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仏師の酒  作者: 小夜
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暦延寺

 雪乃は篁という男から奪った路銀の力で、遂に故郷の紅羽に辿り付くことができた。しかしそこは、彼女の知る故郷とは全く違った風景が広がっていたのである。

 紅羽は元々大きな町ではない。しかしそこにも戦争の傷跡は大きく残っていたのだ。

 大きな軍事関係の拠点が有るわけでもないのだが、今まで数多くの空襲に晒され、かつての建物の面影がないほどに町は破壊されていたのである。

 雪乃はかろうじて彼女の生家跡を見つけることはできたが、そこに彼女の家族の気配は無い。3日ほどそこに留まり家族を探したが、遂に彼女は家族を見つけることができなかった。


 傷心の雪乃はもはや会津まで再び帰る気力は消え失せていた。そこで彼女は近くに尼寺を見つけると住職に頼みこみ、しばらく居候としてそこに滞在させてもらうように頼んだ。

 尼寺の名は暦延寺。

 この寺の尼僧たちは廃仏毀釈の影響が理由か、巫女出身である雪乃の滞在に難色を示したが、住職の寂風は快く承知した。ただし、期間は1ヶ月のみ。それ以上の滞在は許さなかった。


 寂風に本殿に通された雪乃は、そこで鮮やかな彫刻を目にした。

 およそ古い尼寺には不似合いな、見事な鳳凰の彫刻である。

「尼様。これは見事な鳳凰でございますね。」

 雪乃の感嘆の声に、寂風は笑顔で応えた。

「これは旅の仏師がこしらえたものでございます。」

「それは名の有る仏師でございましょう。」

「いえいえ、仏師とは私どもが勝手にそう呼んでいるだけでございます。当の本人は自らを『物乞い』と呼んでおりました。仏師と言っても仏像は造らず、実はあちらこちらの神社仏閣にて、好んで鳳凰をこしらえて回っているのだとおっしゃっておりました。」


 物乞い?

 ふっと雪乃の頭にあの得体の知れない男の顔が浮かんだ。


「差し支えなければ、その仏師のお名前を伺っても?」

「あの方はご自分の名前を申しませんでしたが・・・・・・。」

 しかし寂風はしばらく考え込むと、思い出したように話を続けた。

「そうそう、そう言えば・・・・・。確か鳳凰のお礼にいくらかの路銀と※般若湯をお渡ししたところ、一度だけご自分の名前を明かしたことがありました。」

「それはなんと?」

「確か・・・・、『たかむら』と・・・・。」


 あ〜、やっぱりあの男だよ・・・・・。


 雪乃の心に、なにか後ろめたさが広がった。

 雪乃が奪った銭は、どうやら元々この尼寺のもののようだ。もしそれが事実なら、雪乃はこの寺から銭を奪ったようなものである。

 ふいに無口になった雪乃を見た寂風が、彼女に不思議そうに声をかけた。

「どうかなされましたか?」

 雪乃は慌てて取り繕った。

「いえ・・・。それにしても、その皇という方、何ゆえこのような立派な腕があるにも関わらず、ご自分のことを物乞いと称されるのでしょう。」

「それについて、あの方よりお話を伺ったことがあります・・・・。」


 寂風の話によると、篁は探し物をしているのだと言う。それは、「籠の中の鳥」

 これは彼の祖父から言い伝えられた謎かけであり、その鳥の正体は彼にもわからないらしい。

 ただ篁は長い旅を続けていて、その中で鳥の正体が鳳凰ということに気が付いたらしいのだが、鳳凰は実在しない。

(籠の中にある文字は『龍』 龍と鳥の特徴を兼ね備えるもの、すなわち鳳凰?)

 そこで彼は鳳凰の彫像を寄進しつつ、その答えを探し続けているのだという。

「どうやらあの方の家紋は『籠目紋』のようです。ならば高貴な血筋の御仁かも知れませんが、このような動乱の時代、神仏の救いを求めて旅を続けているというのであれば、それはなんとも崇高で気の毒なことと思いませんか?」



 それから後。雪乃はこの暦延寺でかいがいしく働いた。

 尼寺の寺女として粗末な離れを与えられた彼女は、主に寺の雑用を中心に、精一杯自分のできることを進んでこなしていった。

 最初は他の尼僧たちに疎んじられていた彼女だったが、時間が経ち、その真摯な態度が認められれば次第に情も湧いてくる。

 雪乃は出家して尼僧にならないかとも薦められたが、それは丁重に断っていた。


 しかし、そんなある日の夜の出来事だった。

 彼女の目の前で、思いも寄らぬ出来事が起きてしまったのである。



※般若湯

お酒のこと。

本当は仏教には五戒というのがあって、お酒は禁じられています。

まぁ呑まないから皇にあげちゃったわけで、

歴延寺は俗物には結構理解があるお寺だと思ってください。

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