『壱の噺:中学入学』
オレは中学に入学すると、登校する道のりが大幅に長くなった。
片道3km毎日歩かなくてはならない。校則で、自転車登校は禁止だった。
なので、毎朝歩いて学校まで行った。
道のりが長い分色んな所を通って行く。
その中でも、毎年初詣をしている八幡朝見神社の境内を
シュートカットしていくルートになっていた。
この朝見神社には、参道の敷石にひょうたんと盃の形をした石があり、
それを踏むと、縁起がいいという言い伝えがある。
なので、登下校時はいつもその石を踏んで歩くようにしている。
それに八幡様なので、多紀理ちゃんに通じてるという思いもあった。
妖怪のすねこすりのコスリン(名前をつけてしまった)も、毎日学校についてきた。
妖怪だけに、朝見神社だけは通れず、迂回していた。
中学は8クラスあり2組になった。
小学校時代の友達もちらほらといる。
そんな中、クラスメイトがオレの顔に、油性マジックで落書きをした。
仕返しに油性ペンを振った手はクラスメイトの、シャツに付いた。
昼休み、そのクラスメイト数人に連れ出され、ドッチボールと称して
オレにだけ、ボールを当てだした。
オレはなされるがままになっていた。
しかし、ボールが当たる寸前にボールが跳ね返されている。
少しも痛くない?
よくよく見ると、ボールが当たる寸前に、コスリンがボールに触っている。
(ボールがこけてるんだ)
と思うと笑いがこみ上げてきた。
でも、ここで笑うわけにはいかない。
チャイムがなって、「このくらいで勘弁してちゃる。」
と引き上げていった後、オレは笑い転げた。
「コスリンありがとう。あいつらの捨てゼリフ聞いた?」
コスリンが、うんうんと頷く。
「当たってないのにな。」
追撃のイジメもなく、この事態はそのまま収束した。
その日、帰り着くと、シャツに書いたヤツの家に行き、謝らせられたが相手は出てこず、
向こうの母親が対応した。
向こうの母親も理由も聞かず、謝罪を受け入れるだけだった。
(子も子なら、親も親だな)と思った。
相手方は無論、謝罪には来なかった。
家に帰り、コスリンを抱くと、「ありがとな」と呟き抱きしめた。