EP.2-7
「ヒューイ、ボクちゃんとリュシアンの面倒見ててって言ったよね?」
「見てたよ。ちゃんと飯も食わせたし。でもなぁ、さすがに四六時中この破天荒な奴を監視するのは不可能だ。文句なら勝手に怪我してきた本人に言ってくれ」
「それもそうだね。あ、でも次はないから」
自分より年下に見えるこの竜族の少年の笑顔は、どうしてこうも恐ろしいのだろうか。ヒューイは乾いた笑いしか出なかった。
「リュシアン」
キャロルに名前を呼ばれて、自宅にも関わらず床に正座していたリュシアンは、さらにしゅんと縮こまった。
「それでボクがいない間、一体何をしたらそうなるのかな?」
「ちょおっと人助けを……」
「誰を助けたの?」
「…………メル・カディック」
「馬鹿じゃないの?」
「軽率でした」
「まったく……」
キャロルは呆れたと言わんばかりのため息をついて、リュシアンの頭部の傷に手を近づける。その手がぼんやりとオレンジ色の光を放つと、リュシアンは頭に巻かれていた包帯を外した。先ほど医者に診てもらった箇所に手を触れても、そこには何もなかった。まるではじめから怪我なんてしなかったかのように、傷口は綺麗さっぱり消えている。
「ほんと、手のかかるご主人様だよね」
「なぁ、キャロル。その治癒術って」
「リュシアン以外の人間には使わないよ」
「……はい」
「この治癒術は術者の寿命を削ってるって、リュシアンも知ってるでしょ? いくら竜族の寿命が人間の何倍も長いからって、リュシアン以外の人間の為に自分の命を削るなんてしたくないよ」
「……うん、ごめん」
キャロルだけではなく、誰しも見ず知らずの人間の為に寿命を縮めたくはないだろう。軽々しく頼むものではなかった。キャロルへの配慮が足りなかったと、リュシアンは聞いたことを後悔した。
「患者の自己治癒力を高めて治す方法もあるけど、それだと患者の寿命を削る。その子まだ子供でしょ? だったら、自然に治るのを待つ方がいい。殺しちゃうなら寿命なんて気にする必要ないけどね」
「そ、そんなこと……」
「しないの? 子供だから? 母親に虐待されてて可哀想だから? ルーファスの息子だよ?」
「容赦ないな」
矢継ぎ早に飛ぶ質問にヒューイは率直な感想を呟く。
「ヒューイは黙ってて」
その言葉が癇に障ったのか、キャロルはヒューイを睨みつけた。
「殺さないとは……言ってない」
「でも殺すとも言ってないよね?」
話の主導権は完全にキャロルが握っていた。これではどちらが主人か分かったものじゃない。
「ねぇ、リュシアン。ボクが何でこんな問い詰めるような真似してるか分かる? 仲良くなって情が移って、復讐もできなければ、完全に諦めることもできなくて、身動きが取れなくなる。ボクはそれを心配してるんだよ。リュシアンはそれまで仲良くしてた子供の目の前で、その子の親を手にかけれるの? その子供を復讐の為に利用できるの? その時になって、自分の首を絞めることになるんじゃないの?」
「そんなことはない。ずっと……ずっとあの男に復讐する為だけに生きてきたんだ。今さら、そんなことで惑わされたりはしない。いざとなったら、メルを利用してでも……」
「……そう、ちゃんと覚悟してるなら止めないよ。リュシアンの好きにすればいい。意地悪なこと言ってごめんね」
納得したのか、キャロルは問い詰めるのを止め、リュシアンの頭を撫でた。リュシアンは俯き加減でぼんやりと床を見つめたまま動かない。
(相当効いてるな……)
誰に叱られても大抵はけろっとしているリュシアンだが、キャロルのお説教はかなり堪えたようだ。
「ヒューイ、もう帰っていいよ。ていうか、さっさと帰ればよかったのに」
「言われなくても帰るよ」
ヒューイはせめてもの慰めにと、リュシアンの背中をぽんと叩いてから、寮への帰路についた。




