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4月「夢はやがて現実へ 下」

人生18回目の春を皆さんに楽しく読んでいただけるように頑張っていきます!!

4月編はこの話で終了します。

「春耶が、大好きなの!!」

「......っ!!」



放課後、2人だけ残る教室。

夕焼けに教室もオレンジ色のコントラストを背負い、2人の会話を綺麗に染め上げていく。

何故か夕日は、時間が経つごとに、舞華の顔を赤く染めていっているような気がした。

または、舞華がどんどん赤面していっているかは春耶には分からないことだった。


「付き合って、欲しいの......」

舞華が腹の底から本当に言いたかった言葉を意を決して言う。

「俺は......」

暫し間をあけ、返事より状況の理解を優先する。

1年振りに再会した人から急に放課後に告白されるなど、漫画みたいな設定だ。


春耶は、素直になれないでいた。

「まだ、返事はできない」

「え......?」

「まだ、お前と付き合うかは、決められないんだ。少し、待っててくれないか?」

「......うん、分かった」

そう言い残し、舞華は重い足取りで教室を出ていってしまった。

その後ろ姿は、喜んでいるようにはまったく思えなかった。



翌日。

舞華は、登校してこなかった。

始業式の日のように、ホームルームの途中に遅刻して登校してくることもなく、親から欠席の連絡も入っていないらしい。

「悪いこと、言っちゃったかな」

春耶は罪悪感に見舞われていた。

自分の言葉のせいで舞華を嫌な気持ちにさせてしまったのなら、今すぐにでも謝りたい。

たとえ、舞華が嫌な気持ちになってなくとも、あの時の自分の言葉は間違っていたと思う。

「なんか、な......」

春耶は得意な想像癖も、今日は機能しそうにもない。想像したところで、舞華がここへやってくることもない。


「なぁなぁ春耶、浮かない顔してどうしたのよ?」

考えてるところで昴が気になったのか、声を掛けてくる。

心配してくれているのか、いつもの目をしていない。

「ん、いや、なんでもない。ちょっと勉強しすぎて疲れが溜まってるみたいだ」

「なーんだ、学年トップになるための修行中か?」

「そういうことではないが、今年は大学進学に向けてみっちり勉強しておかないと駄目だなと思ってな」

「ふーん、珍しくやる気だね」

「......ああ」

会話が、続かない。

小学校の時から友達だった昴に対しても会話が途中で途切れてしまう。

頭を掻く。昴にバレたんじゃないか......

自分の事情を察してくれよと、不謹慎に思いつつも、そんなこと察してくれるわけないよな。と、少しガッカリする。


春耶は、自分ではなく相手にまで素直になれずにいた。



告白されてから5日。

土曜日。春耶は家でも机に座るも勉強はせずに悩んでいた。

自分に素直になれないならまだしも、相手との会話にまで嘘を吐いてしまっている。

「人間として、どうなんだか」

今度は罪悪感から自虐的な感情に苛まれていた。


しかし、この日は違う感情も芽生え始めていた。

「俺って、よく1年間も待てたよな」

舞華は1年前、家族の仕事の都合でこの地区から一旦引っ越している。

その時の別れの挨拶は、春耶にはせずに、ひっそりとこの地区を去っていってしまった。

「母さんからその真実を聞かされた時、どんな気持ちだったっけ? 確か、怒ったな。母さんにも、舞華に対しても」


引っ越すことを春耶には秘密で去っていってしまったことを母親から聞いたときは、すぐ部屋に戻って大泣きしている。

そんな1年前の過去をなつかしみながら、春耶は返事の答えを探していた。


「でも、帰ってくるとメールが来た時、メチャクチャ嬉しかったな......なんでだろう」

高校3年生になった春休みの初日に、音沙汰なかった舞華から突然の便りが届き、またこの地区に戻ってくることが分かった。

とても嬉しかった。今考えると、とても不思議だが、何ものにも変えられないくらい嬉しかった。

また舞華に会える。また舞華と話せる。

命の恩人と再び会えることを知ってから、春耶は猛勉強に取り組んでいた。


「俺は、舞華のこと、好きなのかな」

まだ決められない。感情を一つに纏めることなんて、出来ない。

しかし、これだけは分かる。

好きなのかな。じゃない。好きなんだ。って



告白から7日、月曜日。

朝起きて、舞華に『今日の放課後、話がある』とメールを送った。

しかし、返事は帰ってきてはいない。

複雑な面持ちで春耶は高校3年生の第2週目を送り始めた。


教室に入ると、いつも通りの3の4だった。

黒板に落書きしてる人もいる。

仲良く友達と休日のことを話している人もいる。

だが、春耶は土日の2日感を有意義に過ごしてはいない。

何時間も、何十時間も悩み抜いてでた答えを希望に、学校へと来ていた。

春耶の眼は、真剣そのものだった。

友達と仲良く話している舞華を見て見ぬ振りし、自分の席に座る。

舞華、メールちゃんと見てくれてんのかな?

朝のメールの内容を読んでいれば、放課後残ってくれるはずだが、メールの返信が来ていないため、少し不安だった。

不安な春耶を自由にはさせず、いつも通りの日常が春耶に特別な心境を与える。


「春耶、おっはー」

「ああ。おはよう、今日も元気だな」

「だろだろ? 昨日友達とボーリング行ったんだよ。3ゲームでストライク8回もとっちゃってさ!! ちょー嬉しい!!」

「昴はなんでもできるんだな。あとは勉強をちゃんとすれば有名な大学に進学できるというのに、勿体無い」

「一言余計だー」

朝の何気ない挨拶も、少し緊張してしまった。

心の中には、ある人に言わなければならないセリフがあるから、それを言うみたいに緊張してしまう。

今日は、勝負の日だ。負けたらそこでお終い。トーナメント方式の大会の決勝戦だ。

春耶はそう思い、放課後を待つ。



ホームルーム後の休み時間。

移動教室の、移動する際の時間。

昼休みの30分間。

同じ係りで仕事をしている時間。

その時間の中で、今日は舞華と一度も目を合わせてもいないし喋ってもいない。

いつもは昴と話している時におはようと声を掛けてきてくれるのだが、今日はおはようの挨拶も交わしていない。

春耶は、勝負の時間が迫るごとに、心臓がドクンと跳ね上がる。

お化け屋敷に入ったみたいだ。

何かある度に、緊張してしまう。

「俺は負けない」

そう言って、緊張を解すのが今の春耶には精一杯のことだった。

深呼吸なんて、できなかった。




放課後


帰宅の準備を済ませて教室を見回すと、舞華は宿題をしていた。

どうやら、メールは見てくれていたみたいだ。いつもの舞華なら、すぐ帰ってしまう。

しかし、告白の返事を返すにはまだ待つ必要がある。春耶と舞華以外に残っている生徒が教室から出なければいけない。

楽しく笑っている複数人の生徒を何回か見て、舞華は舌打ちをしているような気がした。

「待ってくれてるんだな、ありがとう」

春耶は誰にも聞こえないような小声で呟く。

自分に言い聞かせるような口調で、2回その言葉を繰り返した。



あれから、どのくらい時間が経っただろうか......


先週、舞華から告白されたときみたいに、夕日が教室に射し込んでいる。

「ねぇ、春耶?」

「ん?」

突然舞華から話しかけられた。

見ると宿題は既に終わっているのか、じっと春耶の顔を見つめていた。

「返事、まだ?」

「あ、悪ぃ。忘れてた」


本当は忘れてなんかいない。

二人きりになるのが物凄く緊張していただけだ。

もう、大丈夫だ。

邪魔するものなんて、誰もいない。

俺が言いたい事を、ちゃんと言おう。


「舞華」

「なに?」

「俺も、お前が大好きだ」



春耶は意を決して自分が言いたかった本当の言葉を、伝えたかった真実を言った。

伝え方に、問題点なんてない。

俺の中では、パーフェクト。



「春、耶......」

「うおっ!!?」

春耶が気付いた時には、舞華は春耶の胸に飛び込んできていた。

そして春耶は無意識のうちに、舞華を離さんとばかりに、抱きしめていた。

「舞華......? どうした?」

「ううん、なんでもないの。ただ、嬉しいだけだから......」


春耶は、更に強く舞華を抱きしめた。

包み込むように、守ってあげるように、下手ながらも、抱きしめた。

告白は、大成功。



舞華は、泣いていた。


嗚咽を鳴らしながら、春耶の胸の中で号泣している。

春耶はそれを見て、胸を撫で下ろし、安堵の息が漏れた。

「春耶......ごめんなさい、あのとき、何も言わずにでてい......」


最後の方がよく聞こえなかったが、何も言わずにということは、引っ越した件だろう。

ずっと抱え込んでいたらしい。言い終えると舞華はしゃがみ込んでしまった。

「舞華、大丈夫だ。気にすんなって。俺は怒ってない」

「ほんと......?」

「ああ、本当だ。だから、もう泣くな。涙流すなんて、お前、似合わないぞ」

そう言って、春耶はしゃがみ、指で舞華の頬を伝う涙を拭う。


どのくらい泣いているんだか。

次々と涙が溢れてくる。

指だけじゃ、足りないな。

そう思い、春耶は制服を脱ぎ、舞華に手渡した。

「ほら、制服貸すから、これで涙拭けよ」

「いいの?」

「大丈夫だ。......沁みない限り」

「ありがと......」

春耶は舞華を見守るようにして舞華を慰め続けた。

数分程して、舞華は制服を春耶に返した。

受け取った制服の袖は、元の色のせいもあり、少し黒ずんでいる。

「染みたな、これ」

小声で囁き、舞華の顔を見る。

随分と、ハッキリと涙の跡が残っている。

かわいそうだったから、春耶は舞華を再び抱きしめた。

そして、こう言った。

「俺が守ってみせるから」


夢は、やがて現実となった。

好きな人に好きと伝えた。

告白は、成功した。

自分のしたいことをちゃんとできる人は周りから見れば立派かもしれない。

だけど、春耶にとっては挑戦だった。

春耶と舞華の心情は誰にも分からない。

それでも春耶はある決意を胸に抱く。

「立派でい続けるより、挑戦し続けていよう。」と......


この決意を胸に秘め、青明学園は5月を迎える。

5月には、青明学園にとって大事な行事が待っている。

春耶の決意は、個人から集団、3年4組全体へと滲透(しんとう)し、行事へ向けて新たな志を立てる。


その志を立て、春耶はとあることに気付く。

そのことを春耶も、はたまたクラスの皆もまだ知らない......

人生18回目の春を読んでいただきありがとうございました。

前書きでも触れたように、4月編はこの話をもって終了します。

自作からは5月編を投稿します^ ^

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