1話
病院編です。
しばらく待っていると、看護士さんが部屋に入ってきた。
白衣が眩しいです。
「大丈夫ですか~。今先生が来るので、ちょっとまっててくださいね」
間延びした落ち着いた声で話しかけてくる。
それを聞きつつ、看護婦さんと一緒に目に入ってきた、自分の腕を見た。
そこには、点滴注射がされていた。
さっきは全然気がつかなかったが、俺は点滴されるほどの重症だったのだろうか。
看護婦さんが後ろを向いてドアを確認してるので、俺は声をかけようとした。
…でも声は出なかった。
僅かにかすれた声らしきものが聞こえたが、それだけだった。
しかし看護婦さんは振り向いてこちらを見てくれた。
「もうちょっとで先生来ますので、安静にしててくださいね。何しろあなたは原因不明の高熱で、三日三晩寝込んでたんですから」
おお、看護婦さんの説明口調があざとい感じでいいです。
三日三晩とか、まさか俺がこんな台詞を言われるなんて、不思議な感じだ。
そしてしばらく考えに耽っていると、いつの間にかお医者さんが来ていた。
俺の手をとり、脈を診ているのだろうか。
「熱は引いたようですね。お体の調子はいかがですか?なにか不具合があったら教えてください」
その言葉を聞き、俺はかすれた声を出した。
『お腹が空きました』
一応言葉は伝わったらしく、看護婦さんとお医者さん両方が笑っていた。
「もうすぐお昼の時間ですから、もう少しお待ちください。といっても三日なにも食べてませんので、軽いものになりますけどね」
お医者さんは笑いながら頷き、「もう大丈夫みたいですね」と言って、病室を後にした。
残った看護婦さんに、苦労しながら点滴のことを聞くと、一応終わるまでそのままで居てくださいのとことだった。あと30分くらいらしい。
お昼ごはんと交替で取ってくれる様だった。
俺はがりがりに痩せた腕をみて、「三日か~」と呟いた。
お昼が来た。
ついさっき点滴を外してもらったときに開いたドアから、匂いがここまで漂ってくる。
廊下ではカラカラと音がしている。
そして待ちわびたドアが開いた。看護士さんか、よく分からないが、男の人がお昼ご飯を持ってきてくれた。
「どうぞゆっくり食べてくださいね」
一言言って、男の人は去っていった。もう看護士さんでいいや。
今はたしか男の人も女の人も看護士さんって言うって聞いたことがある。
でも俺的には、女の人は看護婦さんって言いたい。
いいよね~、看護婦さん。
だから男は看護士さんで十分だ。
誰彼無く思ってみた。
お昼ご飯は瞬く間に終わってしまった。
少ない。少なすぎる。
俺は独りごちた。
さっきからお腹がうるさい。
もっと寄こせと叫んでいる。
俺は我慢が出来ずに棚を見た。そこにはなにも無い。有る物といえば、水差しぐらい…
なんか置いておけよな~と恨めしく思いつつ、ちょっと離れた冷蔵庫を見た。
今現在の体調ならば、起きても問題ないと思われる。
そう考えて、布団を上げ、足の方に寄せ、上半身を起こした。
そして俺は違和感を覚える。
まず髪の毛だ。なぜか異様に長い。俺は髪は確かに短髪だった筈である。たった三日放置したからと言って、こんなに伸びるわけがない。
次に胸。大きい…
ここに至って、俺は初めて気がついた。
さっきまでは空腹で遮られていた感覚が戻ってきたのだ。
白魚の様な細い指…とでも言えば良いのか。それに綺麗にそろった爪。
痩せたと思っていた腕は、瑞々しい健康的な腕に見える。
顔もオカシイ。俺は眼鏡を愛用していた筈で、コンタクトなんて、一回つけたら、もう懲りた。
だから裸眼で見えるのはオカシイ。
手で触ってみても、眼鏡の形跡は見当たらず。
そしてついに、俺は股間に手を伸ばした。
なかった…
まだまだ病院ターンは続きます。