EP.3-7
「俺はお前の主人をあいつから遠ざけてやったんだ。むしろ感謝するところだろ」
「その後が問題なの。ボクのご主人様を色目で見ないで」
「見てない」
「ヒューイはそんなだから、男色の気があるなんて影で言われるんだよ」
「……心外だ」
騎士団なんて男所帯に属しているのもあってか、そういう気のある者がいることはある程度知っている。しかし自分がそうだとは一言も口にしたことがないし、事実無根だ。
「なんで俺だけそんな陰口言われるハメになるんだよ」
「リュシアンとはしょっちゅうベタベタくっついてるのに、女性と一緒のところは一切見ないからじゃない?」
「そもそも出会うことがないんだから仕方ないだろ。こいつやシンクさんみたいに、向こうから声かけられもしないしな」
「でもアイリからは声かけられてるやん」
「あれは俺を実験台にしたがってるだけだろ……」
「ヒューイってよお見たらカッコええのにな」
リュシアンはヒューイの左目を隠す前髪を払う。弱視な左目がコンプレックスだとは聞いているが、隠してしまうのはもったいない。
「そんな風に言うのはお前くらいだよ」
「いつも仏頂面してるから、話しかけづらいんやろ。女の子がおるところではもっとにこやかーにせな!」
ヒューイの両頬を引っ張ってリュシアンは笑った。
「……ヒューイ」
「俺はなにもしてない」
キャロルが笑顔で威圧してくるが、リュシアンの方から距離を詰めてくるのだから、どうしようもない。
「そんなことより、トラヴィス様とハロルド様が呼んでるよ。たぶん今度行われる剣術大会のことじゃないかな」
「もうそんな時期か」
昨年リュシアンが出場し、突出した強さで他者を寄せ付けないままに優勝を収めたのは記憶に新しい。
「今年も出てほしいみたいだよ」
「えー、あれお遊びみたいなもんやん」
正式な御前試合でもなければ、一般の力自慢も参加できるイベントだ。真剣に強さを競うというよりは祭りに近く、参加者も従騎士や年若い騎士が多い。
「それでも一応国の行事だからな。トラヴィス殿下も無視するわけにはいかないんだろ」
「ヒューイが出たらいいやん」
「却下。どうせ出るなら花のある奴の方がいいだろ」
「それもそうやな!」
(単純な奴……)
そんなくだらない会話を続けていると、複数の足音がした。一瞬ルーファスたちが引き返してきたのかと身構える。
「おい、あれ見ろよ。リュシアンとヒューイだ」
「あの側にいるガキが竜なんだろ? あの金目、見てるだけで気味悪いぜ……」
やってきたのがルーファスでなかったのは幸いだったが、手放しで喜べるほどいい相手でもなかった。煩わしいという本音を隠そうともしない表情で、リュシアンは近づいてきた従騎士たちを睨む。
「お前らを側仕えにするだなんて、トラヴィス殿下も相当ヤバいな」
「そりゃあ王族一の変わり者って有名だしな」
「ああ?」
従騎士の言葉にリュシアンが噛み付く。
「よせ」
ヒューイは従騎士の二人に見覚えがあった。確か二人は騎士学校時代の同期だったはずだ。同期と言っても、飛び級で早々に騎士学校を卒業したリュシアンやヒューイには縁遠い人間であったのだが。ただ当時からリュシアンのことが気に食わなかったらしく、事あるごとに言いがかりをつけられたのを覚えている。
「そんな奴ら、相手にするだけ時間の無駄だ」
「なんだと!?」
「リュシアンに取り入って出世しただけで、たいした力もないくせに出しゃばんじゃねぇよ」
「そうだぜ。その女みてぇな英雄様にハロルド様からどうやって鞍替えさせたんだ? 俺らにも教えろよ」
品性の欠片も感じられない言葉に返事をするのも馬鹿らしい。従騎士たちの下卑た笑いにヒューイは頭を抱えたくなった。
「リュシアン?」
なにも言い返さず異様に静かなのが心配になり、ヒューイはちらりと隣にいるリュシアンの様子を伺う。
「…………」
リュシアンはふらりとヒューイの前に出て従騎士たちと対峙すると、黙ったまま腕を振り上げた。
「待て待て待て無言で殴りかかろうとするな!!」
慌ててヒューイはリュシアンの首根っこを掴む。
「だってあいつらッ」
「な、何だよ。やる気か?」
「駄目だよ、リュシアン。どうしてもって言うなら、ボクが燃やしてあげる」
「頼むから止めてくれ。よけいことが大きくなるだろ!」
「竜族の力を借りないと、何もできないのか? 英雄様って言っても、名前だけだな」
同期でリュシアンの実力を知っているはずなのに、従騎士は臆することなくリュシアンを使嗾するような言葉を使う。
「学生時代の演習でこてんぱんにやられてたくせに、よくそんなことが言えるな」
「俺らもあの頃から修練したからな。今となっちゃあお前らなんか、へでもねぇよ」
「騎士なら騎士らしく、決闘でもなんでもすればいいだろ……そうだな、剣術大会が近いんだしそこで勝負すればいい。大会なら竜族も関係ない、純粋な力比べだ。こいつが本当に名前だけか、そこで身をもって確かめるんだな」
「おれらとお前ら、どっちが強いか剣術大会で教えたるわ!」
リュシアンはヒューイの腕を引っ張り、大声で啖呵をきった。
「望むところだ!」
「なんで俺まで……」
チーム戦でもないのに、とヒューイはごちる。
「出ろ。でもっておれ以外の奴に負けるんは許さん」
「無茶言うなよ」
剣は専門外だという主張も無視され、思わぬ形で巻き込まれてしまったヒューイはがっくりと肩を落とした。




