EP.2-6
「あのさ、メル坊。いい加減泣き止んでくれん?」
「ぐすっ……ごめ、なさい……ッ」
「おれ別に怒ってないし。ほら、怪我も大したことなくて大丈夫やから。な?」
泣きながら何度も繰り返し謝るメルに、リュシアンは頭を抱えたくなる。
「あー……どうしたもんかな」
止血するのが遅れたせいか、頭に置物が落下した衝撃のせいか、ふらふらして考えがまとまらない。
(メル坊の母親と、ちょっと長いこと喋りすぎたかな……)
とりあえず、あれからメルの母親を何とか説得して、メルの自室まで来ることはできた。背中を強打していたメルの手当てもした。医者に診せなければならない程ではなかったのは幸いだった。
それから自分の怪我の止血もしたし、メルが泣きじゃくりながらも頭に包帯を巻いてくれた。下手なりに一生懸命手当てしてくれたことは分かるので、包帯が緩くて既に解けかかっているのはご愛嬌だろう。今できることは一応これで全て終わっているはずだ。
しかし、どういうことか、メルが一向に泣き止む気配がない。「どこか痛いのか?」と聞いても、首を振ってただ謝るばかり。
どうすれば泣き止んでくれる?
リュシアンは思考の回らない頭で、必死に考えた。
「分かった! もう好きなだけ泣け! おれの胸貸したろ」
ベッドの上にへたり込んだまま嗚咽をもらすメルの腕を掴み、自分の方へと引き寄せた。
「え、何でそこで泣き止むねん……」
突然引っ張られ抱きしめられたメルは、驚きのあまり固まっている。
「おれの腕の中で泣けるなんて、そこら辺の貴族のお嬢様方が知ったら、めっちゃ羨ましがられるで」
そうへらへらと笑いながら、メルの優しく背中を摩った。リュシアンに身体を預けていると、何故だか安心できた。気持ちが落ち着くと、驚きで一度止まったはずの涙が再び溢れてくる。
「……っ」
リュシアンはメルを抱きしめたまま、深く息を吐いた。我ながら面倒なことに手を出してしまったなと思った。これからどうしようか。
まとまらないながらにぼんやり思案を巡らせていると、昨日と同じように一定の間隔で扉を叩く音がした。
「失礼致します、リュシアン様に……お、お待ち下さい!」
「リュシアン! お前怪我したって本当か?」
「あ、ヒューイや」
メイドの制止を無視して部屋に入ってきたのは、血相を変えたヒューイだった。
「大丈夫、大丈夫、メル坊は医者に診せなあかん程の怪我せんかったから」
「そっちがよくても、お前は大丈夫じゃないだろ! お前、今顔真っ青だぞ」
「えー? あー、通りでフラつくと思ったわ。でもまぁキャロルも今晩には帰ってくるはずやし、大したこと」
「医者に診せにいくぞ」
「待てやヒューイ! まだメル坊が」
「お前に倒れられたら不味いんだよ! 続きは完全に治ってからにしろ」
問答無用でリュシアンを自分の肩に担ぐと、ヒューイは急いで部屋を出て行った。
「は、ちょ、メ、メル坊! あした」
そこから先もリュシアンは何か喚いていたが、何を言っているのかメルの耳には届かなかった。
「…………」
「メ、メル様……申し訳ございません。失礼致します!」
その場に残されたメイドは気まずそうにそう言うと、足早に部屋を立ち去ってしまう。
メルはベッドに倒れこんだ。
リュシアンは何を言っていたのだろう。もっと一緒にいたかったのに。昨日もそして今日もリュシアンを連れて行ってしまったヒューイが憎い。そして、羨ましい。
「僕も騎士になったら……」
騎士になればリュシアンの側にずっといられるのだろうか。その為には強くないといけない。そして、強くなればきっと両親の役にも立つ。褒めてもらえる。
「強く……なりたいな」




