っているんだよ......」

「え? うちがバカだからじゃないからね。水を飲むと痩せるっていうんだもん」

スタイル維持というものか。

せめて健康のためと言うなら褒めてやったが、やはりこの歳の女子はスタイルにも気を配るんだな。

自分にはまったく関係がないことを考えるのは造作もないことだが、炎天下を耐え抜くのはどうやら春耶にとっては無理難題のようだ。


コーラのプルダブを開ける。

カシュッという音と共に、炭酸飲料特有の刺激臭が香る。

鼻腔を刺激してくるこの匂いは、生き返るための手順みたいなものだ。

この匂いを嗅ぐと、自然と飲みたくなるため、無意識のうちの自分の肉体蘇生が可能となる。

RPGみたいな設定を気にすることなく、春耶は一気にコーラを飲みほした。

「ぷはぁ......今日のコーラは格別に美味だ......」

「よかったね」

舞華がニコッと笑う。

再び命の息吹が吹き始めた春耶にとって、今の舞華の笑顔は、女神の微笑みに見えた。





いつもの交差点。

「じゃ、また今度な」

「うん、次は一緒に行こ?」

「いいぞ」

「やった!! じゃあ40分くらいに家に行くね!! 時間、大丈夫?」

「ああ。問題ないんだが、わざわざ俺ん家まできてもらうだなんて、すまないな」

「ううん。大丈夫だよ!!」

「じゃ、またな」

「バイバイ」

挨拶を終え、家へと向かう。

明日、月曜日はこの土日のこともあって振り替え休日となる。

ゆっくり身体を休めて、舞華と電話でもするか。

明日の予定を雑破に考えながら春耶は帰宅した。



火曜日、5月9日。

月曜日は、日曜日に考えた雑破なプラン通りに過ごし、夕方には少しランニングをして息抜きをした。

夜は舞華と電話をし、有意義な時間を過ごした。

修学旅行まで残り5日と迫ったこの日。

昨日の振り替え休日で身体の疲れが取れたのか、今日は朝の4時に目が覚める。

両親もまだ寝ていたので自分で朝ご飯をつくる。

「家族の文もつくっておくか」

春耶は簡単な目玉焼きをつくり、珍しく一人での朝ご飯の時間を堪能する。

朝6時30分。両親はまだ起きてこない。

今日は仕事休みかな。珍しいな。

共働きとはいえ、両親が同じ日に休暇日とは珍しいことだ。


よし、そろそろ登校しよう。

親に『飯はつくっておいたから』とメッセージを残し、春耶は家を出る。

6時45分。5月初旬のこの時間帯は若干肌寒い感じ。


天気予報を見たら、午後は日が出るので暑くなると言っていた。

この肌寒さに似合わず、カバンにはタオルを入れている。



7時10分。青明学園。

まだ誰も登校していないが、先生の車は数台あったので、用務員の方かなと考える。

教室に入る。

「意外と寒いな......」

7時過ぎの教室はまだ寒い。冬の時期の日中みたいな感じ。

今の季節は何だっけ......

今は、まだ春か。冬みたいだな......






5月13日。日曜日の夜。

さぁ、明日は修学旅行だ。

気分が高揚し始めている。ワクワクしているのだろう。

机に置いてあるプリントを見て、修学旅行中の3日間のことを考える。

「舞華も、楽しみにしてるだろうな」

メールを送ろうと思ったが、送る気にはならなかった。

でも、とてもワクワクしている。



しかし、この時の春耶に修学旅行中の悲劇が起きることなんて、予想もできなかった。

みなさんこんちゃっす!!

泡雪です。

次作から修学旅行編が始まります。

14日,15日,16日の3日分を、三作に分けて投稿しようと思っています。

なので、修学旅行についてはとても長くなると思われます。

ですが、そんなことに負けずに、みなさんが楽しく読めるような、そんな小説を書いていきたいと思います!!

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