森の中の殺意 前篇
あっという間に一週間が過ぎた。
今日は姫様の入学試験の日だ。
姫様が入学希望の学園はレベルが高い。
当然俺なんかが入れるとは思えず、俺は部屋で留守番をしている。
確か、元の世界では高校入試を控えてたな・・・高校行きたいな・・・
「なんて考えててもしょうがないか、日課の素振りでもやろう。」
俺は、いつもの様に門の外へ行った。
素振りを何回かやっていると、俺はふと思った。
(俺は一週間前より大分強くなった・・・森へ行ってみようかな?)
森にはモンスターがいる、訓練にもなるし運が良ければ何か手に入るかも知れない。
(ゴブリンが出ませんように・・・)
俺はそんな事を思いながら森の中へ入った・・・
「では、これより入学試験を行う。」
今日はエイルが入学希望の学園、シガサ国立学園の入学試験だ。
(あ、あの人アカキバさんと同じ黒髪だ・・・)
あの人と言うのは今、試験場の森の中で入学試験の教官をやっている男の事だ。
赤牙は仮にも同居人だ、印象に残ってそう思うのも不思議では無いだろう。
「試験の内容だが・・・そうだな、俺と模擬戦をやって俺の両足以外のどこでも良いから地面に三秒間付ける事が出来たら全員合格にしてやるよ。」
入学希望の者は驚愕した、誰か一人でも教官を地面に付かせる事が出来れば全員合格と言われたのだ、無理は無い・・・が、当然そんな美味しい話を言う教官はそれだけ強いと予測できる、素直には喜べない。
「後、別に一人ずつかかってくる必要は無いぞ、複数でかかってきても・・・いっそ全員でかかってきても良い。あ、ちなみに制限時間は夜の0時までだ。」
教官がそう言うと、入学希望者達は集まり、作戦会議を始めた。
「どうするんだよ!きっとあの教官滅茶苦茶強いぞ!」
「・・・この中で魔法を使える奴は何人いる?その中で使える魔法の属性は何だ?」
入学希望者六十二人の中に魔法を使えるのは十六人いた。
使える魔法の属性は火が四人、氷が五人、水が三人、雷が二人、地が一人、光が一人だ。
ちなみに魔法の属性は火、氷、雷、水、風、地、光、闇、幻、無の十種類である。
難しさは火と氷は一番簡単な方で、雷と水がその次に難しく、風と地と光と闇がその次に難しく、幻と無は風や地や光や闇とは比べ物にならない程難しい。
何故かと言えば火と氷は大雑把にやっても出せる為簡単だ、雷は火を変化させて作らなければならない、水も氷を変化させれば作れる、風と地は火と水を複合すれば作れる、光は火を一瞬で限界まで燃やさなければ作れない、闇は氷を冷たいと感じられないほど冷たくしなければ作れない。
そして幻はその名の通り幻と言うべき、例えるならば人間を作る位の魔法であれば幻として分類される、無はその名の通り火でも氷でもないが魔法、例えるならば火を氷にする位の魔法であれば無として分類される。
ちなみに光を使えるのは赤牙がこの世界に来て二日目、赤牙が訓練をしてもらった灰色の髪の男だ。
「取りあえず光を使える俺が教官の目を眩ませる、その隙に後ろから二十人程で教官を取り押さえるんだ、それが駄目なら次を考える、行くぞ!」
「「「「「おぉ!」」」」」
灰色の髪の男の作戦その一が始まった。
「モンスターがいないなぁ。」
俺が森に入って数十分、俺の大っ嫌いなゴブリンや犬やらが一匹も来ない。
城下町にはギルドがあるが・・・採取依頼ソロでやれば無双出来るかもしれないな、今度やってみるか。
「ここは・・・そうか、姫様と初めて会った時の泉に続く林か。」
あの時は水浴びしてて、俺が逃げだそうとしたらあっさり追い付かれて・・・その後魔人に襲われて、俺が魔人に・・・なった疑問が湧いたんだよな、そして俺は姫様に訓練を受ける事になったんだよな。
「・・・ちょっと行ってみるか、流石に二度目は無いだろう。」
俺は泉に向かった。
「ここは相変わらず綺麗だな・・・丁度一週間前、水面から姫様が・・・」
「ぷはっ・・・えっ?」
また、突然女が水面から出て来た、水色の髪では無く赤髪で、その水色の髪の姫様に比べると・・・いや、比べなくても分かる程ペッタンコだったが、俺はデジャブだと思いながら全力で逃げた。
この前とはスタミナもスピードも段違いだ、着替える前に振り切れると確信した。
「ガオオオオオン!!!」
突然咆哮が聞こえるまでは。
「何だ!?」
咆哮が聞こえた方を向くと、世に言うケルベロスの様な巨大生物・・・いや、犬型の魔人がそこにいた。
(迷っている暇は無い、城下町まで逃げて救援を・・・え!?)
突然、足元に何かを感じ、俺は倒れてしまった。
俺は足元を見てみた。
(右足が・・・無い!?)
何故だと俺は思っていると、さっきの赤髪の女が向こうから来た。
「そこの人!助けてくれ!足が・・・無くて動けないんだ!」
俺は助けて貰おうと声を掛けたが、女は何事も無いような顔をしていた。
そして女はこう言った。
「ハァ~?私の水浴び覗いといて何言ってんだコイツ、ずうずうしいにも程がある、それに私、シガサ国立学園の生徒会長だから、その生徒会長にあんな事したらどうなるか分かる?お前なんか一生のさらし者にされるからな。だからさ、そうならない様に、ここで私の身代わりになった方がお前の為だから、それじゃあね。」
女は去って行った。
「なるほど、確かに同感は出来るな、覗きなんかしたら一生の恥さらしだ。うん、仕方ない、ここで死んでも仕方ない、仕方ないね、うんうん・・・」
俺がさも諦めかけた様なセリフを言った後・・・
「ふざけるな・・・・・・・!!!!」
俺は怒りでこう呟いた。
「そんなのはさも被害を受けた様な面している奴の詭弁だ、大義名分の下にただ虐めをする犯罪だ、そんな物は・・・」
犬型の魔人が俺を食べようと顔を近づけて来た。
「この世から消滅させなければならない。」
そして、俺は・・・