一つの出会い
異世界、それは漫画や小説のみに存在する物だ。
それに放り込まれる人間は二種類しかいない。
一つは主人公、もう一つは主人公以外の人間だ。
主人公は必ず巻き込まれる、そして何かしらの能力を得る、何故ならそうならなければ物語が成立しないからだ。
もう一つの主人公以外の人間は、必ずしも巻き込まれたり味方になったりする訳では無い・・・いや、寧ろそうなる事の方が少ない。
俺が何を言いたいのかと言われれば・・・
「他に巻き込まれたりした人や何かしらの能力も無くて超さみしい・・・」
と、言いたいのだ。
俺、舞火赤牙は地球ではどこにでもいる様なやれば出来る子タイプの高校生だ。
とは言っても、そう言うタイプは大抵の場、合やれば出来るのにやらない子なのだ。
何故なら世の中にはパソコン、正式名称パーソナルコンピューターや、ゲームと言ったような高校生が夢中になれる物が溢れているからだ。
俺も夢中になれる物に夢中になっている高校生の一人だ。
そんな俺が突然異世界の、森の中に放り込まれたらどうなるだろうか?
答えは簡単、力尽きて倒れて鳥の餌になるか、街にたどり着き、物乞いになるかの二択しか無い。
何故なら俺にはサバイバルの知識や何かしら秀でた能力も無い。
ましてやチート能力の微塵も宿っていない。
つまり、一人でまともに生きれる方法が何一つ無いのだ。
そんな事分かっている、分かってはいるが俺は森の中を当ても目印も無く歩き回った・・・・・
しばらく歩き回ると、向こうに滝が見えた。
ありがたいと俺は思った。
人間は水を飲まなければ生きていけない。
俺は水を飲もうと滝へ走った。
途中にある木や草を避け、俺は滝の元へと走った。
やがて木や草を抜けると、まるでこの世の物とは思えない程美しい泉があった。
俺は泉に近寄った。
すると泉の水面が揺れた。
俺はワニか何かだと思い後ろに下がった。
やがてその何かが出て来た。
それは、女だった。
綺麗な顔、水色の髪、標準より少しボリュームのある胸、華奢な手足、そして・・・一糸纏わぬ姿・・・
その女は俺と目を合わせた瞬間、顔を耳まで真っ赤にして・・・
「ひゃあぁぁぁぁ!!!!」
と、叫んだ。
俺は逃げた、この場から逃げた。
しかしさっき泉に走る為に体力を使ってしまったため、すぐに足が止まってしまった。
仕方無いので歩く事にした、すると後ろから服を掴まれた。
俺は驚き、後ろを見ると、さっきの女が素早く着替えてそこにいた。
まずい、まだ顔を赤くしている、相当恥ずかしかったのだろう、取りあえず俺は謝罪の言葉を言う事にした。
「「す、すいませんでした!」」
何故か謝罪がハモってしまった。
沈黙が走っている。
ラノベとかではよく見かける展開だが、実際に遭遇するとこの女の様に恥ずかしがって動けなくなるか、火のように怒りボコボコにされるかのどっちかしか無い。
前者で本当に良かった、後者だったら最悪もいい所だ。
それよりこの沈黙を何とかしたい・・・・・
「あの・・・・・」
今度はハモらなくて済んだ。
「・・・何ですか?」
「すいませんでした・・・」
俺は取りあえずもう一回謝った。
「もう気にしないでください、私は・・・その・・・もう気にしてませんので・・・・・」
気にしてない割にはまだ顔が少し赤いが・・・まぁ、もういいだろう。
「あの、あなたは何故この森に?」
世間話か・・・異世界から来たなんて意味が分かるわけないから・・・取りあえず・・・
「単刀直入に言えば、金が無くて当ても無くて森を迷っています。」
助けてくれるのではないかと勝手な期待をしながら、俺はこう言った。
「そうですか、それは大変でしたね・・・・・」
同情だけで終わりかな?俺は死ぬしか無いのかな・・・
「・・・あの、私・・・」
女が何かを言いかけた瞬間、物凄い威圧感を感じた。
何事かと思い周りを見ると、南の空が割れ、そこから何十メートルもある鬼のような化け物が降りて来た。
「何だアレ!」
「付いて来て下さい!」
疲れ切った体に鞭を入れ、俺は全力で走った。
だが、女は俺より遥かに早い、どんどん距離をつけられていく。
俺は内心情けなく思いながら女に付いて行った。
「・・ありました!あれです!」
あれと言われ俺は木の上を見た。
そこには枝に長いロープが巻かれ、ずっと向こうまで続いていた。
「あそこの切り株が見えますか?あれを両手で持ってロープをつたって降りるんです!」
アレは切り株を加工した物だ、二人で捕まって持つのか?
「あの化け物が来ない内に早く登って下さい!」
俺は何も言わず木を登った、そして女は切り株を持った。
「さぁ!早く!」
女はロープが切れる事も考えていない、俺は捕まった方が良い。
「すいません。」
「えっ?」
だが、俺は女の背中を押した。
女は切り株に捕まりながらどんどん下へ降りていく。
「頑張って逃げ切ってくれよ・・・」
そして俺は、木を降り鬼の元へ歩いた。
あの女は俺といると逃げ切る可能性が低くなる。
だから俺が犠牲になる、異世界ライフなんか出来なくて良い、だから歩いた。
やがて鬼が見上げないと上半身すら見えない位置まで近づいた。
鬼が俺の方を見た、一思いに踏み潰してやろうとでも考えたのか。
「・・・!?」
だが、鬼は再び前を向き、足を上げた。
まるで俺を無視したかの様に、俺がいないかのように足を上げた。
その時、俺に殺意が湧いて来た。
無視された、存在を認識しない、それを鬼にされたから殺意が湧いた。
だが、そんな殺意も虚しく俺は・・・・・